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記憶の残滓編
episode219
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律儀と真面目が取り柄のメルヴィンは、一つのことが気になりだすと、解決するまでトコトン気になってしまう。
何故あんなに目を腫らすくらい泣いていたのか、その理由が気になってしょうがない。
別に自分が原因ではないのは判っている。それでも無性に気になってしまうのは、今の自分は、キュッリッキを慰め、励ます役割を任されているからだ。
あの遺跡の中で、血溜まりに身を浸し、息も絶え絶えになっていたキュッリッキを、励ますことしかできなかった。
ただ横に座り込み、冷えていく手を握り、話しかけていただけだ。
ランドンやカーティスたちが、必死で止血や痛みを和らげようと魔法を使っていたとき、何も出来ていなかった自分が悔しい。魔法も医療もスキル〈才能〉が違うのだからしょうがないにしても、なにかもっと別に、キュッリッキの助けになることが出来なかったのだろうか。
彼女に何一つしてやれていないことが、メルヴィンの気を塞いでいた。
ベッドの傍らの椅子に座り、キュッリッキの顔を見つめる。
初めてアジトに来た時は、美しく愛らしい顔は緊張で強張り、本当にこの先やっていけるのかと心配になったほどだ。しかし1週間ほど経つと、少しずつだが余裕も見え始め、さあこれからだ、といった矢先に大怪我を負ってしまった。
仕事の時の、生き生きとした笑顔を思い出し、キュッと胸が締め付けられる。
何度見ても見飽きない、素敵な笑顔だった。
「リッキーさん…」
切なげに呟いて、ひっそり溜息をこぼしたところで、扉がノックされてルーファスが入ってきた。
「ただいまっ」
「おかえりなさい。みんなの様子はどうでしたか?」
「どっと疲れてたけど、とりあえず平気そう。ただみんな、キューリちゃんの様子が気になってしょうがないって感じだったネ」
「そうですか…」
ルーファスは早朝に屋敷を出て、エルダー街のアジトへ様子を見に行っていた。
みんな顔に疲労を貼りつけながらも、しっかりと朝食は摂っていた。
「どう? キューリちゃんの様子は」
「ええ、さっき少し朝食を摂ってくれました。機嫌も良かったですし、痛み止めの薬を飲ませたあと、こうして寝てしまいました」
「そっかあ」
ルーファスも昨夜のことは気になっている。しかもベルトルドとアルカネットにガッチリガードされていたものだから、のぞき見もできなかったのだ。
「ベルトルド様とアルカネットさんに、悪さされた、とかじゃあないよねえ~?」
「そんなことをされた後の態度には、見えませんでしたね…」
2人は苦笑いをしながら溜息をこぼす。
「エッチなことされてたら、さすがにオレらにも話しづらいだろうし、まあ、おっさんたちを信じるしかないってのがねえ」
「イコールそういうふうにしか思えないあたりが、情けない気がしてなりません」
「だってサー、アルカネットさんはともかく、ベルトルド様だよ~。貴婦人たちは取っ替え引っ替え、風俗店にも足繁く通い、愛読書はエロ本だよ」
「ほ、本当なんですか…?」
「ウン。何年か前にエルダー街にあったストリップ劇場、アレ買い取っちゃったもん」
「……」
この場にベルトルドがいたら、殺されそうなことをルーファスは平然と言った。
「まあ、キューリちゃんこんなに可愛いけど、色気がナイからなあ~」
「それが、唯一の救いでしょうかね…」
自分でそう言っておいて、メルヴィンは頭を激しく横に振る。気にするのはそこではない。
「オレちょっと、ベルトルド様の部屋行ってくる」
「え?」
「棚の中にベルトルド様秘蔵のエロ本いっぱい見っけちゃってさ。何冊か持ってくるね~」
そう言って、ルーファスは鼻歌を奏でながら部屋を出ていった。
何故あんなに目を腫らすくらい泣いていたのか、その理由が気になってしょうがない。
別に自分が原因ではないのは判っている。それでも無性に気になってしまうのは、今の自分は、キュッリッキを慰め、励ます役割を任されているからだ。
あの遺跡の中で、血溜まりに身を浸し、息も絶え絶えになっていたキュッリッキを、励ますことしかできなかった。
ただ横に座り込み、冷えていく手を握り、話しかけていただけだ。
ランドンやカーティスたちが、必死で止血や痛みを和らげようと魔法を使っていたとき、何も出来ていなかった自分が悔しい。魔法も医療もスキル〈才能〉が違うのだからしょうがないにしても、なにかもっと別に、キュッリッキの助けになることが出来なかったのだろうか。
彼女に何一つしてやれていないことが、メルヴィンの気を塞いでいた。
ベッドの傍らの椅子に座り、キュッリッキの顔を見つめる。
初めてアジトに来た時は、美しく愛らしい顔は緊張で強張り、本当にこの先やっていけるのかと心配になったほどだ。しかし1週間ほど経つと、少しずつだが余裕も見え始め、さあこれからだ、といった矢先に大怪我を負ってしまった。
仕事の時の、生き生きとした笑顔を思い出し、キュッと胸が締め付けられる。
何度見ても見飽きない、素敵な笑顔だった。
「リッキーさん…」
切なげに呟いて、ひっそり溜息をこぼしたところで、扉がノックされてルーファスが入ってきた。
「ただいまっ」
「おかえりなさい。みんなの様子はどうでしたか?」
「どっと疲れてたけど、とりあえず平気そう。ただみんな、キューリちゃんの様子が気になってしょうがないって感じだったネ」
「そうですか…」
ルーファスは早朝に屋敷を出て、エルダー街のアジトへ様子を見に行っていた。
みんな顔に疲労を貼りつけながらも、しっかりと朝食は摂っていた。
「どう? キューリちゃんの様子は」
「ええ、さっき少し朝食を摂ってくれました。機嫌も良かったですし、痛み止めの薬を飲ませたあと、こうして寝てしまいました」
「そっかあ」
ルーファスも昨夜のことは気になっている。しかもベルトルドとアルカネットにガッチリガードされていたものだから、のぞき見もできなかったのだ。
「ベルトルド様とアルカネットさんに、悪さされた、とかじゃあないよねえ~?」
「そんなことをされた後の態度には、見えませんでしたね…」
2人は苦笑いをしながら溜息をこぼす。
「エッチなことされてたら、さすがにオレらにも話しづらいだろうし、まあ、おっさんたちを信じるしかないってのがねえ」
「イコールそういうふうにしか思えないあたりが、情けない気がしてなりません」
「だってサー、アルカネットさんはともかく、ベルトルド様だよ~。貴婦人たちは取っ替え引っ替え、風俗店にも足繁く通い、愛読書はエロ本だよ」
「ほ、本当なんですか…?」
「ウン。何年か前にエルダー街にあったストリップ劇場、アレ買い取っちゃったもん」
「……」
この場にベルトルドがいたら、殺されそうなことをルーファスは平然と言った。
「まあ、キューリちゃんこんなに可愛いけど、色気がナイからなあ~」
「それが、唯一の救いでしょうかね…」
自分でそう言っておいて、メルヴィンは頭を激しく横に振る。気にするのはそこではない。
「オレちょっと、ベルトルド様の部屋行ってくる」
「え?」
「棚の中にベルトルド様秘蔵のエロ本いっぱい見っけちゃってさ。何冊か持ってくるね~」
そう言って、ルーファスは鼻歌を奏でながら部屋を出ていった。
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