片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode209

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「昨夜も昔のこと、思い出しちゃってて…。それで――」

「うん、判ってる」

「……え?」

 一瞬なんのことだろうと、キュッリッキは目を瞬かせた。

「俺もアルカネットも、知っている。リッキーの過去のこと、全部」

 ゆっくりと目を見開いて、じっと見つめてくるベルトルドを凝視する。

(アタシの過去……、知ってる…? 過去を知っている? 過去を知っているということは、アタシがアイオン族で、忌まわしい片翼のことまで、全部知っているということなの?)

 2人の顔を交互に見て、キュッリッキの呼吸が荒くなった。何かひどく恐ろしいことを聞いたようにサッと顔色が変わり、警戒するような色がその目にありありと浮かんだ。

 ベルトルドは感情の色の伺えない表情をしていた。そしてアルカネットは、悲しげに目を伏せている。

 キュッリッキの身体が、小刻みに震え始めた。

 ベルトルドはベッドに座り直し、可哀想なほど震えるキュッリッキを、しっかりと見据えた。

「リッキーをスカウトする前に、全部調べたんだ。生まれも、育ちも、何もかも調べられるだけ調べた。だから、リッキーが気に病んでいる過去のことも、俺たちは知っているんだよ」

 穏やかに言われても、その内容にキュッリッキは愕然とした。

 脳裏に走馬灯のように再生していく、初めてベルトルドやアルカネットと出会ったときのこと。

 2人はビックリするほど優しかった。あんなふうに、優しく見つめられたり、微笑んでくれたり初めての経験だった。そして大怪我をした自分のために、遠い異国まで助けに来てくれた。

 出来損ないの自分のために。

 何故、2人は優しくしてくれたのだろう。出来損ないと知っていて。

 ベルトルドをまじまじと見つめたあと、キュッリッキは急に心が冷えていくような感じに包まれた。そしてポツリとこぼす。

「知ってるんだったら…、なんで、なんで優しくしてくれるの? おかしいじゃない」

 出来損ないには優しくしないのが大人だ。それなのに。

「なにが、おかしいんだい?」

 首をかしげるベルトルドを、キュッリッキは睨むように見つめた。そして横たわった姿勢で、無理矢理翼を生やした。ベルトルドとアルカネットが驚いて目を見張る。

 翼を出したことで傷に響いたのか、表情が苦悶に歪む。ベッドの上に虹の光彩をまとわせた白い羽根が、粉雪のように舞い上がった。

「見てよ! 片方しか翼はきちんと生えなかった。左側の翼は残骸みたいに出てるだけ、白い翼にはならなかった!! 飛べないの! 出来損ないだから、だからアタシの親はアタシを捨てたし、修道院でも虐められたわ。誰も優しくしてくれなかった!」

 ハア、ハア、と荒く息を何度も吐き出し、叫ぶように言った。

「召喚スキル〈才能〉があったって、国もアタシを見捨てたし、誰も受け入れてくれなかったわ。出来損ないのアタシなんて、誰も好きじゃないんだからっ!」

 全身に痛みが広がり、目尻に涙が滲む。キュッリッキはあまりの傷の痛みに耐えかねて、急いで翼を消した。

 空気に溶けるように、羽根は霧散していった。
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