片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode207

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 ベッドに身を横たえながら、キュッリッキはぐるぐると悩んでいた。

 もうじきベルトルドたちが帰ってくる。そして、ここを追い出され、ライオン傭兵団も出て行かなくてはならないのだ。

 いつものことだ。

 感情を乱れさせ、居場所をなくして、ハーツイーズのアパートへ戻る。

 慣れたくはないけど、慣れてしまっていることなのに、今度ばかりは辛い。

 こんな大怪我をしてしまったけど、ソレル王国でライオン傭兵団の中での仕事は楽しかった。召喚の力でみんなの持っている力を引き出し、サポートして、充実した気分になれた。

 やっと居場所のようなものを見つけた気がしたのに。自らの振る舞いで、もうじき終わろうとしている。

 そこへドアがノックされ、リトヴァが夕食の膳を運んで部屋に入ってきた。

「お夕食をお持ちいたしました。少しでも、お召し上がりなさいませ」

「欲しくない…」

 キュッリッキはポツリと呟いた。

 リトヴァはスープポットからいい匂いのスープを皿に入れて、皿を持ってベッドの傍らの椅子に座った。

 透明な金色のスープは、コンソメスープのようだ。

「お怪我をなさってから、もうずっとなにも召し上がっておられないと聞いております。固形のものは胃に負担がかかりますし、スープなら大丈夫でしょう。温かいスープを少しでも、お口に入れてくださいませ」

 しかしキュッリッキは、きゅっと口を引き結び、目を伏せていた。

「お嬢様、少しはお食べになりませんと…」

 リトヴァが困ったようにスプーンを皿に戻す。

 屋敷の料理人たちが、キュッリッキが元気になるようにと、滋養のある食材を用いて心を込めて作り上げたスープだ。少しでもいいから口に入れて欲しかった。

「ごめんなさい、お腹すいてないの」

 相変わらずシーツに顔を半分埋めたまま、キュッリッキはくぐもった声で小さく答えた。

 お腹なら、すでに不安で満たされている。これ以上何も入りそうもないほどに。

 怪我をした日から薬と水以外口にしていなかったが、少しも空腹は感じなかった。むしろ、ベルトルドの帰宅が怖くてならない。まさかそれを言うわけにもいかず、キュッリッキにはほかに言い訳が見つからなかった。

 これ以上粘っても無理だと思い、諦めて皿を下げようとリトヴァが腰を浮かせたとき、ノックがして屋敷の主が入ってきた。

「今帰ったぞー!」

 元気に言うベルトルドに続いて、アルカネットも入ってきた。

「おかえりなさいませ、旦那様がた」

 リトヴァは慇懃に挨拶をして、キュッリッキの方を見ると、キュッリッキの顔が一瞬にして緊張に塗り変わっていた。

 その様子を怪訝そうに見ながらも、ベルトルドに下がるよう言われて、リトヴァは食事の膳と共に部屋を出て行った。

 ついに、帰ってきてしまった。

(謝らなくっちゃ…)
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