片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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初恋の予感編

episode250

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 愛されたことがなかったキュッリッキが、初めて得た大きな愛。

 ベルトルドからの――一応アルカネットも――大きな愛を、心の底から実感するためには、心の傷を悪化させている、過去の記憶や気持ちが妨げになる。

 愛を知った今だからこそ、心から苦しみを吐き出させ、愛により心の傷を癒しやすい。時間が経てば、苦しみを長引かせるだけだ。

 キュッリッキが救われるためならば、どんなことでも耐える自信があった。

 最初の1週間はそれほどでもなかったが、日増しに疲労感が顔に出るようになって、周りを不安がらせた。とくにベルトルドは連日激務が続き、休日でも出仕して、休む暇もない。唯一身体を休められる夜が潰れるからだ。

 それでついに疲労のピークに達し、病院に担ぎ込まれるという大騒動を引き起こしてしまったのだった。

 ベルトルド自身は倒れようが何だろうが、愛するキュッリッキのためなら苦痛とも感じない。むしろ、もっともっと吐き出させて、心を軽くしてやりたかった。これまでの18年間が、あまりにも辛すぎたのだ。

 心底飽くほど幸せにしてやりたい。嫌になるほど愛してやりたい。しかし気持ちに身体がついてこなかったのは、涙目の無念である。

 普段は思わないことだが、今はほんの少し思う。体力の衰えは、年齢のせいじゃなかろうか、と。

「いやいや、歳のせいじゃないぞ!」

 首を振って弱気を打ち消す。ベルトルドの独り言にセヴェリが顔を向けたが、なんでもないとの主の言葉に頭を下げた。

 サイドテーブルに置かれた薬のトレイを見て、げっそりと溜息をつく。色とりどりの錠剤が、沢山盛られていた。

「リッキーと1週間も会えないとか、薬を飲むより辛いぞ」

 錠剤は喉に詰まるから、大っ嫌いだった。



 せっかく元気が出たと思った矢先に、ベルトルドの入院騒ぎで、キュッリッキの食欲は完全に失せてしまったようだった。

 夕食に付き添っていたメルヴィンは、無理に食事をすすめようとはせず、黙って様子を見守っていた。そこへノックがして、アルカネットとルーファスが姿を現した。

 メルヴィンは立ち上がり、椅子をアルカネットに譲る。

「ただいまリッキーさん。具合はいかがですか?」

 アルカネットの優しい声に、キュッリッキは今にも泣き出しそうな顔を向けた。

「ベルトルドさん入院したって、病気なの? 怪我をしたの? アタシ心配で」

 前のめりになるキュッリッキを、やんわりと押しとどめながら、アルカネットは一層優しく微笑んだ。

「仕事のしすぎで、ただの過労です。おとなしく寝ていれば治るものですよ。まあせっかくなので入院させました。そばにいると邪魔ですしね。そんなに心配することはないのですよ。本人は呆れるくらい元気ですから」

 柔らかな笑みを浮かべるアルカネットの顔を見て、キュッリッキは僅かに肩の力を抜いた。一部の単語にアルカネットの本音が垣間見え、メルヴィンとルーファスは口の端を引きつらせた。

 それでもまだ不安そうなキュッリッキの様子に、アルカネットは立ち上がり、ベッドに座り直した。そしてキュッリッキをそっと抱き寄せる。

「本当に大丈夫ですから、安心してください」

 優しく、そっと頭を撫でてやる。キュッリッキは頷いて、アルカネットに身をあずけた。

 アルカネットは微動だにしないメルヴィンとルーファスを振り返る。

「こちらはもういいですよ。おさがりなさい」

「はい。では失礼します。リッキーさん、おやすみなさい」

「また明日ね、キューリちゃん」

「おやすみ、メルヴィン、ルーさん」

 キュッリッキのぎこちない笑みに見送られながら、2人は部屋をあとにした。
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