片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode230

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 ベッドの傍らに急遽設えられたテーブルに、ベルトルドとアルカネットの夕食が並べられた。給仕をするために、使用人が数名傍に控える。

 お腹がすいていたベルトルドはおとなしく食事を始めたが、アルカネットはキュッリッキに食べさせる方を優先させていた。

「では、リッキーさんを学校に通わせるのですか?」

 キュッリッキが勉強をしたいという話をアルカネットにして、どういう方法をとろうかとベルトルドは相談を持ちかけた。

「んー…、仕事の合間を縫って、だと、落ち着いて出来ないだろうしなあ」

 基礎教科を学ぶための学校は、年齢制限もなく、家庭の事情などで子供の頃通えなかった大人が、仕事の合間に通う者も多い。しかし、仕事で休む人に合わせた進行はしないので、遅れた分は自主学習となってしまう。

「それならば、家庭教師を雇えばいいのではないでしょうか。身体を起こせるようになれば、すぐにでも開始できますし」

「ああ、それはいいな」

「家庭教師?」

 キュッリッキが不思議そうにしていると、アルカネットが頷いた。

「ええ。家に教師を招いて、勉強を教えてもらうのですよ。あらゆる教科を教えられる教師や、教科ごとの教師など、リッキーさんの為だけに勉強を教えてくれます」

「うわあ…」

 キュッリッキの表情が、キラキラと輝いた。

「うん、そうだな、家庭教師が良いか」

 ベルトルドはワインを一口飲むと了承した。そして、と顎に手をあて考える。

「となれば、どんな教師を雇う、かだなあ」

「そこが大問題です」

 ううん、と2人は腕を組んで、神妙に考え込んだ。



 翌日、特殊部隊ダエヴァの3長官たちとの会議の場でも、ベルトルドはキュッリッキの為の家庭教師選びを考え込んでいた。周りの声など当然耳に入っていない。

「ちょっとベルぅ、話きーてんの?」

 秘書官のリュリュに耳を引っ張り上げられて、ベルトルドは「イテテ」と顔をしかめた。

「何だ? 耳を引っ張るな」

「何だじゃないわよ! 会議中よ会議っ!」

「そんなもん後でお前が書類にまとめればいいだろう。俺は忙しいんだっ!」

「どうせ桃色妄想でも浮かべてるんでしょ! ったく、真面目におやんなさい」

「リッキーの家庭教師を誰にするか考えることが、緊急の至上課題なんだ俺は!」

 拳をテーブルに叩きつけ、ベルトルドは真顔で怒鳴る。しかしリュリュは意に介した様子もなく、垂れ目を眇めてベルトルドを睨みつけた。

「そんなもん、執事に適当に選ばせておけばいいじゃないの」

「俺の可愛いリッキーに勉強を教えるんだぞ、他人に選ばせるなんぞ出来ん!」

「じゃあ、アルカネットに任せておけばぁ?」

「ヤダ」

 ツンッとベルトルドはそっぽを向く。

「あ、あの…」

 そこに、ダエヴァ第三部隊のカッレ長官が手を挙げる。

「どったの?」

 リュリュが促すと、カッレ長官は立ち上がった。

「お話に割り込むようですみません。その、家庭教師の件なのですが、推薦したい人物がございます」

「おお、カッレの知り合いか?」

 ベルトルドが喜々として身を乗り出す。

「我が姉グンヒルドなのですが、昔から家庭教師を務めておりまして、主にハーメンリンナの貴族の令嬢を相手に教えています。つい先日、生徒の令嬢がお輿入れすることになり、お暇を出されたばかりで、次の勤め先を探している状態なのです」

「あらあ、タイムリーじゃない」

「今日にでも会えるか連絡を今すぐ取れ、カッレ!」

「ハッ」
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