248 / 882
初恋の予感編
episode245
しおりを挟む
「なんだか怒ってる感じがするから…、ちょっと怖い、かも」
「あ……」
メルヴィンは咄嗟に顔に手をあてると、頬を軽く叩く。
「すみません、考え事をしていたから」
そう言って苦笑を浮かべる。
「考え事?」
「……あなたのことを、考えていました」
「アタシのこと?」
キュッリッキは思わずドキリとした。
何を考えてくれていたんだろう。それを思うと、心が妙にザワザワとして、でも、嬉しさがこみ上げてきた。
目を見張って見つめてくるキュッリッキから目をそらし、メルヴィンは再び膝に視線を落とした。
「もっと、頼ってほしいなと…、思ってるんです」
穏やかな口調だが、どことなく拗ねた響きがある。実際メルヴィンは拗ねていた。
その言葉に、キュッリッキは萎れたように目を伏せた。
毎日のように、遠まわしに問われている。夜中、何があったのかと。
メルヴィンの気持ちは、痛いほど感じている。こんなにも真剣に、心配してくれているのだ。それが判っているのに、本当のことを話す勇気が、まだ出せないでいた。
ベルトルドとアルカネットは、あらかじめ自分のことを知っていた。それでいて、惜しみない愛情を注いでくれる。だから全てを、包み隠さずさらけ出すことができた。
でもメルヴィンは何も知らない。過去のことも、自分がアイオン族であることも。そして、片方しかない翼のことも。
もしこれらのことを話せば、彼はどう思うのだろうか。
ライオン傭兵団の中では、メルヴィンが一番話しやすい。優しくて格好良いし、一緒に居て嫌じゃない。それでも全面的に信用するのは、まだ無理だった。
隠していることを全部打ち明けたら、優しくなくなるかもしれない。そして嫌われるかもしれない。
メルヴィンに嫌われるのは、絶対イヤだった。それで話すことが怖い。そのことがかえって、メルヴィンにはいらぬ心配をかけさせていることも判っているのだ。
(もっとメルヴィンのことが判れば、話すこと出来るの、かな…)
それもあるだろう。しかし、
(嫌われちゃっても、平気でいられるくらい、アタシが強くなれば大丈夫なのかもしれない)
きっと、後者のほうだろうと、キュッリッキの心は判っていた。
人のせいにしないで、自分が強くさえあれば、堂々と話せるはずだ。今すぐには無理だけど。
キュッリッキは左手をシーツの中から出すと、メルヴィンにそっと伸ばした。
自分に伸ばされた細い手に気づいて、そっと両掌で包み込む。この2週間で一回り小さくなった頼りなげな手が、ほのかに温かい。
「アタシね、昔、イヤなことがいっぱいあったの。それをずっと、思い出さないようにしていたのね。でも最近、毎日夢に見て、思い出しちゃって…」
そのことで夜中に泣いたりしているのだと、暗に告げた。
「でね、もうちょっとだけ時間くれる? メルヴィンにもルーさんにも、傭兵団のみんなにも、ちゃんと話すから。話せる勇気が持てたら、絶対に話すから」
必死に言うその顔を見て、メルヴィンは表情を和ませた。
「はい。勇気が出るまで、待っています」
「ありがと」
キュッリッキはホッとしたように微笑んだ。
「あ……」
メルヴィンは咄嗟に顔に手をあてると、頬を軽く叩く。
「すみません、考え事をしていたから」
そう言って苦笑を浮かべる。
「考え事?」
「……あなたのことを、考えていました」
「アタシのこと?」
キュッリッキは思わずドキリとした。
何を考えてくれていたんだろう。それを思うと、心が妙にザワザワとして、でも、嬉しさがこみ上げてきた。
目を見張って見つめてくるキュッリッキから目をそらし、メルヴィンは再び膝に視線を落とした。
「もっと、頼ってほしいなと…、思ってるんです」
穏やかな口調だが、どことなく拗ねた響きがある。実際メルヴィンは拗ねていた。
その言葉に、キュッリッキは萎れたように目を伏せた。
毎日のように、遠まわしに問われている。夜中、何があったのかと。
メルヴィンの気持ちは、痛いほど感じている。こんなにも真剣に、心配してくれているのだ。それが判っているのに、本当のことを話す勇気が、まだ出せないでいた。
ベルトルドとアルカネットは、あらかじめ自分のことを知っていた。それでいて、惜しみない愛情を注いでくれる。だから全てを、包み隠さずさらけ出すことができた。
でもメルヴィンは何も知らない。過去のことも、自分がアイオン族であることも。そして、片方しかない翼のことも。
もしこれらのことを話せば、彼はどう思うのだろうか。
ライオン傭兵団の中では、メルヴィンが一番話しやすい。優しくて格好良いし、一緒に居て嫌じゃない。それでも全面的に信用するのは、まだ無理だった。
隠していることを全部打ち明けたら、優しくなくなるかもしれない。そして嫌われるかもしれない。
メルヴィンに嫌われるのは、絶対イヤだった。それで話すことが怖い。そのことがかえって、メルヴィンにはいらぬ心配をかけさせていることも判っているのだ。
(もっとメルヴィンのことが判れば、話すこと出来るの、かな…)
それもあるだろう。しかし、
(嫌われちゃっても、平気でいられるくらい、アタシが強くなれば大丈夫なのかもしれない)
きっと、後者のほうだろうと、キュッリッキの心は判っていた。
人のせいにしないで、自分が強くさえあれば、堂々と話せるはずだ。今すぐには無理だけど。
キュッリッキは左手をシーツの中から出すと、メルヴィンにそっと伸ばした。
自分に伸ばされた細い手に気づいて、そっと両掌で包み込む。この2週間で一回り小さくなった頼りなげな手が、ほのかに温かい。
「アタシね、昔、イヤなことがいっぱいあったの。それをずっと、思い出さないようにしていたのね。でも最近、毎日夢に見て、思い出しちゃって…」
そのことで夜中に泣いたりしているのだと、暗に告げた。
「でね、もうちょっとだけ時間くれる? メルヴィンにもルーさんにも、傭兵団のみんなにも、ちゃんと話すから。話せる勇気が持てたら、絶対に話すから」
必死に言うその顔を見て、メルヴィンは表情を和ませた。
「はい。勇気が出るまで、待っています」
「ありがと」
キュッリッキはホッとしたように微笑んだ。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる