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記憶の残滓編
episode215
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ベルトルドとアルカネットが部屋を出ていくと、室内は驚く程静かになった。
キュッリッキは軽くしゃくりあげた。そして、目が熱を帯びて腫れぼったくなっていることに気づく。
憚ることなく声を上げて沢山泣いた。嬉しいという感情で、あんなに泣いたのは初めてである。
ずっと欲しかった愛をもらった。18年抱え続けていた凍えるような傷を、少しずつ癒していってくれるだろう。
修道院で暮らした7年間は、キュッリッキの心に深すぎる傷をつけ、辛い思い出しか与えてくれなかった。そこを飛び出してからの11年間は、世間の冷たさと、生きていくことに必死で、過去の思い出や心の傷は、心の奥底に必死に押しやっていた。
そんな中で、他人から与えられる愛が、全くなかったわけではない。
キュッリッキの数少ない友達の、ハドリーとファニー。2人からは友愛をもらっている。そしてハーツイーズのアパートの住人のおばちゃんずたちからも、優しい愛情はもらっていた。
しかしそれだけでは、キュッリッキの抱える大きな傷を、完全には癒せなかった。ほんの一時、忘れさせてくれただけだ。
深く傷つき、救いを求めるその心には、自分にだけ向けられる大きな愛が必要だったのだ。
2人から「愛している」と言われたことを、心の中で反芻する。その度に心が温かく、幸せだと震えた。傷口に滲みるのではなく、痛みが柔らかく去っていくように。
「嬉しいの」
にっこりと笑ったその時、いつのまにか顔のそばにフェンリルがきていて、焦れたように顔を押し付けてくる。
「ふふ、ヤキモチ焼いたの?」
そうだ、と言わんばかりにフェンリルは「フンッ」と盛大に鼻を鳴らす。文句があるとフェンリルは、決まってそうするのだ。
その様子に苦笑すると、フェンリルの小さな身体を左手で顎の下に抱き寄せる。
神々の世界アルケラから、キュッリッキを守るためにやってきた神狼フェンリル。普段は小さな仔犬の姿になって、片時もそばを離れずにいる。物心付いた時から、ずっと一緒の大事な相棒。
フェンリル、そしてアルケラの住人たちからも愛情はもらっていた。身体が激しく傷つけられると、神々が奇跡を施し癒してくれた。辛くてアルケラに意識を飛ばすと、住人たちがこぞって慰めてくれた。
人外からの愛も、キュッリッキの心は癒しきれなかった。それでも、ないよりは遥かにマシだっただろう。
「ありがとうフェンリル。フェンリルがいなかったら、アタシ生きてこられなかったし、ずっと寂しいままだったもん。大切で、大事な大事な相棒だよ」
優しく言うその言葉に満足して、フェンリルは嬉しそうに喉を鳴らした。
この時初めて、自分は幸せだとキュッリッキは思った。
キュッリッキは軽くしゃくりあげた。そして、目が熱を帯びて腫れぼったくなっていることに気づく。
憚ることなく声を上げて沢山泣いた。嬉しいという感情で、あんなに泣いたのは初めてである。
ずっと欲しかった愛をもらった。18年抱え続けていた凍えるような傷を、少しずつ癒していってくれるだろう。
修道院で暮らした7年間は、キュッリッキの心に深すぎる傷をつけ、辛い思い出しか与えてくれなかった。そこを飛び出してからの11年間は、世間の冷たさと、生きていくことに必死で、過去の思い出や心の傷は、心の奥底に必死に押しやっていた。
そんな中で、他人から与えられる愛が、全くなかったわけではない。
キュッリッキの数少ない友達の、ハドリーとファニー。2人からは友愛をもらっている。そしてハーツイーズのアパートの住人のおばちゃんずたちからも、優しい愛情はもらっていた。
しかしそれだけでは、キュッリッキの抱える大きな傷を、完全には癒せなかった。ほんの一時、忘れさせてくれただけだ。
深く傷つき、救いを求めるその心には、自分にだけ向けられる大きな愛が必要だったのだ。
2人から「愛している」と言われたことを、心の中で反芻する。その度に心が温かく、幸せだと震えた。傷口に滲みるのではなく、痛みが柔らかく去っていくように。
「嬉しいの」
にっこりと笑ったその時、いつのまにか顔のそばにフェンリルがきていて、焦れたように顔を押し付けてくる。
「ふふ、ヤキモチ焼いたの?」
そうだ、と言わんばかりにフェンリルは「フンッ」と盛大に鼻を鳴らす。文句があるとフェンリルは、決まってそうするのだ。
その様子に苦笑すると、フェンリルの小さな身体を左手で顎の下に抱き寄せる。
神々の世界アルケラから、キュッリッキを守るためにやってきた神狼フェンリル。普段は小さな仔犬の姿になって、片時もそばを離れずにいる。物心付いた時から、ずっと一緒の大事な相棒。
フェンリル、そしてアルケラの住人たちからも愛情はもらっていた。身体が激しく傷つけられると、神々が奇跡を施し癒してくれた。辛くてアルケラに意識を飛ばすと、住人たちがこぞって慰めてくれた。
人外からの愛も、キュッリッキの心は癒しきれなかった。それでも、ないよりは遥かにマシだっただろう。
「ありがとうフェンリル。フェンリルがいなかったら、アタシ生きてこられなかったし、ずっと寂しいままだったもん。大切で、大事な大事な相棒だよ」
優しく言うその言葉に満足して、フェンリルは嬉しそうに喉を鳴らした。
この時初めて、自分は幸せだとキュッリッキは思った。
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