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記憶の残滓編
episode234
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自分の為だけに、勉強を教えてくれる教師が会いに来る。それを思うと、キュッリッキは殆ど眠れず朝を迎えた。
楽しみで楽しみで仕方がない気持ちが、顔満面に満ち溢れ輝いている。そんなキュッリッキの様子に、ベルトルドもアルカネットも自然と笑みがこぼれた。
家庭教師の件で期待が膨らんで気が紛れていたのか、夜中夢にうなされることもなく、苦しまなかった。それで2人とも久しぶりに熟睡出来たはずだが、実際眠れたのは4時間程度だった。寝足りない気持ちはあったが、キュッリッキが悲しまずに夜を過ごせたことが何より嬉しい。
天蓋を見つめる瞳が、ワクワク感で揺れ動いている。感情の昂ぶっているキュッリッキの薄く赤みのさす頬に、ベルトルドはそっと触れた。
「今日の面談には付き添えないが、リッキーが気に入ったら雇うからな。だが、気に入らなかったら断るから、はっきり言いなさい」
「はい」
キュッリッキはニッコリと笑う。
「どんなことを教わりたいか、しっかり伝えるのですよ。学問だけではなく、ダンスや行儀作法など、色々な事を教えることのできる先生のようですから」
「うん。ちゃんと言うね」
素直に返事をするキュッリッキの左手をとり、アルカネットは掌にそっとキスをした。
「ベルトルド様、着替えに行きましょうか。出仕の用意を」
「ああ。では行ってくる、リッキー」
「行ってきます、リッキーさん」
「行ってらっしゃい」
それぞれキュッリッキの額と頬にキスをして、名残惜しさをこれでもかと漂わせながら部屋を後にした。
待望のグンヒルドは、11時前に屋敷を訪れた。
メイドのアリサが来訪を告げに来て少しすると、セヴェリに伴われたグンヒルドが、キュッリッキの部屋に入ってきた。その時ふわっと品の良い香水の匂いが、ゆっくりと部屋に満ちる。
男所帯の屋敷だけに、香水の匂いは新鮮だとルーファスはふと思った。
(来た)
キュッリッキの顔が、咄嗟に緊張に包まれる。家庭教師などしている人と話をするのは初めてのことだ。胸がドキドキした。
柔らかそうな栗色の髪と、木漏れ日のような優しい笑顔が素敵な人だなと、キュッリッキは嬉しくなった。
ベッドの傍まで来ると、グンヒルドは優雅な仕草で腰を落とした。
「お初にお目にかかります、グンヒルドと申します」
「ようこそいらっしゃいました。キュッリッキです」
「あ、どうかそのまま」
身体を起こそうとしたキュッリッキを、グンヒルドは慌てて制す。少し離れて控えていたメルヴィンとルーファスも、驚いて前に踏み出した。
「まずは、お身体をお厭いくださいませ。横たわったままで構いませんよ」
「でも…」
寝ているままだと、失礼に当たるんじゃないだろうか。そうキュッリッキが思っていることを表情から察して、グンヒルドは優しく微笑み、首を横に振った。
「大変な怪我を負っていらっしゃることは、副宰相閣下達から伺っております。それなのに、わたくしへのお心遣い、ありがとうございます」
困ったように顔を赤らめるキュッリッキに、グンヒルドは更に笑みを深めた。
そこへワゴンを押して、アリサがお茶を運んできた。
「あらあら、お客様を立たせたままでは、失礼ですよ」
そう言って、いまだ立ったままのグンヒルドに、ベッドの傍らの椅子をすすめ、キュッリッキを寝かせ直した。そして手際よくカップに紅茶を注いで、サイドテーブルに置く。
「何か御用があれば、すぐに呼んでくださいね、お嬢様」
「うん。ありがとう、アリサ」
「じゃあ、オレたちも失礼するね」
「またあとで」
アリサが退室するのに合わせて、ルーファスとメルヴィンも一緒に部屋を後にした。
楽しみで楽しみで仕方がない気持ちが、顔満面に満ち溢れ輝いている。そんなキュッリッキの様子に、ベルトルドもアルカネットも自然と笑みがこぼれた。
家庭教師の件で期待が膨らんで気が紛れていたのか、夜中夢にうなされることもなく、苦しまなかった。それで2人とも久しぶりに熟睡出来たはずだが、実際眠れたのは4時間程度だった。寝足りない気持ちはあったが、キュッリッキが悲しまずに夜を過ごせたことが何より嬉しい。
天蓋を見つめる瞳が、ワクワク感で揺れ動いている。感情の昂ぶっているキュッリッキの薄く赤みのさす頬に、ベルトルドはそっと触れた。
「今日の面談には付き添えないが、リッキーが気に入ったら雇うからな。だが、気に入らなかったら断るから、はっきり言いなさい」
「はい」
キュッリッキはニッコリと笑う。
「どんなことを教わりたいか、しっかり伝えるのですよ。学問だけではなく、ダンスや行儀作法など、色々な事を教えることのできる先生のようですから」
「うん。ちゃんと言うね」
素直に返事をするキュッリッキの左手をとり、アルカネットは掌にそっとキスをした。
「ベルトルド様、着替えに行きましょうか。出仕の用意を」
「ああ。では行ってくる、リッキー」
「行ってきます、リッキーさん」
「行ってらっしゃい」
それぞれキュッリッキの額と頬にキスをして、名残惜しさをこれでもかと漂わせながら部屋を後にした。
待望のグンヒルドは、11時前に屋敷を訪れた。
メイドのアリサが来訪を告げに来て少しすると、セヴェリに伴われたグンヒルドが、キュッリッキの部屋に入ってきた。その時ふわっと品の良い香水の匂いが、ゆっくりと部屋に満ちる。
男所帯の屋敷だけに、香水の匂いは新鮮だとルーファスはふと思った。
(来た)
キュッリッキの顔が、咄嗟に緊張に包まれる。家庭教師などしている人と話をするのは初めてのことだ。胸がドキドキした。
柔らかそうな栗色の髪と、木漏れ日のような優しい笑顔が素敵な人だなと、キュッリッキは嬉しくなった。
ベッドの傍まで来ると、グンヒルドは優雅な仕草で腰を落とした。
「お初にお目にかかります、グンヒルドと申します」
「ようこそいらっしゃいました。キュッリッキです」
「あ、どうかそのまま」
身体を起こそうとしたキュッリッキを、グンヒルドは慌てて制す。少し離れて控えていたメルヴィンとルーファスも、驚いて前に踏み出した。
「まずは、お身体をお厭いくださいませ。横たわったままで構いませんよ」
「でも…」
寝ているままだと、失礼に当たるんじゃないだろうか。そうキュッリッキが思っていることを表情から察して、グンヒルドは優しく微笑み、首を横に振った。
「大変な怪我を負っていらっしゃることは、副宰相閣下達から伺っております。それなのに、わたくしへのお心遣い、ありがとうございます」
困ったように顔を赤らめるキュッリッキに、グンヒルドは更に笑みを深めた。
そこへワゴンを押して、アリサがお茶を運んできた。
「あらあら、お客様を立たせたままでは、失礼ですよ」
そう言って、いまだ立ったままのグンヒルドに、ベッドの傍らの椅子をすすめ、キュッリッキを寝かせ直した。そして手際よくカップに紅茶を注いで、サイドテーブルに置く。
「何か御用があれば、すぐに呼んでくださいね、お嬢様」
「うん。ありがとう、アリサ」
「じゃあ、オレたちも失礼するね」
「またあとで」
アリサが退室するのに合わせて、ルーファスとメルヴィンも一緒に部屋を後にした。
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