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記憶の残滓編
episode225
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「おっはよー、キューリちゃん」
静まり返ったその場に、ルーファスの明るい声が割り込んできて、当人がにこやかな笑顔で登場した。
「おはようルーさん」
ベッドの傍らに立ったルーファスを見上げて、キュッリッキは目を丸くする。ルーファスは両手に、大量の雑誌を抱えているのだ。
「なあにそれ? ルーさん」
「えっへへーん。ベルトルド様が隠し持ってた、超豪華未修正エロ本ナンダヨネ~。これなかなか流通してない、秘蔵中の秘蔵本なんだよ。もう涎まくりで、オレの読書ライフに春が来たヨ」
至福の笑顔である。
「ルーファスさん…」
「あ、メルヴィンも見る~? たまにはこういう高尚な芸術を読んで、見て、情緒豊かにならないと」
「い、いえ、オレは結構です…」
「そう? まあ興味が出たらテキトーに選んで。全部持ってこれないくらい、棚にギッシリ詰まっててサー。さっすがベルトルド様だよね」
ソファにドッカリ座り、雑誌を広げ始めるルーファスの横で、フェンリルが首をかしげながら覗き込んでいた。
「フェンリルも興味あるのー? そうだよねー、フェンリルも男だよねえ。でもこれ雌犬の写真は載ってないからなあ。――これいいだろう、うんうん、たまらん」
一人愉しそうなルーファスを見て、メルヴィンとキュッリッキは疲れたように溜息をついていた。
昼間はメルヴィンとルーファスがそばにいるので、過去を思い出したり夢に見ることはなかった。気が紛れることもあるし、2人からライオン傭兵団の、これまでの活躍話を聞いたりしている。
しかし夜になって寝静まると、決まって過去のことを夢に見た。
「リッキーさん、リッキーさん」
アルカネットに起こされて、キュッリッキは目を覚ますと、目から大粒の涙をこぼし始めた。
「大丈夫ですか? どうか、泣かないでください、身体に障ります」
優しいアルカネットの言葉に、キュッリッキはますます涙をこぼした。
「アタシ、アタシ、殺しちゃったの…殺しちゃったの…」
いきなりの告白に、アルカネットは僅かに目を見張る。
「殺さなかったら、アタシが殺されちゃってたもん。悪いことだけど、悪くないんだもん」
「ああ、リッキーは悪くないぞ。仕事でしたことだ」
目を覚ましたベルトルドは上半身を起こし、キュッリッキの額に優しくキスをした。
「こんなに苦しんで、頑張ったな。偉いそ、リッキー」
「うん…」
しゃくり上げながら頷き、キュッリッキは目を閉じ眠りについた。
「リッキーが初めて人を殺めたときのことだな。傭兵と認められて、初めての仕事だ」
「そうですか…」
アルカネットは沈痛な面持ちで、キュッリッキを見つめ、頭をそっと何度も撫でた。
ベルトルドはキュッリッキの寝顔を見つめながら、今しがた見ていた夢を思い起こす。
キュッリッキが直接、相手を刺したりしたわけじゃない。大きな狼の姿に戻ったフェンリルが、幼いキュッリッキの目の前でターゲットを噛み殺した。
喉を噛み切られ、血飛沫を撒き散らしながら倒れるターゲット。それを、凍ったように見つめるキュッリッキ。
――これは、お仕事だから。
幼いキュッリッキは、何度も胸の中で呟いていた。そして、自分の掌が血で真っ赤に染まっている悪夢にうなされながら、いつまでも涙を流し続けた。
キュッリッキが何に苦しんでいるか、どんな過去を生きてきたのかを知るために、ベルトルドはサイ《超能力》でキュッリッキの夢を受信していた。
何も知らずに慰めるのでは、本当の意味での慰めにはならない。上辺だけの優しさなど、今のキュッリッキには逆効果にしかならないからだ。
静まり返ったその場に、ルーファスの明るい声が割り込んできて、当人がにこやかな笑顔で登場した。
「おはようルーさん」
ベッドの傍らに立ったルーファスを見上げて、キュッリッキは目を丸くする。ルーファスは両手に、大量の雑誌を抱えているのだ。
「なあにそれ? ルーさん」
「えっへへーん。ベルトルド様が隠し持ってた、超豪華未修正エロ本ナンダヨネ~。これなかなか流通してない、秘蔵中の秘蔵本なんだよ。もう涎まくりで、オレの読書ライフに春が来たヨ」
至福の笑顔である。
「ルーファスさん…」
「あ、メルヴィンも見る~? たまにはこういう高尚な芸術を読んで、見て、情緒豊かにならないと」
「い、いえ、オレは結構です…」
「そう? まあ興味が出たらテキトーに選んで。全部持ってこれないくらい、棚にギッシリ詰まっててサー。さっすがベルトルド様だよね」
ソファにドッカリ座り、雑誌を広げ始めるルーファスの横で、フェンリルが首をかしげながら覗き込んでいた。
「フェンリルも興味あるのー? そうだよねー、フェンリルも男だよねえ。でもこれ雌犬の写真は載ってないからなあ。――これいいだろう、うんうん、たまらん」
一人愉しそうなルーファスを見て、メルヴィンとキュッリッキは疲れたように溜息をついていた。
昼間はメルヴィンとルーファスがそばにいるので、過去を思い出したり夢に見ることはなかった。気が紛れることもあるし、2人からライオン傭兵団の、これまでの活躍話を聞いたりしている。
しかし夜になって寝静まると、決まって過去のことを夢に見た。
「リッキーさん、リッキーさん」
アルカネットに起こされて、キュッリッキは目を覚ますと、目から大粒の涙をこぼし始めた。
「大丈夫ですか? どうか、泣かないでください、身体に障ります」
優しいアルカネットの言葉に、キュッリッキはますます涙をこぼした。
「アタシ、アタシ、殺しちゃったの…殺しちゃったの…」
いきなりの告白に、アルカネットは僅かに目を見張る。
「殺さなかったら、アタシが殺されちゃってたもん。悪いことだけど、悪くないんだもん」
「ああ、リッキーは悪くないぞ。仕事でしたことだ」
目を覚ましたベルトルドは上半身を起こし、キュッリッキの額に優しくキスをした。
「こんなに苦しんで、頑張ったな。偉いそ、リッキー」
「うん…」
しゃくり上げながら頷き、キュッリッキは目を閉じ眠りについた。
「リッキーが初めて人を殺めたときのことだな。傭兵と認められて、初めての仕事だ」
「そうですか…」
アルカネットは沈痛な面持ちで、キュッリッキを見つめ、頭をそっと何度も撫でた。
ベルトルドはキュッリッキの寝顔を見つめながら、今しがた見ていた夢を思い起こす。
キュッリッキが直接、相手を刺したりしたわけじゃない。大きな狼の姿に戻ったフェンリルが、幼いキュッリッキの目の前でターゲットを噛み殺した。
喉を噛み切られ、血飛沫を撒き散らしながら倒れるターゲット。それを、凍ったように見つめるキュッリッキ。
――これは、お仕事だから。
幼いキュッリッキは、何度も胸の中で呟いていた。そして、自分の掌が血で真っ赤に染まっている悪夢にうなされながら、いつまでも涙を流し続けた。
キュッリッキが何に苦しんでいるか、どんな過去を生きてきたのかを知るために、ベルトルドはサイ《超能力》でキュッリッキの夢を受信していた。
何も知らずに慰めるのでは、本当の意味での慰めにはならない。上辺だけの優しさなど、今のキュッリッキには逆効果にしかならないからだ。
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