233 / 882
記憶の残滓編
episode230
しおりを挟む
ベッドの傍らに急遽設えられたテーブルに、ベルトルドとアルカネットの夕食が並べられた。給仕をするために、使用人が数名傍に控える。
お腹がすいていたベルトルドはおとなしく食事を始めたが、アルカネットはキュッリッキに食べさせる方を優先させていた。
「では、リッキーさんを学校に通わせるのですか?」
キュッリッキが勉強をしたいという話をアルカネットにして、どういう方法をとろうかとベルトルドは相談を持ちかけた。
「んー…、仕事の合間を縫って、だと、落ち着いて出来ないだろうしなあ」
基礎教科を学ぶための学校は、年齢制限もなく、家庭の事情などで子供の頃通えなかった大人が、仕事の合間に通う者も多い。しかし、仕事で休む人に合わせた進行はしないので、遅れた分は自主学習となってしまう。
「それならば、家庭教師を雇えばいいのではないでしょうか。身体を起こせるようになれば、すぐにでも開始できますし」
「ああ、それはいいな」
「家庭教師?」
キュッリッキが不思議そうにしていると、アルカネットが頷いた。
「ええ。家に教師を招いて、勉強を教えてもらうのですよ。あらゆる教科を教えられる教師や、教科ごとの教師など、リッキーさんの為だけに勉強を教えてくれます」
「うわあ…」
キュッリッキの表情が、キラキラと輝いた。
「うん、そうだな、家庭教師が良いか」
ベルトルドはワインを一口飲むと了承した。そして、と顎に手をあて考える。
「となれば、どんな教師を雇う、かだなあ」
「そこが大問題です」
ううん、と2人は腕を組んで、神妙に考え込んだ。
翌日、特殊部隊ダエヴァの3長官たちとの会議の場でも、ベルトルドはキュッリッキの為の家庭教師選びを考え込んでいた。周りの声など当然耳に入っていない。
「ちょっとベルぅ、話きーてんの?」
秘書官のリュリュに耳を引っ張り上げられて、ベルトルドは「イテテ」と顔をしかめた。
「何だ? 耳を引っ張るな」
「何だじゃないわよ! 会議中よ会議っ!」
「そんなもん後でお前が書類にまとめればいいだろう。俺は忙しいんだっ!」
「どうせ桃色妄想でも浮かべてるんでしょ! ったく、真面目におやんなさい」
「リッキーの家庭教師を誰にするか考えることが、緊急の至上課題なんだ俺は!」
拳をテーブルに叩きつけ、ベルトルドは真顔で怒鳴る。しかしリュリュは意に介した様子もなく、垂れ目を眇めてベルトルドを睨みつけた。
「そんなもん、執事に適当に選ばせておけばいいじゃないの」
「俺の可愛いリッキーに勉強を教えるんだぞ、他人に選ばせるなんぞ出来ん!」
「じゃあ、アルカネットに任せておけばぁ?」
「ヤダ」
ツンッとベルトルドはそっぽを向く。
「あ、あの…」
そこに、ダエヴァ第三部隊のカッレ長官が手を挙げる。
「どったの?」
リュリュが促すと、カッレ長官は立ち上がった。
「お話に割り込むようですみません。その、家庭教師の件なのですが、推薦したい人物がございます」
「おお、カッレの知り合いか?」
ベルトルドが喜々として身を乗り出す。
「我が姉グンヒルドなのですが、昔から家庭教師を務めておりまして、主にハーメンリンナの貴族の令嬢を相手に教えています。つい先日、生徒の令嬢がお輿入れすることになり、お暇を出されたばかりで、次の勤め先を探している状態なのです」
「あらあ、タイムリーじゃない」
「今日にでも会えるか連絡を今すぐ取れ、カッレ!」
「ハッ」
お腹がすいていたベルトルドはおとなしく食事を始めたが、アルカネットはキュッリッキに食べさせる方を優先させていた。
「では、リッキーさんを学校に通わせるのですか?」
キュッリッキが勉強をしたいという話をアルカネットにして、どういう方法をとろうかとベルトルドは相談を持ちかけた。
「んー…、仕事の合間を縫って、だと、落ち着いて出来ないだろうしなあ」
基礎教科を学ぶための学校は、年齢制限もなく、家庭の事情などで子供の頃通えなかった大人が、仕事の合間に通う者も多い。しかし、仕事で休む人に合わせた進行はしないので、遅れた分は自主学習となってしまう。
「それならば、家庭教師を雇えばいいのではないでしょうか。身体を起こせるようになれば、すぐにでも開始できますし」
「ああ、それはいいな」
「家庭教師?」
キュッリッキが不思議そうにしていると、アルカネットが頷いた。
「ええ。家に教師を招いて、勉強を教えてもらうのですよ。あらゆる教科を教えられる教師や、教科ごとの教師など、リッキーさんの為だけに勉強を教えてくれます」
「うわあ…」
キュッリッキの表情が、キラキラと輝いた。
「うん、そうだな、家庭教師が良いか」
ベルトルドはワインを一口飲むと了承した。そして、と顎に手をあて考える。
「となれば、どんな教師を雇う、かだなあ」
「そこが大問題です」
ううん、と2人は腕を組んで、神妙に考え込んだ。
翌日、特殊部隊ダエヴァの3長官たちとの会議の場でも、ベルトルドはキュッリッキの為の家庭教師選びを考え込んでいた。周りの声など当然耳に入っていない。
「ちょっとベルぅ、話きーてんの?」
秘書官のリュリュに耳を引っ張り上げられて、ベルトルドは「イテテ」と顔をしかめた。
「何だ? 耳を引っ張るな」
「何だじゃないわよ! 会議中よ会議っ!」
「そんなもん後でお前が書類にまとめればいいだろう。俺は忙しいんだっ!」
「どうせ桃色妄想でも浮かべてるんでしょ! ったく、真面目におやんなさい」
「リッキーの家庭教師を誰にするか考えることが、緊急の至上課題なんだ俺は!」
拳をテーブルに叩きつけ、ベルトルドは真顔で怒鳴る。しかしリュリュは意に介した様子もなく、垂れ目を眇めてベルトルドを睨みつけた。
「そんなもん、執事に適当に選ばせておけばいいじゃないの」
「俺の可愛いリッキーに勉強を教えるんだぞ、他人に選ばせるなんぞ出来ん!」
「じゃあ、アルカネットに任せておけばぁ?」
「ヤダ」
ツンッとベルトルドはそっぽを向く。
「あ、あの…」
そこに、ダエヴァ第三部隊のカッレ長官が手を挙げる。
「どったの?」
リュリュが促すと、カッレ長官は立ち上がった。
「お話に割り込むようですみません。その、家庭教師の件なのですが、推薦したい人物がございます」
「おお、カッレの知り合いか?」
ベルトルドが喜々として身を乗り出す。
「我が姉グンヒルドなのですが、昔から家庭教師を務めておりまして、主にハーメンリンナの貴族の令嬢を相手に教えています。つい先日、生徒の令嬢がお輿入れすることになり、お暇を出されたばかりで、次の勤め先を探している状態なのです」
「あらあ、タイムリーじゃない」
「今日にでも会えるか連絡を今すぐ取れ、カッレ!」
「ハッ」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。
凜
恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。
ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。
クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる