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初恋の予感編
episode248
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薬品の臭いと計器を抜かせば、どこかの屋敷の寝室と見まごうばかりの豪奢な一室で、これも贅を尽くした造りのベッドに身を沈めているベルトルドが、眉をしかめて足元のルーファスにきつい視線を向けていた。
「リッキーに喋ってしまったのか、お前は」
「はあ……スンマセ~ン」
病室に入って5分も経たないうちに、いきなり説教を食らったルーファスは、首をすくめたまま頭をさげた。
意識もなく、酸素マスクをあてられ寝ているとばかり思っていたら、想像以上に元気そうだ。内心ちょっとガッカリする。
「心配事を増やしやがって」
「その心配事の原因になっているのは、アナタですよ」
傍らの椅子に座して脚を組んでいるアルカネットを見上げ、バツが悪そうにベルトルドは顔をしかめた。呆れ顔のアルカネットの視線が、チクチクと猛烈に痛い。
ベルトルドは正規軍の演習を視察中に、突然目眩を起こして昏倒した。このところ顔色が悪るかったが、とくに不調を訴えていなかったので周りも安心していた。それだけに、リュリュなど取り乱して大騒ぎし、連絡を受けた軍も行政も、あらゆる部署が騒然となって、半ばパニック状態にまで発展した。
事実上、国政を司り動かしているのは、皇王でも宰相でもなく、副宰相であるベルトルドだ。更に軍の長である総帥の地位も兼任している。皇王が倒れるよりもおおごとだった。
後に、ハーメンリナ全体が戦慄した日だったと、語り草にまでなったのである。
「それでその、大丈夫なんですか?」
控えめにルーファスが問うと、アルカネットが頷いた。
「過労だそうです。寝不足に加えて、仕事が過密状態でしたから。1週間絶対安静とのことなので、このまま入院させます」
「俺はもう大丈夫だ!」
「退院しても更に1週間は、屋敷でおとなしくさせます」
「ひと眠りしたから気分爽快だぞ!!」
「お黙りなさい! 倒れて騒動を起こした張本人が偉そうに言っても、説得力なんて微塵もありません」
「……」
アルカネットに叱られ、不満をブスーっとふくれっ面に貼り付かせ、ベルトルドは黙り込んだ。
親に叱られる子供のようだと、ルーファスはしみじみ思った。昔からこの2人のこうしたやりとりは、見ていて飽きない。
泣く子も黙らせる――泣き止むのを待てないから威圧で泣き止ませる――副宰相と恐れられるベルトルドの、こんなふくれっ面は、滅多に拝めるものじゃないのだ。
笑いが吹き出しそうになるのを必死で堪えていると、アルカネットがスッと立ち上がった。
「私はルーファスと屋敷に戻ります。アナタの世話は、セヴェリに任せますから。――任せましたよ、セヴェリ」
「承りました」
無言で控えていたセヴェリが、恭しく一礼した。
「俺も帰る」
「ダメだと、言ったはずですよ。暫くここで、おとなしく静養しなさい」
「リッキーが一人ぼっちになるだろう」
「私が一緒に居るんですから、一人にはなりません」
フッと笑んだアルカネットの表情(かお)を見て、ベルトルドは直感した。
(俺がいないのをこれ幸いとか思ってる顔だなあれは! 2人きりにさせてなるものか! 阻止してみせる!!)
「――俺も一緒に帰る!!」
今にも跳ね起きそうなベルトルドを、反対側に控えていたセヴェリが、素早く片手で胸を押さえつけた。
「リッキーに喋ってしまったのか、お前は」
「はあ……スンマセ~ン」
病室に入って5分も経たないうちに、いきなり説教を食らったルーファスは、首をすくめたまま頭をさげた。
意識もなく、酸素マスクをあてられ寝ているとばかり思っていたら、想像以上に元気そうだ。内心ちょっとガッカリする。
「心配事を増やしやがって」
「その心配事の原因になっているのは、アナタですよ」
傍らの椅子に座して脚を組んでいるアルカネットを見上げ、バツが悪そうにベルトルドは顔をしかめた。呆れ顔のアルカネットの視線が、チクチクと猛烈に痛い。
ベルトルドは正規軍の演習を視察中に、突然目眩を起こして昏倒した。このところ顔色が悪るかったが、とくに不調を訴えていなかったので周りも安心していた。それだけに、リュリュなど取り乱して大騒ぎし、連絡を受けた軍も行政も、あらゆる部署が騒然となって、半ばパニック状態にまで発展した。
事実上、国政を司り動かしているのは、皇王でも宰相でもなく、副宰相であるベルトルドだ。更に軍の長である総帥の地位も兼任している。皇王が倒れるよりもおおごとだった。
後に、ハーメンリナ全体が戦慄した日だったと、語り草にまでなったのである。
「それでその、大丈夫なんですか?」
控えめにルーファスが問うと、アルカネットが頷いた。
「過労だそうです。寝不足に加えて、仕事が過密状態でしたから。1週間絶対安静とのことなので、このまま入院させます」
「俺はもう大丈夫だ!」
「退院しても更に1週間は、屋敷でおとなしくさせます」
「ひと眠りしたから気分爽快だぞ!!」
「お黙りなさい! 倒れて騒動を起こした張本人が偉そうに言っても、説得力なんて微塵もありません」
「……」
アルカネットに叱られ、不満をブスーっとふくれっ面に貼り付かせ、ベルトルドは黙り込んだ。
親に叱られる子供のようだと、ルーファスはしみじみ思った。昔からこの2人のこうしたやりとりは、見ていて飽きない。
泣く子も黙らせる――泣き止むのを待てないから威圧で泣き止ませる――副宰相と恐れられるベルトルドの、こんなふくれっ面は、滅多に拝めるものじゃないのだ。
笑いが吹き出しそうになるのを必死で堪えていると、アルカネットがスッと立ち上がった。
「私はルーファスと屋敷に戻ります。アナタの世話は、セヴェリに任せますから。――任せましたよ、セヴェリ」
「承りました」
無言で控えていたセヴェリが、恭しく一礼した。
「俺も帰る」
「ダメだと、言ったはずですよ。暫くここで、おとなしく静養しなさい」
「リッキーが一人ぼっちになるだろう」
「私が一緒に居るんですから、一人にはなりません」
フッと笑んだアルカネットの表情(かお)を見て、ベルトルドは直感した。
(俺がいないのをこれ幸いとか思ってる顔だなあれは! 2人きりにさせてなるものか! 阻止してみせる!!)
「――俺も一緒に帰る!!」
今にも跳ね起きそうなベルトルドを、反対側に控えていたセヴェリが、素早く片手で胸を押さえつけた。
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