片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode203

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 ラフな普段着姿のルーファスとメルヴィンが、笑顔で部屋に入ってきた。

「意識が戻って良かったです、本当に」

 安堵を浮かべた顔で、メルヴィンはホッと胸をなで下ろす。それに「うんうん」と頷いて、ルーファスはニッコリと笑った。

「熱も無事下がったんだってね。ずっと苦しそうだったから、安心したよ。顔色もイイね」

 愛嬌のある笑みを向けられて、つられたようにキュッリッキも微笑み返す。

「今の気分はどうですか? 辛いところや痛いところなどありませんか?」

 ルーファスの隣に立ったメルヴィンが、心配そうに身を乗り出した。

「大丈夫だよ」

「そうですか、良かった」

「さっき、リトヴァさんてひとがきて、身体拭いてもらって、頭も洗ってもらったの。だからすっきりしてる」

「なるほど~」

「女の子だもんな。身だしなみは気になるよねえ」

「うん」

「ここで厄介になってるあいだは、毎日世話しにやってくるぞ」

 ベッドの端に腰をかけたルーファスは、ややうんざりしたように肩をすくめた。

「まあ、怪我が治るまでは、お嬢様生活を満喫するといいさ」

「本物のお嬢様って、毎日あんな調子でメイドが全部してくれるの?」

「ハーメンリンナに住んでるお嬢様は、それが普通さ」

「……そうなんだ」

 今は自分で動けないので、世話を焼いてもらえるのは助かるが。でも、毎日あんなにゾロゾロ押しかけられたら、鬱陶しいと思わないのだろうかと、キュッリッキは呆れてしまう。

 お嬢様をやるのもタイヘンなんだなぁ、と思ってしまった。

「昨日ちょろっと見ただけだったけど、凄い部屋だねえ。ベルトルド様とアルカネットさんの気合を感じるよ…」

 ルーファスは引きつった笑みを浮かべた。宮殿騎士などをやっていたので、高級家具は見慣れている。その目で見ても、この部屋に尽くされた贅は、相当のものだった。

「そうですね。でも、陽当りもよくて、明るく素敵な部屋ですね」

 メルヴィンも苦笑気味に言った。豪華ではあるが、どことなく少女趣味な趣もあって、キュッリッキのために設えられたのだとよく判る。

「ねえ、そいえばなんで2人だけここにいるの? 他のみんなは?」

「オレたちが代表で、リッキーさんのお世話を任されたんです」

 にこりとメルヴィンに言われ、ふいにキュッリッキの顔が曇った。

「ごめんね、アタシのせいで…」

「なんで謝るの」

 困ったように笑いながら、手を伸ばしたルーファスが、そっとキュッリッキの前髪を指で掬った。

「そこは謝るとこじゃないでしょ。イイ男が2人も一緒にいるんだよ、素直に喜べばいいんだから」

「…そうなの?」

「そうなの」

 2人の笑顔を見て、キュッリッキは心底申し訳なく思う。そして心に、小さな痛みが走った。

 もうすぐ追い出されるかもしれないのに、2人はそれでも心配してくれるだろうか。仲間じゃなくなったら、ただの赤の他人に戻る。そしたらそれきりになってしまう。

 ――寂しいと思った。

 目を伏せて沈んでしまったキュッリッキを見て、ルーファスとメルヴィンは困惑したように顔を見合わせた。
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