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記憶の残滓編
episode231
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会議室を追い出されるように連絡を取りに行ったカッレ長官は、笑顔で戻ってきた。
「是非にとも、お会いしたいそうです。21時までなら、閣下のご都合のよろしい時間に合わせられるそうです」
「おお、助かる」
「17時以降なら、時間の調整は出来るわよ」
「では、会議が終わったらリュリュと相談して時間を決めて、姉君に報告してくれ」
「承りました」
18時に宰相府で面接することが決まり、カッレ長官に付き添われて、グンヒルドがベルトルドの執務室を訪れた。
「ようこそグンヒルド夫人、そちらにおかけください」
「ありがとうございます、副宰相閣下」
ベルトルド自らが応接ソファセットまで、手招きでグンヒルドをエスコートした。
「それでは、小官はこれで。失礼いたします」
「ご苦労だったな、カッレ」
多少小柄な身体付きのカッレ長官は、ビシッと背筋を伸ばして綺麗な敬礼をすると、颯爽と執務室を辞した。
入れ違いにリュリュが紅茶を運んでくると、向き合う2人の前にカップを置いて、ベルトルドの後ろに控えた。
「早速本題に入らせていただく」
「はい。お忙しい中時間を割いていただいて、ありがとうございます」
たおやかに頭を下げたグンヒルドは、ベルトルドと同じく41歳になるという。明るい栗色の髪は柔らかに結い上げられ、紺色のタイトなドレスに身を包んでいる。表情は見た者を安堵させる、優しい雰囲気をたたえており、美女というわけではないが、人当たりのいい顔立ちをしていた。
「あなたに教えていただきたい生徒は、18歳の少女です。名をキュッリッキといい、俺が後ろ盾をしている傭兵団の傭兵です」
「まあ、傭兵をしているのですか、女の子が」
グンヒルドは、やや驚いたように目を見開いた。
「子供から大人まで、珍しいことではありませんよ」
それについてグンヒルドはこだわる様子はなく、小さく頷くにとどめた。
「ただ、複雑な事情を抱えた子で、端的に申し上げると孤児なのです。その為学業経験がありません。簡単な読み書きや計算は出来るようですが、彼女はもっと色々なことを学びたいと望んでいます」
「そうでございますか…」
「それに、少々人付き合いが苦手なところもあり、そういった面も含めて、教えていただける教師を探している次第です」
ベルトルドの顔を見つめながら話を聞いていたグンヒルドは、ふと首をかしげる。
「実際にお会いしてみないと、詳しいことは判りませんが、その方は閣下のお子様ではないのに、どうしてそこまで?」
18歳にもなれば、ほぼ成人である。傭兵という仕事もしていて、人見知りでも学業を学びたいなら、自ら基礎学校へ通うだろう。手続きも案内が詳しく説明してくれるだろうし、第一家族でもない相手に家庭教師を付けようとは、不思議なことだとグンヒルドは思っていた。
「是非にとも、お会いしたいそうです。21時までなら、閣下のご都合のよろしい時間に合わせられるそうです」
「おお、助かる」
「17時以降なら、時間の調整は出来るわよ」
「では、会議が終わったらリュリュと相談して時間を決めて、姉君に報告してくれ」
「承りました」
18時に宰相府で面接することが決まり、カッレ長官に付き添われて、グンヒルドがベルトルドの執務室を訪れた。
「ようこそグンヒルド夫人、そちらにおかけください」
「ありがとうございます、副宰相閣下」
ベルトルド自らが応接ソファセットまで、手招きでグンヒルドをエスコートした。
「それでは、小官はこれで。失礼いたします」
「ご苦労だったな、カッレ」
多少小柄な身体付きのカッレ長官は、ビシッと背筋を伸ばして綺麗な敬礼をすると、颯爽と執務室を辞した。
入れ違いにリュリュが紅茶を運んでくると、向き合う2人の前にカップを置いて、ベルトルドの後ろに控えた。
「早速本題に入らせていただく」
「はい。お忙しい中時間を割いていただいて、ありがとうございます」
たおやかに頭を下げたグンヒルドは、ベルトルドと同じく41歳になるという。明るい栗色の髪は柔らかに結い上げられ、紺色のタイトなドレスに身を包んでいる。表情は見た者を安堵させる、優しい雰囲気をたたえており、美女というわけではないが、人当たりのいい顔立ちをしていた。
「あなたに教えていただきたい生徒は、18歳の少女です。名をキュッリッキといい、俺が後ろ盾をしている傭兵団の傭兵です」
「まあ、傭兵をしているのですか、女の子が」
グンヒルドは、やや驚いたように目を見開いた。
「子供から大人まで、珍しいことではありませんよ」
それについてグンヒルドはこだわる様子はなく、小さく頷くにとどめた。
「ただ、複雑な事情を抱えた子で、端的に申し上げると孤児なのです。その為学業経験がありません。簡単な読み書きや計算は出来るようですが、彼女はもっと色々なことを学びたいと望んでいます」
「そうでございますか…」
「それに、少々人付き合いが苦手なところもあり、そういった面も含めて、教えていただける教師を探している次第です」
ベルトルドの顔を見つめながら話を聞いていたグンヒルドは、ふと首をかしげる。
「実際にお会いしてみないと、詳しいことは判りませんが、その方は閣下のお子様ではないのに、どうしてそこまで?」
18歳にもなれば、ほぼ成人である。傭兵という仕事もしていて、人見知りでも学業を学びたいなら、自ら基礎学校へ通うだろう。手続きも案内が詳しく説明してくれるだろうし、第一家族でもない相手に家庭教師を付けようとは、不思議なことだとグンヒルドは思っていた。
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