片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode220

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「リッキー、リッキー!」

「リッキーさん!」

 声がして、更に身体が揺さぶられ、キュッリッキはハッと目を開いた。部屋の中はまだ暗く、明かりが横から感じられて目を向ける。ベッドサイドのランプが、頼りなげな光を放っていた。そして人の気配が左右からして、男が2人、覗き込んでいた。

「大丈夫か? リッキー」

 覗き込んできながら、心配そうな声を出す男を凝視する。

 キュッリッキは暫く男を見ていたが、やがて表情を険しくさせ、男を睨みつけた。

「アタシに近寄るな!」

 キュッリッキは大きな声で怒鳴った。

「アタシのことを虐める大人なんて大っ嫌いなんだ!」

 一息に言って、ハァ、ハァ、と何度も息を荒く吐き出す。そして目の前の男を突き飛ばしてやりたくて、身体を起こそうとした。

「動いてはダメだ!」

「離せええっ」

「リッキー!」

「触るなああああああああ」

 包帯でキツく縛られている右半身は動かないが、左半身で精一杯の抵抗を試みる。足も大きくばたつかせ、押さえつけてくる男たちの手から逃れようと必死になった。

「傷口が開いてしまいます、落ち着いてください、リッキーさん」

 もう一人の男は慌て、どうしていいか判らず右往左往状態だ。逆に、先程から話しかけてくる男は、冷静な表情でキュッリッキを見据え、そして何度も優しく話しかけ続けてきた。

「俺だ、リッキー、ベルトルドだ。リッキー」

 同じ言葉を辛抱強く言い続ける。

 10分ほどそんな状況が続いたが、やがてキュッリッキはくたりと動かなくなり、ジワジワと目尻に涙を浮かべると、しゃくり上げながら泣き始めた。

「ごめん…なさ…い…ごめ…」

「ヨシヨシ、良い子だ」

 大きな声で泣くキュッリッキの頭を、ベルトルドは腕に抱いて、もう片方の手で優しく頬を撫でた。

 正気に戻ったキュッリッキを見て、アルカネットはホッと胸をなでおろした。

 眠りについて暫くすると、苦しそうな唸り声が聞こえてきて目を覚ました。そして隣を見ると、顔に大汗を滲ませながら、キュッリッキが唸っていた。ベルトルドも目を覚まし、2人がかりでキュッリッキを目覚めさせようとして、今に至る。

 段々と泣き声も小さくなり、何度かしゃくりながら、キュッリッキは水底に沈んでいくように目を瞑る。

「ベルトルド様、これは一体…」

 キュッリッキが眠ったのを確認してから、アルカネットは声を顰め、怪訝そうにベルトルドを見る。

「辛い過去を、夢にみていたようだ」

「…夢、ですか」

「よほど辛いことだったのだろうな。泣き出すまで、俺のことが判っていなかった」

 横になったベルトルドは、手を伸ばしてキュッリッキの頭をそっと撫でてやる。表情がやるせなく歪んだ。

 ベルトルドの顔を見て、そしてキュッリッキを見る。アルカネットは小さく息を吐くと、再びベルトルドに目を向けた。

「……昨日仰っていたことは、このことだったのですか」

「ああ、そうだ」
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