片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
246 / 882
初恋の予感編

episode243

しおりを挟む
 近いうち大規模に軍を動かすことが予定されていることもあり、正規部隊は頻繁に演習を行っていた。

 軍総帥ともなると、デスクの前に座して、書類だけさばいてればイイというわけにもいかない。その為、総帥の地位を押し付けられてしまったベルトルドは、仕上がり具合を見るべく、演習の視察に出向いていた。

「3年前のヘタレっぷりを見ているからな、あんな腑抜けどもを出陣させるのは気が気じゃない。正式に出撃するまで、まだ日もある。存分に心ゆくまで、トコトン徹底的に、しっかりしごいて仕上げておくように」

 言い含めるように、を通り越し、脅迫するような口調で釘を刺す。

「承りました、閣下」

 にこやかに応じて、ブルーベル将軍は恭しく一礼した。第一正規部隊のエクルース大将と、第二正規部隊のアークラ大将も、同時に敬礼して表情を固くした。

 ベルトルドの言う3年前とは、両大将とも骨身に滲みて判っている。あの場にはアルカネットもいて、2人の鬼神の如き暴れっぷりに、開いた口が塞がらないほど驚いたのである。

 これで3年前より出来が悪かったら、その場で全員粛清されかねないのだ。

「この穀潰しの役立たずどもめがー!!」というベルトルドの怒号が、脳内に幻聴のごとく轟いて、エクルース大将はゲッソリと内心溜息をついていた。指揮する大将たちも、一切手を抜けない。

 Overランクのスキル〈才能〉を持つベルトルドのサイ《超能力》は、正規部隊全てを投入しても易易と退けるだけの力があると言われている。3年前その力の程を散々見せつけられて、しかも本気を出していなかったと言う。本気を出したらと思うと、想像を絶するレベルである。

 そんなベルトルドが仕上げろというのだから、毎日血反吐を撒き散らして、全力で訓練を積まなくては、期待に応えるのは難しいだろう。

「それにしても…、陽射しが強いな」

 空を仰ぎ見て、ベルトルドは目を眇める。額のところに左手を翳して、カンカンと照りつける陽射しを避けた。寝不足の身体には、この陽射しはキツイ。

 皇都イララクス郊外にある、正規部隊の演習場の一つは、だだっ広い荒野があるだけだ。むき出しの地面はヒビ割れ乾いており、そよ風が吹いただけで砂塵が舞う。地平線には陽炎が揺らめいていた。

 もう6月も半ばを過ぎており、本格的な夏は目の前だ。

 足が重く感じられて座りたくなり、仮設テントに戻ろうとした瞬間、不意に身体がグラリと傾いで、目の前に闇が射す。

「いかん、目の前が…」

 呟くように言うと、ベルトルドは突然昏倒してしまった。

「ベル!?」

 ドサッと俯せに倒れたベルトルドに、リュリュは悲鳴を上げた。ブルーベル将軍たちもギョッと目を剥いて、慌てて跪く。

「閣下!」

 ブルーベル将軍がベルトルドを抱き起こしたが、意識を失っており、辺りは一気に騒然となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女 産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。 母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場 捨てる神あれば拾う神あり? 人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。 そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。 主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。 ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。 同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております 追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております

処理中です...