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記憶の残滓編
episode235
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グンヒルドと2人きりになって、何をどう切り出し話せばいいか、キュッリッキは困り果てて途方に暮れた。人見知りで、自分から話しかけるのは苦手である。それに、家庭教師になってくれるかもしれない人だ。おかしなことを言って、気を悪くしたらどうしよう。そう考えると、自信がなくて声が詰まってしう。
「まだ、お怪我で体調の辛い時に、押しかけてきてしまって、ごめんなさいね」
優しく労わるように話しかけられ、キュッリッキはゆるゆると首を振った。
「大丈夫なの、アタシがベルトルドさんにお願いしたから」
どんな人が勉強を教えてくれるのか、とても興味があったから、わざわざ会いに来てくれたことは嬉しかった。
「わたくしはお引き受けする前に、生徒さんに会うようにしています。もし相手の方がわたくしを気に入らなければ、親御さんが雇って下さっても、嫌な気持ちで教わることになるでしょう。それに、わたくしも苦手に感じる生徒さんに教えるのは集中出来ませんし。なので、お互いが気持ちよく接することができるように、前もってお話をして決めるんです」
「じゃあ、これまでに、教えたくないなって思った人はいたの?」
「ええ、何人かおりましたよ」
(うわ…、アタシもその中の一人になったらどうしよう…)
これは、迂闊なことは口に出せないと、キュッリッキはより一層、緊張で固まった。
グンヒルドは湯気の立つティーカップを手に取ると、優雅な仕草で一口含んだ。
「ベルトルド様とアルカネット様が、それはもう、あなたのことを熱心にお話になっておりましたのよ。血の繋がりはないとのことでしたが、とても大切にされているようですね」
キュッリッキは嬉しそうに微笑みながら頷いた。
初めて会った時から、ずっとずっと、大切にしてくれる。愛されている。ただ、毎日毎日飽きもせず、自分を取り合い喧嘩をしていることだけは、いまだに不思議だ。
「あなたはベルトルド様が後ろ盾をなさっている傭兵団に、所属している傭兵なのだそうですね。傭兵のお仕事は、長いのですか?」
「8年です」
「まあ。10歳の頃からしているのですね」
素直に驚き、グンヒルドは何度か瞬きした。
一見、殺伐とした傭兵業とは無縁そうな少女が、10歳から傭兵をしているなど、驚きを禁じえないのだ。
「では、その8年の間に、基礎学校へ行こうとは思わなかったの?」
これには困ったように、キュッリッキは苦笑を返した。そしてちょっと迷うような表情をして、それからグンヒルドに顔を向けた。
「アタシ孤児で、ずっと修道院にいたんだけど、あることで7歳の時にそこを出たのね。それからは相棒のフェンリルと一緒に、あちこちを彷徨って、傭兵になるために危ないところを走り回っていたの」
傭兵ギルドに身請けてもらうためには、仲介者が必要になる。また、傭兵に弟子入りするためには、戦闘、魔法、サイ《超能力》などのスキル〈才能〉持ちに限られる。そうした公式的手続きを踏まず、ギルドに実力を示すためには、ある程度危険な賭けが必要だ。その最も手っ取り早い方法は、現場で実力と成果を知らしめることだった。
「まだ、お怪我で体調の辛い時に、押しかけてきてしまって、ごめんなさいね」
優しく労わるように話しかけられ、キュッリッキはゆるゆると首を振った。
「大丈夫なの、アタシがベルトルドさんにお願いしたから」
どんな人が勉強を教えてくれるのか、とても興味があったから、わざわざ会いに来てくれたことは嬉しかった。
「わたくしはお引き受けする前に、生徒さんに会うようにしています。もし相手の方がわたくしを気に入らなければ、親御さんが雇って下さっても、嫌な気持ちで教わることになるでしょう。それに、わたくしも苦手に感じる生徒さんに教えるのは集中出来ませんし。なので、お互いが気持ちよく接することができるように、前もってお話をして決めるんです」
「じゃあ、これまでに、教えたくないなって思った人はいたの?」
「ええ、何人かおりましたよ」
(うわ…、アタシもその中の一人になったらどうしよう…)
これは、迂闊なことは口に出せないと、キュッリッキはより一層、緊張で固まった。
グンヒルドは湯気の立つティーカップを手に取ると、優雅な仕草で一口含んだ。
「ベルトルド様とアルカネット様が、それはもう、あなたのことを熱心にお話になっておりましたのよ。血の繋がりはないとのことでしたが、とても大切にされているようですね」
キュッリッキは嬉しそうに微笑みながら頷いた。
初めて会った時から、ずっとずっと、大切にしてくれる。愛されている。ただ、毎日毎日飽きもせず、自分を取り合い喧嘩をしていることだけは、いまだに不思議だ。
「あなたはベルトルド様が後ろ盾をなさっている傭兵団に、所属している傭兵なのだそうですね。傭兵のお仕事は、長いのですか?」
「8年です」
「まあ。10歳の頃からしているのですね」
素直に驚き、グンヒルドは何度か瞬きした。
一見、殺伐とした傭兵業とは無縁そうな少女が、10歳から傭兵をしているなど、驚きを禁じえないのだ。
「では、その8年の間に、基礎学校へ行こうとは思わなかったの?」
これには困ったように、キュッリッキは苦笑を返した。そしてちょっと迷うような表情をして、それからグンヒルドに顔を向けた。
「アタシ孤児で、ずっと修道院にいたんだけど、あることで7歳の時にそこを出たのね。それからは相棒のフェンリルと一緒に、あちこちを彷徨って、傭兵になるために危ないところを走り回っていたの」
傭兵ギルドに身請けてもらうためには、仲介者が必要になる。また、傭兵に弟子入りするためには、戦闘、魔法、サイ《超能力》などのスキル〈才能〉持ちに限られる。そうした公式的手続きを踏まず、ギルドに実力を示すためには、ある程度危険な賭けが必要だ。その最も手っ取り早い方法は、現場で実力と成果を知らしめることだった。
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