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初恋の予感編
episode254
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胃薬を飲んでひと休みした頃、リトヴァと数名のメイドたちが部屋にやってきて、外出のための身支度をしてくれた。
メイドのアリサが、衣装部屋から3着ワンピースを選んで持ってきた。
「どれになさいますか、お嬢様」
「うんと…、この青紫色のがいいかも」
「はい。ではこれにお召かえしましょうね」
リボンとレースをふんだんにあしらった、クラシカルなデザインのワンピース。シルクの肌触りにくすぐったさを感じて、キュッリッキは僅かに目を細めた。
この上に花模様で編まれた、白いレースのケープを着せてもらい、頭には白いリボンを結んでもらう。そして胸元には、パッションフラワーを模した花のコサージュをつけてもらった。
すでに包帯は取り払われていたが、よりほっそりと痩せ細った右腕が隠れるように、ケープがすっぽり覆ってくれていた。
初夏の街にふさわしい外出着だ。一体いつの間に用意したのか、キュッリッキが不思議そうにしていると、
「お嬢様がいつ元気になられてもいいようにと、旦那様とアルカネット様が、これでもかと沢山ご用意してあるんですよ」
キュッリッキの部屋には衣装部屋も隣接してあり、そこに大量にキュッリッキのための衣装が揃えられているという。衣装選びは2人が入念におこなったらしい。
どのくらいあるんだろう、そう思う興味がほんのちょっと、あとはもう衣装部屋を見るのも怖かった。いつも動きやすくカジュアルな服が数着あるレベルの生活を送ってきたので、貴族の令嬢や資産家の娘のような、たくさんの衣装持ちは性に合わなかった。
身支度が整い、ルーファスとメルヴィンが部屋に呼ばれる。
ベッドの上に座り、フェンリルを膝の上に乗せているその姿は、可憐な人形のようだ。あまりの愛らしい姿に、メルヴィンの表情がほころんだ。
「綺麗におめかししてもらったね、キューリちゃん」
ルーファスがにっこりと言うと、はにかんだようにキュッリッキは微笑んだ。
「では行きましょうか、リッキーさん」
そう言ってメルヴィンは、キュッリッキを抱き上げた。
ゴンドラには寝椅子が設えられ、ゆったりできるようにクッションがいくつも置かれていた。そこへキュッリッキを寝かせ、前後にルーファスとメルヴィンが付き添う。
「お嬢様にこれを」
見送りのために出ていたリトヴァが、手にしていた白い帽子を差し出す。ふわりとした柔らかい水色のリボンが巻かれた、つば広の帽子だ。
ルーファスが帽子を受け取り、キュッリッキにかぶせてやる。
「いってらっしゃいませ」
頭を下げた使用人たちに見送られ、ゴンドラが緩やかに滑り出した。
「病院までは、どのくらいかかるの?」
「そうですね、30分くらいでしょうか」
「だな。このスピードじゃあね~」
歩くよりも遅いゴンドラの進みに、ルーファスはうんざりした顔を露骨に出していた。しかし今のキュッリッキの体調を考えれば、このくらいがちょうどいいのかもしれなかった。
「お花、萎れる前に到着すればいいな」
キュッリッキが手にしているのは、青紫色と白色のバラだった。ベルトルド邸の庭に咲いているバラだ。
数は少ないが、大きく綺麗なものを庭師に選んでもらって花束にした。最近フェンリルが全幅の信頼を置いているという、初老の男でカープロという。何故庭師に信頼を? とキュッリッキが尋ねると、秘密なのだそうだ。
ベルトルドが好きな花なら、病室に飾ってあげると、喜ぶだろうとキュッリッキは思った。
メイドのアリサが、衣装部屋から3着ワンピースを選んで持ってきた。
「どれになさいますか、お嬢様」
「うんと…、この青紫色のがいいかも」
「はい。ではこれにお召かえしましょうね」
リボンとレースをふんだんにあしらった、クラシカルなデザインのワンピース。シルクの肌触りにくすぐったさを感じて、キュッリッキは僅かに目を細めた。
この上に花模様で編まれた、白いレースのケープを着せてもらい、頭には白いリボンを結んでもらう。そして胸元には、パッションフラワーを模した花のコサージュをつけてもらった。
すでに包帯は取り払われていたが、よりほっそりと痩せ細った右腕が隠れるように、ケープがすっぽり覆ってくれていた。
初夏の街にふさわしい外出着だ。一体いつの間に用意したのか、キュッリッキが不思議そうにしていると、
「お嬢様がいつ元気になられてもいいようにと、旦那様とアルカネット様が、これでもかと沢山ご用意してあるんですよ」
キュッリッキの部屋には衣装部屋も隣接してあり、そこに大量にキュッリッキのための衣装が揃えられているという。衣装選びは2人が入念におこなったらしい。
どのくらいあるんだろう、そう思う興味がほんのちょっと、あとはもう衣装部屋を見るのも怖かった。いつも動きやすくカジュアルな服が数着あるレベルの生活を送ってきたので、貴族の令嬢や資産家の娘のような、たくさんの衣装持ちは性に合わなかった。
身支度が整い、ルーファスとメルヴィンが部屋に呼ばれる。
ベッドの上に座り、フェンリルを膝の上に乗せているその姿は、可憐な人形のようだ。あまりの愛らしい姿に、メルヴィンの表情がほころんだ。
「綺麗におめかししてもらったね、キューリちゃん」
ルーファスがにっこりと言うと、はにかんだようにキュッリッキは微笑んだ。
「では行きましょうか、リッキーさん」
そう言ってメルヴィンは、キュッリッキを抱き上げた。
ゴンドラには寝椅子が設えられ、ゆったりできるようにクッションがいくつも置かれていた。そこへキュッリッキを寝かせ、前後にルーファスとメルヴィンが付き添う。
「お嬢様にこれを」
見送りのために出ていたリトヴァが、手にしていた白い帽子を差し出す。ふわりとした柔らかい水色のリボンが巻かれた、つば広の帽子だ。
ルーファスが帽子を受け取り、キュッリッキにかぶせてやる。
「いってらっしゃいませ」
頭を下げた使用人たちに見送られ、ゴンドラが緩やかに滑り出した。
「病院までは、どのくらいかかるの?」
「そうですね、30分くらいでしょうか」
「だな。このスピードじゃあね~」
歩くよりも遅いゴンドラの進みに、ルーファスはうんざりした顔を露骨に出していた。しかし今のキュッリッキの体調を考えれば、このくらいがちょうどいいのかもしれなかった。
「お花、萎れる前に到着すればいいな」
キュッリッキが手にしているのは、青紫色と白色のバラだった。ベルトルド邸の庭に咲いているバラだ。
数は少ないが、大きく綺麗なものを庭師に選んでもらって花束にした。最近フェンリルが全幅の信頼を置いているという、初老の男でカープロという。何故庭師に信頼を? とキュッリッキが尋ねると、秘密なのだそうだ。
ベルトルドが好きな花なら、病室に飾ってあげると、喜ぶだろうとキュッリッキは思った。
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