片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode212

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 愛されたい。子供の頃からずっと願ってきた、ただ一つの思い。

 片翼の出来損ないの自分を、好きになってくれる人が欲しかった。容姿やスキル〈才能〉を好きになってくる人はいた。しかし、キュッリッキの全てを、悪い面も重い過去もひっくるめて好きになってくれた人は、まだいなかった。

 でも、ようやくそんな人が現れた。

 ベルトルドの力強い言葉は、今まで心に巣食っていた澱(おり)のようなものを払拭して、眩しい光を注ぎ込んでくれた。身体中を蝕んでいた苦しいモノを消し、温かで優しい熱でいっぱいにしてくれた。

 愛していると、言ってもらえた。

 なんて心地よく、喜びに満ちた響きだろう。

 上っ面の薄っぺらい言葉じゃない。キュッリッキを全部知った上で、言ってくれた愛だ。だから、涙が溢れて止まらないほど嬉しい。

 嬉しくて嬉しくて、必死に泣いた。こみ上げてくる感情の全てを泣き声に乗せて、言葉で言い表せない想いを込めて泣いた。

「リッキーさん」

 アルカネットに優しく呼びかけられ、キュッリッキは顔を上げてアルカネットを見る。

「私もあなたを愛していますよ。ベルトルドに負けないくらい、いえ、上回るほどに。私の愛は、全てあなたのものですからね」

「アルカネットさん……ありがとう」

 優しく微笑んでくれるアルカネットに、キュッリッキも涙顔を微笑ませた。

 いつまでも止まらない涙を、アルカネットがハンカチでそっと拭ってくれる。それも嬉しくて余計に涙がこぼれた。

 すると突然、ベルトルドがアルカネットと距離を置いて離れた。そして、ジロリとアルカネットを睨みつける。

「リッキーは俺のものだからな! お前には絶対あげないぞ」

 キュッリッキを抱きしめたまま、ベルトルドは鼻息荒く言い放った。キュッリッキは「ふぇ?」と目を丸くする。

「リッキーさんを物扱いするような言い方はよして下さい、相変わらず失礼なひとですね。まあ…もっとも、私とリッキーさんはすでに唇を重ね合った仲ですから。アナタがとやかく言う筋合いではないのですよ」

 光の粒子が零れるような、勝ち誇った笑みを満面に浮かべるアルカネットを、ベルトルドは歯ぎしりしながら忌々しげに睨みつけた。が、あることに気づいたように、無邪気な笑みを腕の中のキュッリッキに向ける。

(リッキー、キスしてもいいか?)

「えっ」

 念話でいきなり素っ頓狂なことを問われて、思わず声に出してしまう。アルカネットがそれに気づいて首をかしげた。

(俺もリッキーとキスしたいんだ! だからいいだろう?)

 何がいいんだろう!? と思った。

 握り拳を高らかに掲げて胸を張る姿が想像できそうな、有無を言わせない迫力に、キュッリッキは顔を真っ赤にして硬直してしまった。

 何故この人は自分と、そんなにキスがしたいのか。謎と疑問が鎌首をもたげる。

 この時、ベルトルドもアルカネットも、ある一点に気づいていない。

 確かにキュッリッキは愛に飢えていた。そして、2人はキュッリッキに惜しみない愛を注いだ。しかしその愛を、キュッリッキは恋愛感情と結びつけて捉えてはいなかった。
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