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初恋の予感編
episode262
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「キュッリッキちゃんが見舞いに来たって知って、子供みたいに悔しがってたよ。ぷんぷん拗ねちゃってさ」
「あははー。やっぱりネー」
見舞いに出かけた翌日、診察に来たヴィヒトリが、昨夜のベルトルドの様子を披露して、ルーファスは大笑いである。そんな2人の会話を聞きながら、キュッリッキは必死に朝ごはんを食べていた。
「というわけで、熱もすっかり下がって元気だよ」
(よかったの…)
キュッリッキはホッと胸を撫で下ろす。
あんなにぐったりした姿は初めて見たので、元気になったと聞いて心底安堵する。
「キュッリッキちゃんの怪我もだいぶ良いし、閣下もそろそろ退院だから、周りも一安心ってところだね」
「ウンウン」
「そいえば、今日はメルヴィン居なくない?」
「用事があって出かけてる」
「ふーん。キミが朝から顔を出してるから、珍しいなと思ってネ」
「たまにいるじゃない。まあ、メルヴィン出かけるの決まってたから、深夜のデートは控えたってわけ」
「ほぼ毎日やってるの? タフだね」
ヴィヒトリは呆れたように言って立ち上がった。そしてキュッリッキの頭を撫で撫でする。
「朝ごはん全部食べたね。いい子いい子」
「うん、頑張ったの…」
キュッリッキは苦しそうに、小さくゲップした。それを苦笑しながら見て、ルーファスはトレイを下げる。
「んじゃ、ボクは病院へ行くね。また明日、見送りはいいよ」
ヒラヒラ手を振って、ヴィヒトリはスタスタと部屋を出て行った。
「横になる? キューリちゃん」
「ううん、このままでいい」
「じゃあオレ、食器片してくるね」
「うん、ありがとう」
朝ごはんという名の拷問が終わり、キュッリッキは疲れたように身を沈めた。
コンコン、とドアをノックする音がして、セヴェリが素早くドアを開ける。化粧もバッチリのリュリュが顔を見せた。
「おはようベル、調子はどうなのン?」
紅茶を飲んでいた手を止め、ベルトルドは「おう」と無愛想な声を出した。
「昨日熱を出したって聞いて、心配してたのよ。忙しくて来れなかったけど、もう大丈夫そうね」
「ああ、今はもう何ともない」
「それは良かったわ。でも、なんだかご機嫌ナナメなようね。何かあったのん?」
ベルトルドはムスっとさせた顔を、更にぶすぅっとさせる。
「俺がいないのをいいことに、アルカネットのやつが、リッキーに悪さしていた」
「どんな?」
「睡眠薬飲ませて、キスしたり身体を舐め回してたり、俺が阻止しなかったら最後までヤッってたぞあいつ!」
ふぬぅーっと喚いて、ベルトルドは拳を握り締めた。
「まったく、しょうのない子ね、アルカネットも」
リュリュは額に片手をあてて、呆れたように溜息をついた。
「もうおちおち寝てられん! 即刻退院するぞ退院!」
ベッドの上に立ち上がり、ビシッとセヴェリを指差す。
「退院の手続きをして来いセヴェリ! 今すぐに!」
「それはいけません、旦那様」
「そうよ、ベル。いい子だから落ち着きなさいな」
「これが落ち着いていられるか!」
リュリュは「はぁ…」と息を吐き、スクッと立ち上がる。
「病人だと思ってガマンしてあげてたけどぉ、これだけ元気だもの、暴れん棒もさぞかし元気いっぱいでしょーネ?」
ハッとしてベルトルドは硬直する。リュリュを見ると、肉厚の唇をすぼめ、人差し指をくわえこみ、股間を見つめていた。
「わたくしめは、トイレへ行ってまいります」
セヴェリは優雅に一礼すると、さっさと病室を出て行った。
じゅるり、と舌を舐めずる音がして、ベルトルドは乙女のように身構える。
「お・し・お・き・ヨ」
「いやあああああっ」
要人病棟に、ベルトルドの悲鳴が虚しく轟いた。
「あははー。やっぱりネー」
見舞いに出かけた翌日、診察に来たヴィヒトリが、昨夜のベルトルドの様子を披露して、ルーファスは大笑いである。そんな2人の会話を聞きながら、キュッリッキは必死に朝ごはんを食べていた。
「というわけで、熱もすっかり下がって元気だよ」
(よかったの…)
キュッリッキはホッと胸を撫で下ろす。
あんなにぐったりした姿は初めて見たので、元気になったと聞いて心底安堵する。
「キュッリッキちゃんの怪我もだいぶ良いし、閣下もそろそろ退院だから、周りも一安心ってところだね」
「ウンウン」
「そいえば、今日はメルヴィン居なくない?」
「用事があって出かけてる」
「ふーん。キミが朝から顔を出してるから、珍しいなと思ってネ」
「たまにいるじゃない。まあ、メルヴィン出かけるの決まってたから、深夜のデートは控えたってわけ」
「ほぼ毎日やってるの? タフだね」
ヴィヒトリは呆れたように言って立ち上がった。そしてキュッリッキの頭を撫で撫でする。
「朝ごはん全部食べたね。いい子いい子」
「うん、頑張ったの…」
キュッリッキは苦しそうに、小さくゲップした。それを苦笑しながら見て、ルーファスはトレイを下げる。
「んじゃ、ボクは病院へ行くね。また明日、見送りはいいよ」
ヒラヒラ手を振って、ヴィヒトリはスタスタと部屋を出て行った。
「横になる? キューリちゃん」
「ううん、このままでいい」
「じゃあオレ、食器片してくるね」
「うん、ありがとう」
朝ごはんという名の拷問が終わり、キュッリッキは疲れたように身を沈めた。
コンコン、とドアをノックする音がして、セヴェリが素早くドアを開ける。化粧もバッチリのリュリュが顔を見せた。
「おはようベル、調子はどうなのン?」
紅茶を飲んでいた手を止め、ベルトルドは「おう」と無愛想な声を出した。
「昨日熱を出したって聞いて、心配してたのよ。忙しくて来れなかったけど、もう大丈夫そうね」
「ああ、今はもう何ともない」
「それは良かったわ。でも、なんだかご機嫌ナナメなようね。何かあったのん?」
ベルトルドはムスっとさせた顔を、更にぶすぅっとさせる。
「俺がいないのをいいことに、アルカネットのやつが、リッキーに悪さしていた」
「どんな?」
「睡眠薬飲ませて、キスしたり身体を舐め回してたり、俺が阻止しなかったら最後までヤッってたぞあいつ!」
ふぬぅーっと喚いて、ベルトルドは拳を握り締めた。
「まったく、しょうのない子ね、アルカネットも」
リュリュは額に片手をあてて、呆れたように溜息をついた。
「もうおちおち寝てられん! 即刻退院するぞ退院!」
ベッドの上に立ち上がり、ビシッとセヴェリを指差す。
「退院の手続きをして来いセヴェリ! 今すぐに!」
「それはいけません、旦那様」
「そうよ、ベル。いい子だから落ち着きなさいな」
「これが落ち着いていられるか!」
リュリュは「はぁ…」と息を吐き、スクッと立ち上がる。
「病人だと思ってガマンしてあげてたけどぉ、これだけ元気だもの、暴れん棒もさぞかし元気いっぱいでしょーネ?」
ハッとしてベルトルドは硬直する。リュリュを見ると、肉厚の唇をすぼめ、人差し指をくわえこみ、股間を見つめていた。
「わたくしめは、トイレへ行ってまいります」
セヴェリは優雅に一礼すると、さっさと病室を出て行った。
じゅるり、と舌を舐めずる音がして、ベルトルドは乙女のように身構える。
「お・し・お・き・ヨ」
「いやあああああっ」
要人病棟に、ベルトルドの悲鳴が虚しく轟いた。
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