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記憶の残滓編
episode224
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「おはようございます、リッキーさん」
「おはよう、メルヴィン」
ベッドの傍らにある椅子に座るメルヴィンに、キュッリッキは小さな笑みを向ける。その笑みを受けて、メルヴィンは僅かに表情を曇らせた。
また目が腫れている。それに、どことなく疲れている様子だった。
昨夜もキュッリッキの大きな叫び声と泣き声が、隣の部屋のメルヴィンにも聞こえていた。しっかりした厚みのある壁なので、くぐもったような音になっていたが、鋭い聴力を持つメルヴィンの耳は、その声を判別していた。
先ほど朝食の時に、ベルトルドとアルカネットに問いただしてみたが、
――貴様らが気にすることじゃない。
――詮索しないことです。
そう突っぱねられてしまった。食い下がっても話してくれそうもない雰囲気プラス、余計なことはするな、という念押しオーラも漂っていたので、それ以上聞き出すことができない。なので、
(リッキーさんに、直接聞いちゃって、いいのかな…)
何度も胸中で繰り返すが、キュッリッキの顔を見ていると、口に出せなかった。
興味本位で触れていいことではないのは判る。しかし、もしキュッリッキが心の底から困っていることがあったら、少しでも力になりたい。微力でも助けになるのなら、いくらでも頼って欲しかった。
「リッキーさん」
「うん?」
「あの、その、…もし話したいことがあるなら、オレ、いくらでも聞きますから。なんでも言ってくださいね」
端整な顔を情けないほど赤くしながら、メルヴィンはしどろもどろといった口調で、ようやく言った。
洒脱な会話はもっとも苦手である。更に冗談や軽口も苦手だ。
ルーファスやマリオンたちのように気楽な雰囲気で会話できれば、キュッリッキも話しやすいだろうと常に思っているほどに。
堅物で生真面目で社交的ではないので、こういう時は、本当に困ってしまう。
「……ありがとう、メルヴィン」
穏やかな口調でそう言われて、メルヴィンはハッとキュッリッキの顔を見つめた。嬉しさを滲ませた笑顔を、自分に向けてくれている。
(少しは、気持ちが、伝わったかな)
自信なくそう思いつつも、メルヴィンは肩の力を抜くと、照れくさそうに指先で頬を掻いた。
キュッリッキはというと、突然のメルヴィンの言葉に少々驚いていた。
言いたいことが顔に書いてあったのだろうか、それを感じてくれたんだろうか。
メルヴィンのスキル〈才能〉はサイ《超能力》ではないけど、言葉にしなくても、感じることのできる人なのだろう。
メルヴィンの気持ちは嬉しかったが、メルヴィンはキュッリッキの過去を知らない。ベルトルドやアルカネットのように、全てを知った上で案じてくれているわけではないのだ。
今はきっと、職務の延長みたいな感じなのかもしれない。
自分の過去を打ち明ける勇気は出ない。まだ、そこまでメルヴィンを信用していないからだ。
だから全てをさらけ出すことはできないけど、でも、こうして真摯に心配してくれることが嬉しかった。
「おはよう、メルヴィン」
ベッドの傍らにある椅子に座るメルヴィンに、キュッリッキは小さな笑みを向ける。その笑みを受けて、メルヴィンは僅かに表情を曇らせた。
また目が腫れている。それに、どことなく疲れている様子だった。
昨夜もキュッリッキの大きな叫び声と泣き声が、隣の部屋のメルヴィンにも聞こえていた。しっかりした厚みのある壁なので、くぐもったような音になっていたが、鋭い聴力を持つメルヴィンの耳は、その声を判別していた。
先ほど朝食の時に、ベルトルドとアルカネットに問いただしてみたが、
――貴様らが気にすることじゃない。
――詮索しないことです。
そう突っぱねられてしまった。食い下がっても話してくれそうもない雰囲気プラス、余計なことはするな、という念押しオーラも漂っていたので、それ以上聞き出すことができない。なので、
(リッキーさんに、直接聞いちゃって、いいのかな…)
何度も胸中で繰り返すが、キュッリッキの顔を見ていると、口に出せなかった。
興味本位で触れていいことではないのは判る。しかし、もしキュッリッキが心の底から困っていることがあったら、少しでも力になりたい。微力でも助けになるのなら、いくらでも頼って欲しかった。
「リッキーさん」
「うん?」
「あの、その、…もし話したいことがあるなら、オレ、いくらでも聞きますから。なんでも言ってくださいね」
端整な顔を情けないほど赤くしながら、メルヴィンはしどろもどろといった口調で、ようやく言った。
洒脱な会話はもっとも苦手である。更に冗談や軽口も苦手だ。
ルーファスやマリオンたちのように気楽な雰囲気で会話できれば、キュッリッキも話しやすいだろうと常に思っているほどに。
堅物で生真面目で社交的ではないので、こういう時は、本当に困ってしまう。
「……ありがとう、メルヴィン」
穏やかな口調でそう言われて、メルヴィンはハッとキュッリッキの顔を見つめた。嬉しさを滲ませた笑顔を、自分に向けてくれている。
(少しは、気持ちが、伝わったかな)
自信なくそう思いつつも、メルヴィンは肩の力を抜くと、照れくさそうに指先で頬を掻いた。
キュッリッキはというと、突然のメルヴィンの言葉に少々驚いていた。
言いたいことが顔に書いてあったのだろうか、それを感じてくれたんだろうか。
メルヴィンのスキル〈才能〉はサイ《超能力》ではないけど、言葉にしなくても、感じることのできる人なのだろう。
メルヴィンの気持ちは嬉しかったが、メルヴィンはキュッリッキの過去を知らない。ベルトルドやアルカネットのように、全てを知った上で案じてくれているわけではないのだ。
今はきっと、職務の延長みたいな感じなのかもしれない。
自分の過去を打ち明ける勇気は出ない。まだ、そこまでメルヴィンを信用していないからだ。
だから全てをさらけ出すことはできないけど、でも、こうして真摯に心配してくれることが嬉しかった。
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