249 / 882
初恋の予感編
episode246
しおりを挟む
「あの山の遺跡で、みんなが助けに来てくれたとき、メルヴィンずっと、アタシの手を握ってくれてたでしょ」
「ええ」
「あったかくて、嬉しかったんだよ」
出血が酷く体温も下がる中で、メルヴィンが握ってくれていた左手に感じる温もりが、とても嬉しかった。安心できた。
「ここにきても、ずっとそばにいてくれてありがとう。だから、メルヴィンには一番に話すから、もうちょっと待っててね」
「そう思っていてくれて、オレのほうが嬉しいですよ。毎日催促するようなことをして、すみませんでした」
心の中にわだかまっていたものが、ほぐれていくような感じがしていた。
血だまりの中で、息も絶え絶えになっているキュッリッキを見たとき、魔法スキル〈才能〉も医療スキル〈才能〉も持たない自身に、心底腹立たしかった。できることは傍にいて、励ますくらいで。今も傍にいることしか出来ないでる。
しかし傍にいることがキュッリッキにとって、少しでも慰めになっているのなら、無駄ではないのだと、メルヴィンは救われた気持ちになっていた。
「少し外の空気を吸いませんか? 天気もいいし、庭のバラが綺麗ですよ」
気持ちを切り替えるように、メルヴィンは明るく言った。
「ベッドから出ても、大丈夫なの?」
「ええ。ヴィヒトリ先生の許可は、もらっていますから」
パッとキュッリッキの顔も明るくなった。怪我をしてからずっと、外には出ていないのだ。
「そうなんだ。じゃあ、バラ見たい」
「はい」
傷に触らないように気をつけながら、キュッリッキをそっと抱き上げる。
「うーん、前より更に軽くなりましたねえ。もっと食べないと」
「うっ。だって、動いてないからお腹空かないんだもん」
首をすくめるキュッリッキを見ながら、メルヴィンは苦笑した。
とても華奢な身体だが、極端に軽いのだ。同じ年頃で華奢な体格をした少女でも、もう少し重いはずだ。
キュッリッキがアイオン族であることを知らない。アイオン族は空を翔ぶことができるせいか、肥満とは疎遠な体質の種族である。どんなに食べても太らない。そして、ヴィプネン族と比べると、見た目は似ていても、体重には大きな差があった。
ヴァルトなど身長は2メートル近くあるが、体重は30キロ前後しかない。筋肉も増やすのに苦労をしている有様だ。キュッリッキは20キロ程度しかない。今は殆ど食べないので、ますます体重は減っていた。
メルヴィンはバルコニーに出ると、階段を降りた。
キュッリッキの部屋のバルコニーには、庭に降りるための階段が、特別に付けられているのだ。元からそう造られていたらしい。
「おひさまの光、気持ちいいね。眩しいくらい」
久しぶりの外の空気は、清々しく気持ちが良かった。庭には沢山の緑や花が溢れている。空気がとても澄んでいた。
屋敷同様広い庭の一角にはバラ園があり、全体を真っ白なバラが、包み込むよう咲き誇っていた。その白バラに囲まれ、特別に作らせたと言われる、淡い青紫色のバラも美しく咲いていた。
「アタシね、青い色が大好きなんだけど、ベルトルドさんとアルカネットさんも、青色が大好きなんだって」
「この青紫色のバラも、それで作らせたそうですよ。リトヴァさんから聞きました」
「なんか、お屋敷の中とか、このバラとか、あの2人徹底してるね」
クスッと笑うキュッリッキに、メルヴィンもつられて笑い返す。バラ園の中には、白と青紫色のバラだけで、赤やピンクや黄色のバラはなかった。
「ええ」
「あったかくて、嬉しかったんだよ」
出血が酷く体温も下がる中で、メルヴィンが握ってくれていた左手に感じる温もりが、とても嬉しかった。安心できた。
「ここにきても、ずっとそばにいてくれてありがとう。だから、メルヴィンには一番に話すから、もうちょっと待っててね」
「そう思っていてくれて、オレのほうが嬉しいですよ。毎日催促するようなことをして、すみませんでした」
心の中にわだかまっていたものが、ほぐれていくような感じがしていた。
血だまりの中で、息も絶え絶えになっているキュッリッキを見たとき、魔法スキル〈才能〉も医療スキル〈才能〉も持たない自身に、心底腹立たしかった。できることは傍にいて、励ますくらいで。今も傍にいることしか出来ないでる。
しかし傍にいることがキュッリッキにとって、少しでも慰めになっているのなら、無駄ではないのだと、メルヴィンは救われた気持ちになっていた。
「少し外の空気を吸いませんか? 天気もいいし、庭のバラが綺麗ですよ」
気持ちを切り替えるように、メルヴィンは明るく言った。
「ベッドから出ても、大丈夫なの?」
「ええ。ヴィヒトリ先生の許可は、もらっていますから」
パッとキュッリッキの顔も明るくなった。怪我をしてからずっと、外には出ていないのだ。
「そうなんだ。じゃあ、バラ見たい」
「はい」
傷に触らないように気をつけながら、キュッリッキをそっと抱き上げる。
「うーん、前より更に軽くなりましたねえ。もっと食べないと」
「うっ。だって、動いてないからお腹空かないんだもん」
首をすくめるキュッリッキを見ながら、メルヴィンは苦笑した。
とても華奢な身体だが、極端に軽いのだ。同じ年頃で華奢な体格をした少女でも、もう少し重いはずだ。
キュッリッキがアイオン族であることを知らない。アイオン族は空を翔ぶことができるせいか、肥満とは疎遠な体質の種族である。どんなに食べても太らない。そして、ヴィプネン族と比べると、見た目は似ていても、体重には大きな差があった。
ヴァルトなど身長は2メートル近くあるが、体重は30キロ前後しかない。筋肉も増やすのに苦労をしている有様だ。キュッリッキは20キロ程度しかない。今は殆ど食べないので、ますます体重は減っていた。
メルヴィンはバルコニーに出ると、階段を降りた。
キュッリッキの部屋のバルコニーには、庭に降りるための階段が、特別に付けられているのだ。元からそう造られていたらしい。
「おひさまの光、気持ちいいね。眩しいくらい」
久しぶりの外の空気は、清々しく気持ちが良かった。庭には沢山の緑や花が溢れている。空気がとても澄んでいた。
屋敷同様広い庭の一角にはバラ園があり、全体を真っ白なバラが、包み込むよう咲き誇っていた。その白バラに囲まれ、特別に作らせたと言われる、淡い青紫色のバラも美しく咲いていた。
「アタシね、青い色が大好きなんだけど、ベルトルドさんとアルカネットさんも、青色が大好きなんだって」
「この青紫色のバラも、それで作らせたそうですよ。リトヴァさんから聞きました」
「なんか、お屋敷の中とか、このバラとか、あの2人徹底してるね」
クスッと笑うキュッリッキに、メルヴィンもつられて笑い返す。バラ園の中には、白と青紫色のバラだけで、赤やピンクや黄色のバラはなかった。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる