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初恋の予感編
episode247
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「この青紫色のバラ綺麗だなあ~。1本だけもらっちゃっても、平気かな?」
「リッキーさんが欲しいなら、全然構わないと思いますよ」
ここにあるバラ全部欲しい、と言っても、あの2人なら反対することは絶対ない。そうメルヴィンは確信していた。
「えへへ、じゃあ1本だけ」
キュッリッキは半分咲きかけた花を選び、ポキッと少し長めに茎を折った。
キリッとした美しい輪郭は、どこか、ベルトルドやアルカネットを彷彿とさせる。あの2人には、よく似合う花だなと思った。
「部屋に戻ったら、一輪挿しの花瓶を借りてきますね」
「うん」
暫く庭を散策して屋敷のほうへ戻ってくると、何やら使用人たちが慌ただしく走り回っている姿が、窓ガラス越しに見える。普段静まり返っている屋敷の中が、騒然となっていた。
「なんだろう、なにかあったのかな?」
「うん、みんな走り回ってるね」
2人が不思議そうに首をかしげていると、ルーファスがテラスに出てきて、2人に向けて手を振っていた。
「どうしたんですか?」
キュッリッキを抱いているので走るわけにもいかず、大股でルーファスのところへと寄る。
「ちょーびっくりのニュースだよ! あの傲岸不遜な御仁が、軍の訓練を視察中にぶっ倒れて、病院担ぎ込まれたって! その連絡があって、もう屋敷中大騒ぎだよ」
心配するどころか、興味津々の満面の笑顔でルーファスはまくし立てた。
「――あの人でも、倒れることがあるんですねえ」
複雑な表情を浮かべながら、メルヴィンがしみじみ呟く。病気すら近寄るのを拒みそうなイメージしかないからだ。人間だったんですね、とは心の中で呟く。
キュッリッキの身体が、小刻みに震えだした。手に伝わってくる微かな震えに、メルヴィンは腕の中のキュッリッキを見た。
「ベルトルドさんが、入院って……」
掠れるように言い、それ以上は喉が詰まったように言葉が続かない。顔をこわばらせて俯いた。
「詳しいことは判んないけど、これからセヴェリさんが病院へ行くって言うから、オレ一緒に様子見に行ってくるよ」
着替えやら何やらを、持っていく必要があるのだろう。
「病院のほうで、アルカネットさんも合流するみたい。ベルトルド様がぶっ倒れたんじゃ、行政も軍も大騒ぎだね、これ」
「そうですねえ。皇王や宰相が倒れても、あんまり…ですし」
「国を司ってるのって、ベルトルド様だもんね~、事実上は」
そこへ、メイドの一人がルーファスを呼びに来た。
「セヴェリさん、準備できたのね~」
「しっかり見舞ってきてください。こちらは大丈夫ですから」
「おう、じゃあちょっと行ってくるネ。――あんまり心配するんじゃないよ、キューリちゃん」
ルーファスは明るく笑ってみせて、屋敷の中に駆け込んでいった。
「仔細は判りませんが、きっと大丈夫ですよ。そんなに心配すると、身体に触りますから」
すっかり元気が消え失せてしまったキュッリッキに、メルヴィンは努めて笑顔を向ける。
「部屋に戻りましょうか」
「うん…」
キュッリッキは小さく頷くと、手に握った淡い青紫色のバラの花を、ぎゅっと胸に抱き寄せた。
「リッキーさんが欲しいなら、全然構わないと思いますよ」
ここにあるバラ全部欲しい、と言っても、あの2人なら反対することは絶対ない。そうメルヴィンは確信していた。
「えへへ、じゃあ1本だけ」
キュッリッキは半分咲きかけた花を選び、ポキッと少し長めに茎を折った。
キリッとした美しい輪郭は、どこか、ベルトルドやアルカネットを彷彿とさせる。あの2人には、よく似合う花だなと思った。
「部屋に戻ったら、一輪挿しの花瓶を借りてきますね」
「うん」
暫く庭を散策して屋敷のほうへ戻ってくると、何やら使用人たちが慌ただしく走り回っている姿が、窓ガラス越しに見える。普段静まり返っている屋敷の中が、騒然となっていた。
「なんだろう、なにかあったのかな?」
「うん、みんな走り回ってるね」
2人が不思議そうに首をかしげていると、ルーファスがテラスに出てきて、2人に向けて手を振っていた。
「どうしたんですか?」
キュッリッキを抱いているので走るわけにもいかず、大股でルーファスのところへと寄る。
「ちょーびっくりのニュースだよ! あの傲岸不遜な御仁が、軍の訓練を視察中にぶっ倒れて、病院担ぎ込まれたって! その連絡があって、もう屋敷中大騒ぎだよ」
心配するどころか、興味津々の満面の笑顔でルーファスはまくし立てた。
「――あの人でも、倒れることがあるんですねえ」
複雑な表情を浮かべながら、メルヴィンがしみじみ呟く。病気すら近寄るのを拒みそうなイメージしかないからだ。人間だったんですね、とは心の中で呟く。
キュッリッキの身体が、小刻みに震えだした。手に伝わってくる微かな震えに、メルヴィンは腕の中のキュッリッキを見た。
「ベルトルドさんが、入院って……」
掠れるように言い、それ以上は喉が詰まったように言葉が続かない。顔をこわばらせて俯いた。
「詳しいことは判んないけど、これからセヴェリさんが病院へ行くって言うから、オレ一緒に様子見に行ってくるよ」
着替えやら何やらを、持っていく必要があるのだろう。
「病院のほうで、アルカネットさんも合流するみたい。ベルトルド様がぶっ倒れたんじゃ、行政も軍も大騒ぎだね、これ」
「そうですねえ。皇王や宰相が倒れても、あんまり…ですし」
「国を司ってるのって、ベルトルド様だもんね~、事実上は」
そこへ、メイドの一人がルーファスを呼びに来た。
「セヴェリさん、準備できたのね~」
「しっかり見舞ってきてください。こちらは大丈夫ですから」
「おう、じゃあちょっと行ってくるネ。――あんまり心配するんじゃないよ、キューリちゃん」
ルーファスは明るく笑ってみせて、屋敷の中に駆け込んでいった。
「仔細は判りませんが、きっと大丈夫ですよ。そんなに心配すると、身体に触りますから」
すっかり元気が消え失せてしまったキュッリッキに、メルヴィンは努めて笑顔を向ける。
「部屋に戻りましょうか」
「うん…」
キュッリッキは小さく頷くと、手に握った淡い青紫色のバラの花を、ぎゅっと胸に抱き寄せた。
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