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記憶の残滓編
episode223
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「これから暫くは、どんどん過去の記憶を夢に見るぞ」
「そんな、どうにかできないんですか?」
「どうにもしない」
天蓋を見つめながら、ベルトルドは素っ気なく言い切った。その、あまりにも淡白な言いように、アルカネットが鼻白む。
「……出来ないからしないのか、出来るけどしたくないのか、どっちなのですか?」
恨み言のような口調になるアルカネットに、ベルトルドはフンッと鼻を鳴らす。
「そのどっちでもない」
「理由を、お聞かせください」
「溜め込んでいるものを、全部吐き出させるためだ」
ベルトルドはアルカネットの方へと、身体の向きを変えた。そして、今にも飛びかかってきそうなアルカネットの顔を、ジッと見据える。
「思い出すのは辛いだろう。その時の状況や気持ちも、全部蘇るのだからな。だがな、そんな汚泥をいつまでも心の中に溜め続け、蓋をしても、かえって精神や身体に悪影響しか及ぼさない。これまで居場所を得られなかった、最大の要因だからだ。それならば、全て吐き出させて、心を軽くしてやりたい。本当の意味で、心から救ってやりたいんだ」
「しかし、今でなくてもいいでしょう? こんな大怪我を負っているというのに、逆効果にしかなりませんよ」
ベルトルドの言っていることは理解しているが、今のキュッリッキの健康状態を考えると、無理強いはしたくないのがアルカネットの心情だ。
「怪我の治りを遅くするかもしれません…。あなたは、あの酷い怪我を直に見ていないから、無慈悲に言えるのです」
「怪我のことなら、ヴィヒトリに任せてある。あいつが診ているんだから、リッキーの怪我は予定通りに必ず治るさ」
「呑気な言い草ですね」
「今がチャンスなんだよ、アルカネット」
「意味が判りません」
「俺の愛がリッキーの心に、安心感を芽生えさせた。そのことで、もう辛いことを、1人で抱え込まなくていい、全部俺にぶつければいいんだ、そう思うことができるようになった。そして今は気が緩んでいるから、どんどん思い出してくる。全部吐き出させるチャンスなんだ」
「……私の愛で、と訂正しておきます」
「フンッ」
ベルトルドは2人の間に挟まれて眠るキュッリッキの髪の毛を、指に掬い取った。
「辛くても辛いと言えない幼少期を送ってきたんだ。慰めてくれる大人も持たず、優しくしてくれる大人もいなかった。甘えることも知らないから、これから存分に甘やかしてやらないとな」
「まるで父親ですね」
ベルトルドは物凄く嫌そうな顔をアルカネットに向ける。
「愛し合う恋人同士だろうが」
「いえいえ、娘を案じる父親そのものですよ」
「……リッキーの怪我が治ったら、もっと色っぽい関係に導いてやる」
「私がそれを許すとお思いですか?」
「邪魔すんなっ」
シッ、シッとベルトルドは払う仕草で片手を振った。
「馬鹿な真似をしていないで、もう寝てください。起こす私の身にもなっていただきたいものです」
「俺は低血圧なんだ」
「ハイハイ。おやすみなさい」
「……おやすみ」
「そんな、どうにかできないんですか?」
「どうにもしない」
天蓋を見つめながら、ベルトルドは素っ気なく言い切った。その、あまりにも淡白な言いように、アルカネットが鼻白む。
「……出来ないからしないのか、出来るけどしたくないのか、どっちなのですか?」
恨み言のような口調になるアルカネットに、ベルトルドはフンッと鼻を鳴らす。
「そのどっちでもない」
「理由を、お聞かせください」
「溜め込んでいるものを、全部吐き出させるためだ」
ベルトルドはアルカネットの方へと、身体の向きを変えた。そして、今にも飛びかかってきそうなアルカネットの顔を、ジッと見据える。
「思い出すのは辛いだろう。その時の状況や気持ちも、全部蘇るのだからな。だがな、そんな汚泥をいつまでも心の中に溜め続け、蓋をしても、かえって精神や身体に悪影響しか及ぼさない。これまで居場所を得られなかった、最大の要因だからだ。それならば、全て吐き出させて、心を軽くしてやりたい。本当の意味で、心から救ってやりたいんだ」
「しかし、今でなくてもいいでしょう? こんな大怪我を負っているというのに、逆効果にしかなりませんよ」
ベルトルドの言っていることは理解しているが、今のキュッリッキの健康状態を考えると、無理強いはしたくないのがアルカネットの心情だ。
「怪我の治りを遅くするかもしれません…。あなたは、あの酷い怪我を直に見ていないから、無慈悲に言えるのです」
「怪我のことなら、ヴィヒトリに任せてある。あいつが診ているんだから、リッキーの怪我は予定通りに必ず治るさ」
「呑気な言い草ですね」
「今がチャンスなんだよ、アルカネット」
「意味が判りません」
「俺の愛がリッキーの心に、安心感を芽生えさせた。そのことで、もう辛いことを、1人で抱え込まなくていい、全部俺にぶつければいいんだ、そう思うことができるようになった。そして今は気が緩んでいるから、どんどん思い出してくる。全部吐き出させるチャンスなんだ」
「……私の愛で、と訂正しておきます」
「フンッ」
ベルトルドは2人の間に挟まれて眠るキュッリッキの髪の毛を、指に掬い取った。
「辛くても辛いと言えない幼少期を送ってきたんだ。慰めてくれる大人も持たず、優しくしてくれる大人もいなかった。甘えることも知らないから、これから存分に甘やかしてやらないとな」
「まるで父親ですね」
ベルトルドは物凄く嫌そうな顔をアルカネットに向ける。
「愛し合う恋人同士だろうが」
「いえいえ、娘を案じる父親そのものですよ」
「……リッキーの怪我が治ったら、もっと色っぽい関係に導いてやる」
「私がそれを許すとお思いですか?」
「邪魔すんなっ」
シッ、シッとベルトルドは払う仕草で片手を振った。
「馬鹿な真似をしていないで、もう寝てください。起こす私の身にもなっていただきたいものです」
「俺は低血圧なんだ」
「ハイハイ。おやすみなさい」
「……おやすみ」
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