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記憶の残滓編
episode211
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「リッキーが俺のことが大好きで大好きでたまらないっ! というのは物凄くよく判る。ウン、ウン。俺はずば抜けて超絶イイ男だからな。でもそれは、俺が地位も名誉もあり、若くてハンサムで格好良くて大金持ちだからという理由で、好きになったわけじゃあない」
どこまで自惚れた自画自賛…と、溜息混じりに背後から聞こえるがスルーする。
「この俺だから、好きになったのだろう?」
自信たっぷりな笑顔を見つめ、キュッリッキは押し黙った。色々とツッコミたかった箇所はあるものの、ベルトルドのことは好きだ。こんな自分に愛情を向けてくれて、色々助けてくれる優しい人。それが召喚スキル〈才能〉のためと言われても、ここまでしてくれた大人はいなかったから。
2人の様子を見守りながら、よくもまあ恥ずかしげもなく言い切れるものだ、とアルカネットは思った。ベルトルドのこういうところは、相変わらずだと、別の意味で感心する。
女にだらしない部分はあるものの、一度口にした決心は、必ず実行に移し、成功してきたことをアルカネットは知っている。
子供の頃からそれは、ずっと変わらない。
だから――。
「昨夜リッキーが思いをぶつけてくれて、何に苦しんでいるかよく判ったぞ。ずっと、助けてほしかったのだろう? 自分のことを全部判ったうえで、受け入れてくれる存在が欲しかった、違うか?」
大きく目を見開いたまま、キュッリッキの視線は揺れた。黄緑色の瞳の中に、期待の色が濃く溢れる。
(本当に、判ってくれたの? 誰も気づいてくれなかったの……判って…気づいてくれたの?)
荒れる感情を迸らせていれば、誰か気づいてくれていたのかもしれない。無意識の救済を。でも、手を差し伸べてくれる人はいなかった。ハドリーもファニーも、一歩手前で踏みとどまっている。キュッリッキが一番望んでいるものは、友人の2人すら与えてくれなかった。
キュッリッキの瞳を見つめ返し、ベルトルドは力強く言った。
「俺がリッキーの全てを受け入れる。過去のことを思い出したら全部俺にぶつけろ。我が儘も俺に言え。好きなだけ求め甘えていい! リッキーが望むだけの、いや、それ以上の愛を俺が注いでやる!」
18年という長い時間を経て、やっと受け入れてくれる大人が現れた。出来損ないでも愛してくれる大人が。親も見捨てた自分を、愛してくれるのだと。
キュッリッキは自由になる左腕を、もがくようにしてベルトルドに伸ばした。今すぐにでもベルトルドに抱きつきたくて、動かない右半身を恨めしくさえ思った。
ベルトルドはキュッリッキを抱き上げると、いたわりながら優しく抱きしめた。キュッリッキは左腕をベルトルドの首にまわして、憚ることなく大声で泣き喚いた。
悲しい泣き声ではない。
出会えた喜びにも似た、救い出された安堵のような、心の底から湧き上がるような泣き声だった。
「リッキーを、愛している」
耳元でそっと囁くようなベルトルドの告白は、キュッリッキにとって生まれて初めて自分に向けられた、愛という言葉だった。
どこまで自惚れた自画自賛…と、溜息混じりに背後から聞こえるがスルーする。
「この俺だから、好きになったのだろう?」
自信たっぷりな笑顔を見つめ、キュッリッキは押し黙った。色々とツッコミたかった箇所はあるものの、ベルトルドのことは好きだ。こんな自分に愛情を向けてくれて、色々助けてくれる優しい人。それが召喚スキル〈才能〉のためと言われても、ここまでしてくれた大人はいなかったから。
2人の様子を見守りながら、よくもまあ恥ずかしげもなく言い切れるものだ、とアルカネットは思った。ベルトルドのこういうところは、相変わらずだと、別の意味で感心する。
女にだらしない部分はあるものの、一度口にした決心は、必ず実行に移し、成功してきたことをアルカネットは知っている。
子供の頃からそれは、ずっと変わらない。
だから――。
「昨夜リッキーが思いをぶつけてくれて、何に苦しんでいるかよく判ったぞ。ずっと、助けてほしかったのだろう? 自分のことを全部判ったうえで、受け入れてくれる存在が欲しかった、違うか?」
大きく目を見開いたまま、キュッリッキの視線は揺れた。黄緑色の瞳の中に、期待の色が濃く溢れる。
(本当に、判ってくれたの? 誰も気づいてくれなかったの……判って…気づいてくれたの?)
荒れる感情を迸らせていれば、誰か気づいてくれていたのかもしれない。無意識の救済を。でも、手を差し伸べてくれる人はいなかった。ハドリーもファニーも、一歩手前で踏みとどまっている。キュッリッキが一番望んでいるものは、友人の2人すら与えてくれなかった。
キュッリッキの瞳を見つめ返し、ベルトルドは力強く言った。
「俺がリッキーの全てを受け入れる。過去のことを思い出したら全部俺にぶつけろ。我が儘も俺に言え。好きなだけ求め甘えていい! リッキーが望むだけの、いや、それ以上の愛を俺が注いでやる!」
18年という長い時間を経て、やっと受け入れてくれる大人が現れた。出来損ないでも愛してくれる大人が。親も見捨てた自分を、愛してくれるのだと。
キュッリッキは自由になる左腕を、もがくようにしてベルトルドに伸ばした。今すぐにでもベルトルドに抱きつきたくて、動かない右半身を恨めしくさえ思った。
ベルトルドはキュッリッキを抱き上げると、いたわりながら優しく抱きしめた。キュッリッキは左腕をベルトルドの首にまわして、憚ることなく大声で泣き喚いた。
悲しい泣き声ではない。
出会えた喜びにも似た、救い出された安堵のような、心の底から湧き上がるような泣き声だった。
「リッキーを、愛している」
耳元でそっと囁くようなベルトルドの告白は、キュッリッキにとって生まれて初めて自分に向けられた、愛という言葉だった。
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