片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode227

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 ナルバ山の遺跡で瀕死の重傷を負ったキュッリッキが、ベルトルド邸に運ばれて1週間が経っていた。

 最初はどうなるかと、使用人たちを含めメルヴィンやルーファスを心配させたが、少量だが食事も摂るようになり、傷の治りも良いとヴィヒトリ医師が太鼓判を押してくれている。

 しかし、眠るキュッリッキの様子を見て、メルヴィンは表情を曇らせた。このところ、毎日のように表情には雲が湧いてしまう。

「なんだか、日に日に元気が薄れていっている気がします…」

 ひっそりと呟き、肩で溜息をついた。

 いつも泣き腫らした顔をしていて、疲労感を漂わせ、明らかに精彩を欠いている。傷は治ってきているというが、状態は悪化しているようにすら見えてしまうのだ。

「ん」

 メルヴィンはふと視線をずらすと、枕元に一輪の花があるのに気づいた。鈴蘭を大きくしたような形をした花だ。

「ルーファスさんが置いたんですか?」

 つまむ様に持った花をルーファスに見せると、ルーファスは小さく首をかしげて否定した。

「いんや、オレじゃないよ~」

「…そうですか。じゃあ、ヴィヒトリ先生かな」

「なのかなあ? まあ、なんにせよ、花瓶に活けてあげないと枯れちゃうね」

「そうですね。ちょっと一輪挿しの花瓶がないか、聞いてきます」

「いってらあ」

 メルヴィンは立ち上がると、花をつまんだまま部屋を出て行った。

 雑誌から顔を上げると、ルーファスは苦笑を浮かべながら肩をすくめた。

「生真面目さにいっそう磨きがかかっちゃったなあ。でも、ちょっと変わったかな、メルヴィン」

 真面目と誠実の塊のような男だが、融通が利かない堅物だ。優しいし思いやりもあるが、相手が重く感じてしまうほど真摯過ぎる。

 ところが、最近それがちょっと緩和してきたようにルーファスは感じていた。その証拠に、キュッリッキが随分と打ち解けてきているのだ。

 メルヴィンとの付き合いは、もう5年ほどになるが、初めて見られる傾向だった。

「キューリちゃんのおかげかな?」

 スヤスヤと眠るキュッリッキを見て、ルーファスは兄貴っぽい笑みを浮かべた。



「今帰ったぞー!」

 バンッとドアを観音開きにして、ベルトルドが元気よく姿を現した。帰宅してくるにはまだ早い、夕刻の17時を回ったところである。

「おかえりなさい」

 メルヴィンとルーファスが腰を浮かせながら、口を揃えて出迎えた。

 2人には適当に手をヒラヒラ振って、ベルトルドはスタスタとベッドに足早に寄る。

「ただいまリッキー」

「おかえりなさい、ベルトルドさん」

 キュッリッキは僅かに目を見張って迎えると、にっこりと笑った。

「今日は早いんだね」

「うん、リッキーとたくさん話がしたくて、急いで帰ってきたんだ」

 ベルトルドはキュッリッキの額や頬にキスの雨を降らせながら、少年のような満面の笑みを向ける。

「帰宅は夜更けが多いから、あまり話す時間もないしな」

 そう言って顔を上げると、いまだ立ちすくすメルヴィンとルーファスに、ムスッとした視線を投げかけた。

「もういいから、貴様らはあっちイケっ」

 2人は顔を見合わせ肩をすくめると、小さく頷いた。

「では、オレたち部屋に戻りますね。また明日、リッキーさん」

「まったね、キューリちゃん」

「うん、またね」

 退室していく2人を見ながら、ベルトルドはフンッと鼻を鳴らす。

「気のきかない奴らだな、まったく」
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