片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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初恋の予感編

episode260

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 肘枕をしてキュッリッキのほうへ身体を向けて、横になっているアルカネットは、緩慢な動作で、そっと彼女の頭を何度も何度も撫でていた。

(愛おしくて、仕方がありません)

 だが、それ以上に心は苛立っていた。

 ベルトルドの見舞いへ出かけたことを、アルカネットは快く思っていない。見舞いなどと大げさなことをしなくても、あと数日で戻ってくる。

(今はここにいないベルトルドなど気にせず、こうしてそばにいる私のことだけを見ていればいいものを)

 キュッリッキに裏切られたような気分に、ずっと苛まれていた。胸のあたりが、ザワザワして落ち着かない。

 頭を撫でる手は顔に移り、線の細い輪郭をなぞるようにして、頬をそっと指で掬うように触れる。

 肉付きは薄いが、柔らかな感触だった。そして、薄い下唇を指先でなぞる。

(本当に、よく似ている)

 キュッリッキを見つめる瞳に、急に寂寥感が漂い始めた。

(髪の色も、顔立ちも、華奢な身体も。違うのは、瞳の色だけ)

 アルカネットは身体を起こすと、キュッリッキの上に被さった。

(誰にも渡さない、汚させない――ベルトルドにも)

 アルカネットは表情を険しくさせると、感情の全てをぶつけるように、キュッリッキの唇を貪った。舌を無理やりねじ込むが、キュッリッキの舌は絡んでこなかった。

 さきほど飲ませたお茶は、強力な睡眠薬だった。茶葉自体に睡眠作用の成分が含まれていて、市場には出回っていない、品種改良で開発されたものだ。

 心を開かせたあの日から、キュッリッキは夜になると、過去の記憶や辛い思い出を夢にみて、荒れる日々が続いた。そのことで精神的に疲れきっている。

 睡眠薬を飲ませて、ゆっくりと休ませるべきだと主張するが、薬漬けに反対するベルトルドとは口論が絶えない。

「心に溜まり続けているものを吐き出させ、過去を受け入れていくしかないんだよ。封じ込め続けていれば、いつかリッキーは壊れてしまう」

 ベルトルドはそう言うが、彼女の過去はあまりにも辛い。

 もっともっと時間をかけて、ゆっくりと向き合えばいいのだ。怪我を治し、身体が回復したあとでも遅くはない。

 それなのに荒療治をさせ続けた結果が、体力や気力の回復に歯止めをかけている。

 ベルトルドが入院した日から、アルカネットは睡眠薬のお茶を飲ませ続けていた。キュッリッキはそれ自体が睡眠薬だとは知りもせず、毎晩飲んでいる。

 今も薬の効果で眠りは深い。

 アルカネットはそっと唇を離すと、上体を起こして馬乗りの姿勢になり、キュッリッキの寝間着の胸元のボタンを、ゆっくりと外し始めた。

 両手で胸元を大きくはだけると、ほっそりした裸身が露わになる。

 視線がすぐに吸い付いたのは、右肩から乳房の上まで無惨に残る傷痕だった。白い肌の中で、一際傷痕が目立つ。

 ヴィヒトリともうひとりの医師によって処置された傷は、数ヶ月もすれば目立たなくなってくるだろうとのことだった。

 見ているだけでも痛々しいその傷痕に、そっと指先で触れる。痛みはもう感じないのだろうか。それとも、まだ痛いのだろうか。

 上体をかがめると、唇で傷痕に触れた。そして肩から乳房に向けて、舌先で傷痕をたどる。一旦動きを止め、膨らみの小さな乳房を掌で優しく愛撫し、再び舌を這わせた。

 キュッリッキの身体から、ほんのりと甘い香りが立ちのぼる。香水などの香りではない、彼女自身が放つ匂いだ。

「こんなにも、優しく、甘やかな香りがするのですか…」
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