片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode239

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 基礎学校とは、社会で生きていく上で、必須になる知識を無料で教えてくれる学校である。

 運営は国が行っており、国の至るところに開校されていて、年齢も種族も問わず、教わることができた。

 ハワドウレ皇国の辺境にある小さな町で、キュッリッキは基礎学校を見つけた。

 ギルドから受けた仕事で訪れていたが、お使いだったのですぐ終わり、戻る前にちょっと覗いてみたくて足を伸ばした。

 小さな木造の小屋は粗末な柵に敷地を覆われ、小屋の中では子供や大人が、教科書を手に授業を受けている。それを柵の外からキュッリッキは見ていた。

 先ほど役所の受付で、案内やら説明を受けてきたが、今のキュッリッキには学校へ通う金銭的余裕が一切ない。

 半年前に傭兵として正式に認定されて、少ない報酬の仕事をようやく回してもらえている状態だ。

 筆記用具はそれほど高価な品ではなかったが、日々の食費や生活費を、どうにかギリギリ賄える程度しか持ち合わせがないので、筆記用具に費やすお金がないのである。

 まだ10歳のキュッリッキには、沢山の報酬がもらえる仕事は回してもらえない。違法的なものに手を染めればいくらでもあったが、それだけはフェンリルから止められている。もし手を出したら、表社会で生きていけなくなる。そういつも言い含められていた。

 しょんぼりした気持ちで町の中に戻ってくると、雑貨屋からキュッリッキと同い年くらいの少女が、紙袋を胸に押し抱いて出てきた。

「ちゃんとお勉強するんですよ」

 後から出てきたのは、少女の母親だろうか。

「判ってるわ。明日から新しい課題になるから、新しいノートが必要なんだもの」

 楽しそうに笑い、話をする親子を見つめながら、キュッリッキはスカートをギュッと握って下唇を噛んだ。

(大きくなれば、もっといっぱい報酬がもらえる仕事もできるし、学校へも行けるようになるんだもん…)

 今は小さな仕事でも、しっかりこなして信頼を得なければならない。仕事に選り好みはできない。やれるものからやって、お金も貯める。

 いつか、学校へ行けるようになる。だから、今は我慢するのだ。

「……ああ、リッキーの記憶(ゆめ)か」

 ベルトルドとアルカネットは同時に目を覚まし、首を巡らせキュッリッキを見た。

 呼吸は正常だし、うなされてもいない。

 ただ、つうっと涙が一筋、頬を伝っていった。

「リッキーさん…」

 アルカネットは手を伸ばして、キュッリッキの頭を何度も優しく撫でた。

「俺のサイ《超能力》の影響で、お前にも視えてしまったようだな」

「ええ…」

 キュッリッキの見ていた過去の記憶の夢。

 物理的に痛めつけられたものではないが、子供にはとても辛い出来事の一つだっただろう。

「こんな形で心を傷つけられることもあるのだな。一方では当たり前のことでも、リッキーにとっては高嶺の望みだ。家庭教師の件で思い出させてしまったか…。悪いことをした」

「授業が始まれば、この過去の出来事も、苦い思い出の一つとして流せる時が来るでしょう」

「そうだな。――教科書だけじゃなく、筆記用具類もセットで支給するように改正して、予算を組むよう提案してみるか」

「それは良い案だと思いますよ」
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