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初恋の予感編
episode267
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キュッリッキの言葉に、皆がハッとなる。
「そりゃ、あの怪物の…」
ギャリーの言葉が言い淀む。
キュッリッキはギャリーを見て、ゆるゆると首を横に振る。
「もう大丈夫だから」
怪物との一件で、トラウマになっているかもしれない。怪物のことには触れないようにしようと、アジトを出る前にみんなで決めてきた。しかしそれは、無用な心配のようだった。
「ザカリーは遠隔射撃のスペシャリストでしょ、あんなデカイ怪物相手に至近距離で攻撃することはないし、離れていれば逃げられる。それに追いつかれる前に、みんなが足止めするはずだもん。だからザカリーが怪我したってことは、アルカネットさんしかいないよ」
ギャリーが嘘をついていると気づいたのは、イソラの町にいたときだ。
アルカネットの殺意は本物であり、キュッリッキが必死に言っても、殺意を引っ込めようとはしなかった。
薬を飲まされたためそのあとのことは何も知らないが、ザカリーは怪我をしていると言ったギャリーの表情が、どこかやるせなさを滲ませていた。それを見たとき、ザカリーの怪我はアルカネットのしたことだと確信したのだ。
「アタシが心配しないように、みんなで気を遣ってくれたんだよね」
気遣いは本当に嬉しかったが、そのことがより、キュッリッキの気持ちを重くさせた。
もともとそういうことには勘が働きやすく、またよく当たる。
アルカネットがしたことは良くないことだが、責めることは出来なかった。自分を思ってしたことだ。そしてザカリーに対しては、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんね、ザカリー」
(おまえが謝ることじゃないだろ!!)
ザカリーは思わずムキになって怒鳴る。
「アタシがいけないの。本当のこと話せないから。まだ、話せないから…」
ザカリーとの間に溝を作った、種族とコンプレックスのことを。
「気持ちの整理がついたら、ちゃんと話すから。みんなにもちゃんと話すから。だからもうちょっと、時間をちょうだい……」
泣きそうになるのを懸命に堪えた。こんなときベルトルドやアルカネットがいれば、思い切り泣けただろう。でも、いまは堪えなくてはならなかった。
室内が静かになる。みんな黙って、キュッリッキの様子を見守った。
「……話の腰を折るようだけどよ、ちょっと質問いいか、キューリ」
「うん、なに?」
遠慮がちに口を開いたギャリーに、キュッリッキが顔を向ける。
「おまえあの神殿をずいぶん怖がってただろ。あの怪物が現れたり神殿の構造が変わっちまうって、知ってたのか? それで怖かったのか?」
「ああ…そういえば、キューリさんの怯え方は尋常じゃなかったですね」
ブルニタルが記憶をたどるように呟く。
「んーん、アタシはなにも知らなかったよ。中に入ったらいきなり凄い揺れて、神殿の中が一瞬で迷路みたいになっちゃったし、急に目の前にあの怪物が現れたの」
今でも思い出すと、ゾッとする姿の大きな怪物。
「なんかものすごく、怖い感じが神殿からしてたの。足がすくんじゃうくらい怖い気配みたいなもの。近寄っちゃいけない、危ないよって。そんな気がしてて」
「じゃあ、具体的なことは判らずだったんだな」
「うん」
「そりゃ、あの怪物の…」
ギャリーの言葉が言い淀む。
キュッリッキはギャリーを見て、ゆるゆると首を横に振る。
「もう大丈夫だから」
怪物との一件で、トラウマになっているかもしれない。怪物のことには触れないようにしようと、アジトを出る前にみんなで決めてきた。しかしそれは、無用な心配のようだった。
「ザカリーは遠隔射撃のスペシャリストでしょ、あんなデカイ怪物相手に至近距離で攻撃することはないし、離れていれば逃げられる。それに追いつかれる前に、みんなが足止めするはずだもん。だからザカリーが怪我したってことは、アルカネットさんしかいないよ」
ギャリーが嘘をついていると気づいたのは、イソラの町にいたときだ。
アルカネットの殺意は本物であり、キュッリッキが必死に言っても、殺意を引っ込めようとはしなかった。
薬を飲まされたためそのあとのことは何も知らないが、ザカリーは怪我をしていると言ったギャリーの表情が、どこかやるせなさを滲ませていた。それを見たとき、ザカリーの怪我はアルカネットのしたことだと確信したのだ。
「アタシが心配しないように、みんなで気を遣ってくれたんだよね」
気遣いは本当に嬉しかったが、そのことがより、キュッリッキの気持ちを重くさせた。
もともとそういうことには勘が働きやすく、またよく当たる。
アルカネットがしたことは良くないことだが、責めることは出来なかった。自分を思ってしたことだ。そしてザカリーに対しては、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんね、ザカリー」
(おまえが謝ることじゃないだろ!!)
ザカリーは思わずムキになって怒鳴る。
「アタシがいけないの。本当のこと話せないから。まだ、話せないから…」
ザカリーとの間に溝を作った、種族とコンプレックスのことを。
「気持ちの整理がついたら、ちゃんと話すから。みんなにもちゃんと話すから。だからもうちょっと、時間をちょうだい……」
泣きそうになるのを懸命に堪えた。こんなときベルトルドやアルカネットがいれば、思い切り泣けただろう。でも、いまは堪えなくてはならなかった。
室内が静かになる。みんな黙って、キュッリッキの様子を見守った。
「……話の腰を折るようだけどよ、ちょっと質問いいか、キューリ」
「うん、なに?」
遠慮がちに口を開いたギャリーに、キュッリッキが顔を向ける。
「おまえあの神殿をずいぶん怖がってただろ。あの怪物が現れたり神殿の構造が変わっちまうって、知ってたのか? それで怖かったのか?」
「ああ…そういえば、キューリさんの怯え方は尋常じゃなかったですね」
ブルニタルが記憶をたどるように呟く。
「んーん、アタシはなにも知らなかったよ。中に入ったらいきなり凄い揺れて、神殿の中が一瞬で迷路みたいになっちゃったし、急に目の前にあの怪物が現れたの」
今でも思い出すと、ゾッとする姿の大きな怪物。
「なんかものすごく、怖い感じが神殿からしてたの。足がすくんじゃうくらい怖い気配みたいなもの。近寄っちゃいけない、危ないよって。そんな気がしてて」
「じゃあ、具体的なことは判らずだったんだな」
「うん」
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