片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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初恋の予感編

episode249

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「こらセヴェリっ! 主に手を出すとはいい度胸だな、おい!!」

「病院ではおとなしくなさってください旦那様。暴れますと、お身体にも障りますよ」

 小柄な初老の男とは思えぬほどの力で、ベルトルドを悠々と押さえ込んでいる。セヴェリのスキル〈才能〉はサイ《超能力》なのだ。ランクはAAである。

 Overランクとはいえ、体調を崩している今のベルトルドは、セヴェリの力を跳ね除けられないでいた。

 一生懸命ジタバタしていたベルトルドは、やがて呼吸が苦しくなり、暴れるのを諦めた。

「……頼む、胸が苦しいから…もう押すな」

「これは、失礼致しました」

 どこまでも恭しいが、隙を見てベッドから抜け出そうとするベルトルドを、しっかり押さえ込んで放さなかった。

 その様子に満足し、アルカネットは零れるような笑みを浮かべた。

「それではお大事に。明日お見舞いにきますよ。いきましょうかルーファス」

「はい」

 2人が病室を出て行くと、ベルトルドは盛大に口をへの字に曲げて、露骨に鼻息を吐き出した。

 抵抗することを諦めたベルトルドから手をはなすと、セヴェリは持ってきた彼の身の回りのものを、ドレッサーやチェストに仕舞い始めた。

 その様子を退屈そうに眺めながら、ベルトルドはキュッリッキのことを考えていた。

(優しい子だからな、今頃とても心配しているだろう…)

 倒れたことを知らせなければ、仕事で帰れない、と隠すこともできた。普段忙しくしているから、信じるだろう。

(ったくルーのやつ、いらんことをしおって)

 ただでさえ今は、自分のことで精一杯なのだ。

 ベルトルドとアルカネットは、キュッリッキの心を開かせて受け入れたことで、2人に対して彼女は隠し事をしなくてもよくなった。しかし、それで全てが丸く解決したわけではない。

 それまでずっと忘れようと努めてきた、辛い過去や悲しい気持ちを、押し込めていた蓋が開いてしまったことで、キュッリッキは頻繁に夢に見て思い出すことになってしまった。

 更にナルバ山の出来事も加わって、辛い記憶がエスカレートし、とくに夜中の状況は一層酷くなっている。

 過去を夢に見るようになり、夜中に突然目を覚まし、悲鳴をあげたり、泣き喚いたりする。その度にベルトルドとアルカネットは起こされるが、酷い時は悲しみや怒りの感情などが溢れ出し、2人を罵ったり、怪我の治っていない身体を無理に暴れさせたりする。自分の身体を傷つけようとすることもあった。

 必死になだめ落ち着かせようとする2人に、当たり散らしたことに罪悪を感じて、一晩中謝りながら泣きじゃくることもある。

 こんな調子が、2週間ばかり続いた。

 メルヴィンやルーファスから受ける報告の中で、少しずつだが、キュッリッキの様子にも変化が見られてきていた。

 穏やかな表情を、よく見せるようになったという。身構えるところも薄まってきたらしい。

 幼い頃からずっと溜め込んでいたものを吐き出し続けることで、徐々に気持ちが軽くなっていくのだろう。それは喜ばしいことで、出来るだけ吐かせてやりたい。そうすれば、愛をもっと心に強く感じられるだろう。

 怪我を負った身体で、これは酷で辛い荒療治だが、今が絶好の機会だと、ベルトルドは信じていた。
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