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記憶の残滓編
episode204
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さきほどヴィヒトリが投与した薬が効いてきたのか、緩やかな眠気に誘われるまま、キュッリッキは目を閉じた。そして何も考えられなくなり、吸い込まれるように意識は眠りの底へと沈んでいった。
キュッリッキが寝入ったのを確認し、2人は一旦部屋を出る。
「なんだか元気なかったな、キューリちゃん。まあ、目が覚めたばっかりで、色々驚いているんだろうケド」
「どことなく、塞ぎ込んでいた感じでしたね。何か心配事でもあるのかな」
「ふむ~。――病院よりも、気分的にずっと癒されやすいだろうって、ベルトルド様は自分の屋敷にキューリちゃんを連れてきたって言ってたけどネ」
病気や怪我人だらけの病院で、心身が休まるか! とベルトルドは言っていた。確かにそうは思う。幸い主治医は毎日診察に来るし、同じハーメンリンナ内だから、何かあればすぐに駆けつけられる。それに、ホームドクターがこの屋敷には常駐しており、主治医が来るまでは適切な処置もしてもらえるから安心だ。
そう思う一方、ルーファスは嫌な考えにたどり着く。
「まさか…」
「え?」
「あのエロオヤジになにかされてるんじゃ……」
「――即否定出来ないものが、ありますよね」
いくらなんでも、常識くらいはあの人にだってありますよ。と考えたい気持ちと、まさかと思う否定出来ない部分の葛藤に、しばし2人は悩まされた。
昼過ぎにキュッリッキは目を覚ました。しかし、何となくぎこちない時間だけが過ぎて行った。
更に陽が落ちていくにつれ、目に見えて落ち込み度が深まっていく。
ルーファスもメルヴィンも心配がどんどん膨らみ、何かあったのかとなんとか聞き出そうとするが、キュッリッキは目を伏せたまま答えようとしない。無理強いするのも可哀想になるくらい落ち込んでいるので、それ以上追求も出来なかった。
そうこうしているうちに夜になり、執事代理のセヴェリが呼びに来て、2人は夕食をとるため部屋を出た。
「そういやベルトルド様達遅いな。もう帰ってきてもいい頃だろ?」
「昨日は仕事を休む形になってますから、きっと残業なんでしょう」
「ああ…」
天井を見上げながら、ルーファスは何度も頷く。
「副宰相、全軍総帥、ケレヴィルの所長もやってたよな確か。役員とかもけっこう抱えてたし。国政と軍事だけでも大変なのに、オレらの後ろ盾もやってるんだよなあ」
「なんでも、司法にもちょっと触れてるみたいですよ…」
「ひい」
毎日大変そうだなあと、2人は苦笑する。ハワドウレ皇国という、巨大な国の政を任されているのだ。事務処理だけでも大変な量だろうと想像がつく。
「お2人が戻るまでは、オレ達でそばにいたほうがいいですよね?」
「そうだね。ただ、キューリちゃんが一人になりたそ~なオーラ漂わせてるから、ちょっと…」
心配事を口に出すのも辛そうに、塞ぎ込んでしまっていた。
「そんな雰囲気になってましたね。でも、なおのこと一人にしておくのも不安ですし、早めに食事を済ませちゃいましょう」
「だな」
キュッリッキが寝入ったのを確認し、2人は一旦部屋を出る。
「なんだか元気なかったな、キューリちゃん。まあ、目が覚めたばっかりで、色々驚いているんだろうケド」
「どことなく、塞ぎ込んでいた感じでしたね。何か心配事でもあるのかな」
「ふむ~。――病院よりも、気分的にずっと癒されやすいだろうって、ベルトルド様は自分の屋敷にキューリちゃんを連れてきたって言ってたけどネ」
病気や怪我人だらけの病院で、心身が休まるか! とベルトルドは言っていた。確かにそうは思う。幸い主治医は毎日診察に来るし、同じハーメンリンナ内だから、何かあればすぐに駆けつけられる。それに、ホームドクターがこの屋敷には常駐しており、主治医が来るまでは適切な処置もしてもらえるから安心だ。
そう思う一方、ルーファスは嫌な考えにたどり着く。
「まさか…」
「え?」
「あのエロオヤジになにかされてるんじゃ……」
「――即否定出来ないものが、ありますよね」
いくらなんでも、常識くらいはあの人にだってありますよ。と考えたい気持ちと、まさかと思う否定出来ない部分の葛藤に、しばし2人は悩まされた。
昼過ぎにキュッリッキは目を覚ました。しかし、何となくぎこちない時間だけが過ぎて行った。
更に陽が落ちていくにつれ、目に見えて落ち込み度が深まっていく。
ルーファスもメルヴィンも心配がどんどん膨らみ、何かあったのかとなんとか聞き出そうとするが、キュッリッキは目を伏せたまま答えようとしない。無理強いするのも可哀想になるくらい落ち込んでいるので、それ以上追求も出来なかった。
そうこうしているうちに夜になり、執事代理のセヴェリが呼びに来て、2人は夕食をとるため部屋を出た。
「そういやベルトルド様達遅いな。もう帰ってきてもいい頃だろ?」
「昨日は仕事を休む形になってますから、きっと残業なんでしょう」
「ああ…」
天井を見上げながら、ルーファスは何度も頷く。
「副宰相、全軍総帥、ケレヴィルの所長もやってたよな確か。役員とかもけっこう抱えてたし。国政と軍事だけでも大変なのに、オレらの後ろ盾もやってるんだよなあ」
「なんでも、司法にもちょっと触れてるみたいですよ…」
「ひい」
毎日大変そうだなあと、2人は苦笑する。ハワドウレ皇国という、巨大な国の政を任されているのだ。事務処理だけでも大変な量だろうと想像がつく。
「お2人が戻るまでは、オレ達でそばにいたほうがいいですよね?」
「そうだね。ただ、キューリちゃんが一人になりたそ~なオーラ漂わせてるから、ちょっと…」
心配事を口に出すのも辛そうに、塞ぎ込んでしまっていた。
「そんな雰囲気になってましたね。でも、なおのこと一人にしておくのも不安ですし、早めに食事を済ませちゃいましょう」
「だな」
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