片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode236

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「7歳から3年間、そんなことを続けて、ようやくギルドに正式に認められて傭兵になったの。でも、いくら傭兵になったからっていっても、小さい子供でしょ。任せてもらえるお仕事なんて、良くて護衛、悪ければ掃除やお使いなんてこともあったのよ。だから、報酬は微々たるもので…」

 今のご時世、大きな戦場が発生することは多くない。戦闘力を発揮できる場所は、戦場以外だと、小競り合いや勢力争い、派閥争いなどの小口や中口依頼になる。それらもギルドに登録する傭兵たちに万遍なく回ることはない。そこで、便利屋家業のような仕事も引き受けるのだ。

「基礎学校へは、一度話を聞きに行ったことはあるんだよ。授業料は無料だし、教科書も無料で支給されるけど、筆記用具は自分で用意しなきゃいけないんだって。それで、そのときは無理だなって諦めちゃったの」

「でも、お仕事でいただく報酬で、捻出できるくらいの額だったでしょうに…?」

「15歳になるまでは、護衛のお仕事も殆どもらえなかったの。だから、どこかのお屋敷の掃除とか、町内の清掃とか、宅配のお手伝いとか、子供の使いだったのね。傭兵だなんて言ってもやっぱ子供だから。時々傭兵団に入れてもらっても、アタシ上手く馴染めなくてすぐ抜けちゃってたし。でもそういうお仕事、毎日あるわけじゃないんだよ。だから、小銭をちょっとずつ食費にあてたり貯金したりで、余分なお金なんてなかった」

 生きるだけで精一杯だった。

「前住んでいたアパートに入れるまでは、ずっとギルドの3階で雑魚寝だったもん」

「そうだったんですか…」

「でも今はお金にもちょっと余裕が出てきたし、時間のあるときにお勉強したいなって、ずっと思ってたんだよ。ベルトルドさんに何かしたいことはあるかって聞かれたとき、勉強したいって言ったの。そしたら、家庭教師をって話になっていったの」

 グンヒルドは自嘲を口元にたたえた。

「ごめんなさいね。わたくし教師を名乗っているのに、まるでなにも知らなくて。傭兵の肩書きを持っているのだから、いつもしっかりと報酬がもらえているものだとばかり考えていました」

 賃金の支払い方法や額は、仕事の内容や依頼主によって変わってくる。更に、傭兵団などの組織化したところに所属していると、そこでも変わってくるのだ。それを外部の者が知る機会は殆どない。

(生きるために。ただそれだけのために、ずっと生きてきたのね…)

 勉強がしたい、学校へ行ってみたい。そう考えていても、実行する金銭的余裕が全然なかったのだと、話を聞いているだけで見えてくる。

 仕事の合間に、何故学校へ行こうとしなかったのだろうと考えたことを、グンヒルドは恥じ入った。

 怠惰などではない。熱意が低いわけでもない。孤児だから誰の助けもない中、生きていくだけで精一杯だったのだ。
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