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記憶の残滓編
episode205
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疲労感を全身からオーラのように滲ませ、デスクの前でぼーっとしているベルトルドの前に、アルカネットとシ・アティウスが揃って顔を出したのは、すっかり暗くなった頃だった。
予定外に会議が早く終わったとかで、使いから連絡があり、2人共総帥本部の執務室に出頭したのだ。
ベルトルドのデスク前まで来ると、シ・アティウスは小さく肩をすくめた。この部屋の主は、なんとも弛緩した、情けない顔をしていた。
「貴婦人が夢から覚めるような顔をなさっていますよ」
シ・アティウスが率直な感想を述べると、ベルトルドは拗ねた顔で小さな吐息を漏らした。
「さすがに疲れた…」
夜も明けきらぬうちから、大量の書類と格闘を開始して、現在まで激務をこなしていたのだ。リュリュに宰相府の仕事を押し付けているので、リュリュの手伝いがなかったのも影響している。次席秘書官などとリュリュの処理能力は、比べるまでもなく雲泥の差がありすぎた。
「伊達にオカマの道は貫いていないな」
全く関係ない例えを用いて、ベルトルドは勝手に納得していた。
「我々が報告をしている間、これでも食べて一服していてください」
デスクに見た目の愛らしいチョコレート菓子の皿と紅茶を置いて、アルカネットが労をねぎらう。泣く子も黙らせる副宰相閣下は、実は大の甘党である。
「お、すまんな」
ベルトルドはチョコレート菓子を一つつまむと、美味しそうに口の中に放り込んだ。
その様子を無感動に見ながら、シ・アティウスが淡々と報告を始めた。
ソレル王国のナルバ山の遺跡に関する調査報告だった。時折アルカネットが補足をし、ベルトルドが質問を挟んで、報告には30分もの時間を費やした。
「そうか。あれがレディトゥス・システムだったか」
「間違いないでしょう」
シ・アティウスは断言した。
「ソレル王国の不審な行動も明らかですし、頃合でしょうね」
アルカネットが報告書を差し出すと、数枚に書かれた内容に目を通し、ベルトルドは嘲笑うように口の端を歪めた。
「愚かな頭を持つと、小国は苦労をするな。折角だからしっかりまとめさせてやれ、こちらが動くのはそのあとだ」
アルカネットは肩をすくめて、了解の意を示した。
「では、私は研究の続きがありますので、これで」
礼をして踵を返そうとしたシ・アティウスを、ベルトルドが止めた。
「ちょっとお前たちに見てもらいたいものがあってな、こっちきてくれ」
ちょいちょいと指先を動かし2人を招く。そして立ち上がりデスクの前に出て、いきなり2人の頭を鷲掴みにした。
「……これは、なんの真似でしょうか」
シ・アティウスは顔色一つ変えず、僅かに眉を引き上げて呟いた。
「おう、ちょっとだけ我慢しろ。映像を見せるときは接触しているほうが、きれいに見せられるんでな」
そう言ってベルトルドは目を閉じる。ならうように2人も目を閉じた。
約10分ほどそうしてから、ベルトルドは手をはなした。
三者三様、何とも言えない表情を浮かべて黙り込んだ。とくにアルカネットなど、倒れそうなほど青ざめている。
「あの召喚士の少女に、こんな過去が…。キツイですね」
アルケラのことを一生懸命に語るキュッリッキの顔を思い出し、シ・アティウスにしては珍しく、沈痛な面持ちでため息をついた。
「このことで昨夜は荒れてな。今頃ひどく落ち込んでいるだろう」
ベルトルドは昨夜のキュッリッキとの一件を、彼女の記憶とともに2人に映像として見せたのだった。
予定外に会議が早く終わったとかで、使いから連絡があり、2人共総帥本部の執務室に出頭したのだ。
ベルトルドのデスク前まで来ると、シ・アティウスは小さく肩をすくめた。この部屋の主は、なんとも弛緩した、情けない顔をしていた。
「貴婦人が夢から覚めるような顔をなさっていますよ」
シ・アティウスが率直な感想を述べると、ベルトルドは拗ねた顔で小さな吐息を漏らした。
「さすがに疲れた…」
夜も明けきらぬうちから、大量の書類と格闘を開始して、現在まで激務をこなしていたのだ。リュリュに宰相府の仕事を押し付けているので、リュリュの手伝いがなかったのも影響している。次席秘書官などとリュリュの処理能力は、比べるまでもなく雲泥の差がありすぎた。
「伊達にオカマの道は貫いていないな」
全く関係ない例えを用いて、ベルトルドは勝手に納得していた。
「我々が報告をしている間、これでも食べて一服していてください」
デスクに見た目の愛らしいチョコレート菓子の皿と紅茶を置いて、アルカネットが労をねぎらう。泣く子も黙らせる副宰相閣下は、実は大の甘党である。
「お、すまんな」
ベルトルドはチョコレート菓子を一つつまむと、美味しそうに口の中に放り込んだ。
その様子を無感動に見ながら、シ・アティウスが淡々と報告を始めた。
ソレル王国のナルバ山の遺跡に関する調査報告だった。時折アルカネットが補足をし、ベルトルドが質問を挟んで、報告には30分もの時間を費やした。
「そうか。あれがレディトゥス・システムだったか」
「間違いないでしょう」
シ・アティウスは断言した。
「ソレル王国の不審な行動も明らかですし、頃合でしょうね」
アルカネットが報告書を差し出すと、数枚に書かれた内容に目を通し、ベルトルドは嘲笑うように口の端を歪めた。
「愚かな頭を持つと、小国は苦労をするな。折角だからしっかりまとめさせてやれ、こちらが動くのはそのあとだ」
アルカネットは肩をすくめて、了解の意を示した。
「では、私は研究の続きがありますので、これで」
礼をして踵を返そうとしたシ・アティウスを、ベルトルドが止めた。
「ちょっとお前たちに見てもらいたいものがあってな、こっちきてくれ」
ちょいちょいと指先を動かし2人を招く。そして立ち上がりデスクの前に出て、いきなり2人の頭を鷲掴みにした。
「……これは、なんの真似でしょうか」
シ・アティウスは顔色一つ変えず、僅かに眉を引き上げて呟いた。
「おう、ちょっとだけ我慢しろ。映像を見せるときは接触しているほうが、きれいに見せられるんでな」
そう言ってベルトルドは目を閉じる。ならうように2人も目を閉じた。
約10分ほどそうしてから、ベルトルドは手をはなした。
三者三様、何とも言えない表情を浮かべて黙り込んだ。とくにアルカネットなど、倒れそうなほど青ざめている。
「あの召喚士の少女に、こんな過去が…。キツイですね」
アルケラのことを一生懸命に語るキュッリッキの顔を思い出し、シ・アティウスにしては珍しく、沈痛な面持ちでため息をついた。
「このことで昨夜は荒れてな。今頃ひどく落ち込んでいるだろう」
ベルトルドは昨夜のキュッリッキとの一件を、彼女の記憶とともに2人に映像として見せたのだった。
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