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記憶の残滓編
episode229
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キュッリッキの頬を優しく撫でながら、ベルトルドは「あっ」と小さく声を上げた。
「そういえばリッキー、何か、やりたいことはないのかな?」
「やりたい、こと?」
目をぱちくりさせて、ベルトルドを見つめる。
「うん。趣味として、習い事でもスポーツでも。やってみたいものはあるかな?」
この世界の人間には、スキル〈才能〉という突出した能力が一つだけ備わっている。ベルトルドはサイ《超能力》、キュッリッキは召喚、アルカネットは魔法。
スポーツもスキル〈才能〉に左右され、スキル〈才能〉対象外の人々にとってのスポーツは、身体を鍛えたり趣味で行うものだ。習い事もそうである。
「うんと、勉強がしたい、かも」
はにかみながら、キュッリッキはポツリと囁くように言った。
「アタシ、学校って行ったことないでしょ。簡単な読み書きとか計算はフェンリルが教えてくれたけど、学校で教わるようなコト、何にも知らないの。傭兵だから知らなくても困らなかったけど、ホントは色んなこと勉強してみたいな~って、ずっと思ってた」
心の隅で、ずっと思っていたことだ。
「そうかそうか」
当たり前のことを、当たり前として学びに行けなかったのは、さぞ辛かったことだろう。素朴で素直なキュッリッキの気持ちがグッと心を鷲掴んで、ベルトルドはたまらずキュッリッキを抱きしめた。
「ああ、可愛いぞ俺のリッキー!」
「イッたあああいっ」
「おっと、スマン!」
抱きしめられた衝撃が思いっきり傷口に響いて、キュッリッキは涙を滲ませ悲鳴を上げた。
「何をしているんですか私がいない間に!!」
そこへ血相を変えたアルカネットがすっ飛んできて、ベルトルドの胸ぐらを掴んで前後に揺さぶった。
「早く帰ってきているかと思えば、リッキーさんに何てことをしてくれてるんですか!」
「だ、だって、可愛いから、ついだな」
「美しくて可愛いのは当たり前でしょうが!」
激昂するアルカネットを見上げて、キュッリッキは小さい溜息をコッソリとつく。そして時計を見ると、針はそろそろ19時を指そうとしていた。
(アルカネットさんも、今日は帰ってくるの早い)
「それにしても、お前も随分と帰りが早いじゃなか」
「あなたが速攻帰ったと、リュリュから聞いたのですよ。なんだか体調が悪そうに見えたとかで? ただの仮病のようですね」
「リッキーの顔を見たら、治ってしまったんだ」
「忌々しいほど都合のいい不調のようですね。なら、自室でゆっくりとお休みくださいな。お姫様抱っこで運んで差し上げます」
「……男がお姫様抱っこされて嬉しいと思うのか? お前は…」
「俵抱っこでもいいですよ?」
「抱っこの発想から脱出せい」
「では、引きずっていきましょうか」
「全部却下!」
ベルトルドが喚いたところで、開けっ放しのドアがノックされて、恐る恐るセヴェリが顔を出した。
「旦那様方、お食事の用意が整いました。お戻りが早かったので、少し早めに整えてございます」
「ああ、俺の分はここに運んでくれ」
「私の分も、ここにお願いします」
「はあ?」
「リッキーもこれからだろう。一緒に食べような」
「今日は私が、食べさせて差し上げますからね」
ベルトルドとアルカネットに嬉しそうに笑まれて、キュッリッキは引きつった笑みを返すので精一杯だった。
「そういえばリッキー、何か、やりたいことはないのかな?」
「やりたい、こと?」
目をぱちくりさせて、ベルトルドを見つめる。
「うん。趣味として、習い事でもスポーツでも。やってみたいものはあるかな?」
この世界の人間には、スキル〈才能〉という突出した能力が一つだけ備わっている。ベルトルドはサイ《超能力》、キュッリッキは召喚、アルカネットは魔法。
スポーツもスキル〈才能〉に左右され、スキル〈才能〉対象外の人々にとってのスポーツは、身体を鍛えたり趣味で行うものだ。習い事もそうである。
「うんと、勉強がしたい、かも」
はにかみながら、キュッリッキはポツリと囁くように言った。
「アタシ、学校って行ったことないでしょ。簡単な読み書きとか計算はフェンリルが教えてくれたけど、学校で教わるようなコト、何にも知らないの。傭兵だから知らなくても困らなかったけど、ホントは色んなこと勉強してみたいな~って、ずっと思ってた」
心の隅で、ずっと思っていたことだ。
「そうかそうか」
当たり前のことを、当たり前として学びに行けなかったのは、さぞ辛かったことだろう。素朴で素直なキュッリッキの気持ちがグッと心を鷲掴んで、ベルトルドはたまらずキュッリッキを抱きしめた。
「ああ、可愛いぞ俺のリッキー!」
「イッたあああいっ」
「おっと、スマン!」
抱きしめられた衝撃が思いっきり傷口に響いて、キュッリッキは涙を滲ませ悲鳴を上げた。
「何をしているんですか私がいない間に!!」
そこへ血相を変えたアルカネットがすっ飛んできて、ベルトルドの胸ぐらを掴んで前後に揺さぶった。
「早く帰ってきているかと思えば、リッキーさんに何てことをしてくれてるんですか!」
「だ、だって、可愛いから、ついだな」
「美しくて可愛いのは当たり前でしょうが!」
激昂するアルカネットを見上げて、キュッリッキは小さい溜息をコッソリとつく。そして時計を見ると、針はそろそろ19時を指そうとしていた。
(アルカネットさんも、今日は帰ってくるの早い)
「それにしても、お前も随分と帰りが早いじゃなか」
「あなたが速攻帰ったと、リュリュから聞いたのですよ。なんだか体調が悪そうに見えたとかで? ただの仮病のようですね」
「リッキーの顔を見たら、治ってしまったんだ」
「忌々しいほど都合のいい不調のようですね。なら、自室でゆっくりとお休みくださいな。お姫様抱っこで運んで差し上げます」
「……男がお姫様抱っこされて嬉しいと思うのか? お前は…」
「俵抱っこでもいいですよ?」
「抱っこの発想から脱出せい」
「では、引きずっていきましょうか」
「全部却下!」
ベルトルドが喚いたところで、開けっ放しのドアがノックされて、恐る恐るセヴェリが顔を出した。
「旦那様方、お食事の用意が整いました。お戻りが早かったので、少し早めに整えてございます」
「ああ、俺の分はここに運んでくれ」
「私の分も、ここにお願いします」
「はあ?」
「リッキーもこれからだろう。一緒に食べような」
「今日は私が、食べさせて差し上げますからね」
ベルトルドとアルカネットに嬉しそうに笑まれて、キュッリッキは引きつった笑みを返すので精一杯だった。
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