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記憶の残滓編
episode232
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「リッキーは…――キュッリッキの愛称です、近い将来、俺の花嫁になる女性です!」
グッと握り拳を作って、ベルトルドはドヤ顔で断言した。その後ろで、首を左右に振ってリュリュが否定する。
「愛おしすぎる花嫁の願いを叶えてこそ男というもの!」
「ドサクサに紛れて嘘を仰らないでください! 誰があなたの花嫁ですか図々しいことをヌケヌケとっ!」
そこへドアを蹴破り、息の荒いアルカネットが飛び込んできた。全速力で走ってきたようだった。
「視察が長引いて出遅れました。お初にお目にかかりますグンヒルド夫人、リッキーさんは私の花嫁になる女性です。そこ、お間違えなく」
「誰がお前のだっ! 俺のだリッキーは!!」
「女を取っ替え引っ替えするような不誠実な人が、どの口で戯言を語るのでしょう」
「あーたたち、客人の前ってこと絶対忘れてるでしょ…」
リュリュは手にしていたトレイで、2人の脳天を思いっきりぶっ叩いた。
「ゴメンナサイネ、お見苦しいところを。おほほほほ」
グンヒルドはニッコリと笑顔を3人に向けつつ、
(カッレに聞いていた通りね…。面白い人たちだこと)
内心大笑いしていた。
世間では『泣く子も黙らせる副宰相』などと物騒な通り名を持つベルトルドだが、アルカネットとじゃれている姿を見ていると、とても恐ろしいイメージと繋がらない。リュリュも交えて3人で騒ぎ出す様子を見ていると、いつ終わるか判らなくなってきて、グンヒルドは肩をすくめて居住まいを正した。
「わたくしの詳しい職歴は、こちらの書類にしたためて参りました。明日にでもお時間をいただいて、キュッリッキ嬢にお会いさせていただいて宜しいでしょうか? 直接お会いして、お引き受けできるかどうかを、判断させていただきとう存じます」
傍らに置いてあった鞄から封書を取り出して、ベルトルドの前にスッと封書を置き、グンヒルドは笑みを深めた。
0時を回った頃、すでにキュッリッキは眠っていたが、何やら騒がしい音に眠りの園から引っ張り出され、重い瞼を開いた。
目に飛び込んできたのは、ベルトルドとアルカネットの恐ろしい形相である。驚いたキュッリッキは完全に目を覚まして、「ヒッ」と喉で悲鳴を上げた。
「お、おかえりなさい?」
「俺が言うんだ!」
「いいえ、私が言います!」
「いちいち出しゃばるな鬱陶しい奴め!」
「あなたこそこれだけの元気が残っているのなら、仕事の続きでもしてきたら如何ですかっ」
お互いの顔を手で押し合いながら、怯えるキュッリッキにはお構いなしで言い争っている。
一向に埓のあかない様子に、キュッリッキは小さく溜息をついて、
「メルヴィン、ルーさん、助けてーーーっ!」
と、大声を上げた。
ほどなくして血相を変えたメルヴィンとルーファスが、開けっ放しのキュッリッキの部屋に飛び込んできた。
「どうしましたっ!?」
闖入してきたメルヴィンとルーファスに気づいて、ベルトルドとアルカネットは、思わず顔を見合わせて目を瞬かせた。
グッと握り拳を作って、ベルトルドはドヤ顔で断言した。その後ろで、首を左右に振ってリュリュが否定する。
「愛おしすぎる花嫁の願いを叶えてこそ男というもの!」
「ドサクサに紛れて嘘を仰らないでください! 誰があなたの花嫁ですか図々しいことをヌケヌケとっ!」
そこへドアを蹴破り、息の荒いアルカネットが飛び込んできた。全速力で走ってきたようだった。
「視察が長引いて出遅れました。お初にお目にかかりますグンヒルド夫人、リッキーさんは私の花嫁になる女性です。そこ、お間違えなく」
「誰がお前のだっ! 俺のだリッキーは!!」
「女を取っ替え引っ替えするような不誠実な人が、どの口で戯言を語るのでしょう」
「あーたたち、客人の前ってこと絶対忘れてるでしょ…」
リュリュは手にしていたトレイで、2人の脳天を思いっきりぶっ叩いた。
「ゴメンナサイネ、お見苦しいところを。おほほほほ」
グンヒルドはニッコリと笑顔を3人に向けつつ、
(カッレに聞いていた通りね…。面白い人たちだこと)
内心大笑いしていた。
世間では『泣く子も黙らせる副宰相』などと物騒な通り名を持つベルトルドだが、アルカネットとじゃれている姿を見ていると、とても恐ろしいイメージと繋がらない。リュリュも交えて3人で騒ぎ出す様子を見ていると、いつ終わるか判らなくなってきて、グンヒルドは肩をすくめて居住まいを正した。
「わたくしの詳しい職歴は、こちらの書類にしたためて参りました。明日にでもお時間をいただいて、キュッリッキ嬢にお会いさせていただいて宜しいでしょうか? 直接お会いして、お引き受けできるかどうかを、判断させていただきとう存じます」
傍らに置いてあった鞄から封書を取り出して、ベルトルドの前にスッと封書を置き、グンヒルドは笑みを深めた。
0時を回った頃、すでにキュッリッキは眠っていたが、何やら騒がしい音に眠りの園から引っ張り出され、重い瞼を開いた。
目に飛び込んできたのは、ベルトルドとアルカネットの恐ろしい形相である。驚いたキュッリッキは完全に目を覚まして、「ヒッ」と喉で悲鳴を上げた。
「お、おかえりなさい?」
「俺が言うんだ!」
「いいえ、私が言います!」
「いちいち出しゃばるな鬱陶しい奴め!」
「あなたこそこれだけの元気が残っているのなら、仕事の続きでもしてきたら如何ですかっ」
お互いの顔を手で押し合いながら、怯えるキュッリッキにはお構いなしで言い争っている。
一向に埓のあかない様子に、キュッリッキは小さく溜息をついて、
「メルヴィン、ルーさん、助けてーーーっ!」
と、大声を上げた。
ほどなくして血相を変えたメルヴィンとルーファスが、開けっ放しのキュッリッキの部屋に飛び込んできた。
「どうしましたっ!?」
闖入してきたメルヴィンとルーファスに気づいて、ベルトルドとアルカネットは、思わず顔を見合わせて目を瞬かせた。
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