239 / 882
記憶の残滓編
episode236
しおりを挟む
「7歳から3年間、そんなことを続けて、ようやくギルドに正式に認められて傭兵になったの。でも、いくら傭兵になったからっていっても、小さい子供でしょ。任せてもらえるお仕事なんて、良くて護衛、悪ければ掃除やお使いなんてこともあったのよ。だから、報酬は微々たるもので…」
今のご時世、大きな戦場が発生することは多くない。戦闘力を発揮できる場所は、戦場以外だと、小競り合いや勢力争い、派閥争いなどの小口や中口依頼になる。それらもギルドに登録する傭兵たちに万遍なく回ることはない。そこで、便利屋家業のような仕事も引き受けるのだ。
「基礎学校へは、一度話を聞きに行ったことはあるんだよ。授業料は無料だし、教科書も無料で支給されるけど、筆記用具は自分で用意しなきゃいけないんだって。それで、そのときは無理だなって諦めちゃったの」
「でも、お仕事でいただく報酬で、捻出できるくらいの額だったでしょうに…?」
「15歳になるまでは、護衛のお仕事も殆どもらえなかったの。だから、どこかのお屋敷の掃除とか、町内の清掃とか、宅配のお手伝いとか、子供の使いだったのね。傭兵だなんて言ってもやっぱ子供だから。時々傭兵団に入れてもらっても、アタシ上手く馴染めなくてすぐ抜けちゃってたし。でもそういうお仕事、毎日あるわけじゃないんだよ。だから、小銭をちょっとずつ食費にあてたり貯金したりで、余分なお金なんてなかった」
生きるだけで精一杯だった。
「前住んでいたアパートに入れるまでは、ずっとギルドの3階で雑魚寝だったもん」
「そうだったんですか…」
「でも今はお金にもちょっと余裕が出てきたし、時間のあるときにお勉強したいなって、ずっと思ってたんだよ。ベルトルドさんに何かしたいことはあるかって聞かれたとき、勉強したいって言ったの。そしたら、家庭教師をって話になっていったの」
グンヒルドは自嘲を口元にたたえた。
「ごめんなさいね。わたくし教師を名乗っているのに、まるでなにも知らなくて。傭兵の肩書きを持っているのだから、いつもしっかりと報酬がもらえているものだとばかり考えていました」
賃金の支払い方法や額は、仕事の内容や依頼主によって変わってくる。更に、傭兵団などの組織化したところに所属していると、そこでも変わってくるのだ。それを外部の者が知る機会は殆どない。
(生きるために。ただそれだけのために、ずっと生きてきたのね…)
勉強がしたい、学校へ行ってみたい。そう考えていても、実行する金銭的余裕が全然なかったのだと、話を聞いているだけで見えてくる。
仕事の合間に、何故学校へ行こうとしなかったのだろうと考えたことを、グンヒルドは恥じ入った。
怠惰などではない。熱意が低いわけでもない。孤児だから誰の助けもない中、生きていくだけで精一杯だったのだ。
今のご時世、大きな戦場が発生することは多くない。戦闘力を発揮できる場所は、戦場以外だと、小競り合いや勢力争い、派閥争いなどの小口や中口依頼になる。それらもギルドに登録する傭兵たちに万遍なく回ることはない。そこで、便利屋家業のような仕事も引き受けるのだ。
「基礎学校へは、一度話を聞きに行ったことはあるんだよ。授業料は無料だし、教科書も無料で支給されるけど、筆記用具は自分で用意しなきゃいけないんだって。それで、そのときは無理だなって諦めちゃったの」
「でも、お仕事でいただく報酬で、捻出できるくらいの額だったでしょうに…?」
「15歳になるまでは、護衛のお仕事も殆どもらえなかったの。だから、どこかのお屋敷の掃除とか、町内の清掃とか、宅配のお手伝いとか、子供の使いだったのね。傭兵だなんて言ってもやっぱ子供だから。時々傭兵団に入れてもらっても、アタシ上手く馴染めなくてすぐ抜けちゃってたし。でもそういうお仕事、毎日あるわけじゃないんだよ。だから、小銭をちょっとずつ食費にあてたり貯金したりで、余分なお金なんてなかった」
生きるだけで精一杯だった。
「前住んでいたアパートに入れるまでは、ずっとギルドの3階で雑魚寝だったもん」
「そうだったんですか…」
「でも今はお金にもちょっと余裕が出てきたし、時間のあるときにお勉強したいなって、ずっと思ってたんだよ。ベルトルドさんに何かしたいことはあるかって聞かれたとき、勉強したいって言ったの。そしたら、家庭教師をって話になっていったの」
グンヒルドは自嘲を口元にたたえた。
「ごめんなさいね。わたくし教師を名乗っているのに、まるでなにも知らなくて。傭兵の肩書きを持っているのだから、いつもしっかりと報酬がもらえているものだとばかり考えていました」
賃金の支払い方法や額は、仕事の内容や依頼主によって変わってくる。更に、傭兵団などの組織化したところに所属していると、そこでも変わってくるのだ。それを外部の者が知る機会は殆どない。
(生きるために。ただそれだけのために、ずっと生きてきたのね…)
勉強がしたい、学校へ行ってみたい。そう考えていても、実行する金銭的余裕が全然なかったのだと、話を聞いているだけで見えてくる。
仕事の合間に、何故学校へ行こうとしなかったのだろうと考えたことを、グンヒルドは恥じ入った。
怠惰などではない。熱意が低いわけでもない。孤児だから誰の助けもない中、生きていくだけで精一杯だったのだ。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!
飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。
貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。
だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。
なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。
その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした
あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を
自分の世界へと召喚した。
召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと
願いを託す。
しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、
全く向けられていなかった。
何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、
将来性も期待性もバッチリであったが...
この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。
でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか?
だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし...
周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を
俺に投げてくる始末。
そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と
罵って蔑ろにしてきやがる...。
元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで
最低、一年はかかるとの事だ。
こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から
出ようとした瞬間...
「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」
...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。
※小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる