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記憶の残滓編
episode202
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まだ20代前半くらいの、年若い男だ。
胸元くらいまである金の髪は、キュッリッキの金髪よりやや濃い色をしている。青い瞳を埋め込んだ切れ長の目、そこに少し太めの黒縁のメガネをかけていた。
感じのいい笑顔を貼り付けているので、親しみやすい印象があった。
ただ、キュッリッキは人見知り体質である。相手が医者だろうと使用人だろうと、初めて言葉をかわすときには、どうしても距離をあけてしまう癖がある。わざとそうしているんじゃなく、自然とそうなった。
さきほどリトヴァやメイドたちは、いきなりのことだったし、身体も綺麗にしてもらえて心が緩んでいた。それに同性同士なのもあって、男よりはまだ話はしやすい。
ヴィヒトリはキュッリッキの様子を見て、
「キュッリッキちゃんは、人見知りする子なんだね」
そう言って、意地悪っぽく笑った。
「う…」
図星だから否定しようがない。離れたところで様子を見ていたリトヴァは、思わず吹き出してしまっていた。
「まあ、これから毎日顔を合わせることになるから、人見知りしてるヒマなんてないヨ。だから安心するんだ。さ、診察、診察」
ヴィヒトリはサクッと断言して、カバンからカルテを出してペンをとった。
診察と手当が終わると、ヴィヒトリは点滴の用意をして、キュッリッキの細っそりした腕に針を刺した。
「痛くないかな?」
「うん、平気」
「ちょっとばかし、軽い脱水症状になってるから、点滴している。――終わったら、針の抜きかた判ります?」
ヴィヒトリは後ろに控えるリトヴァを見る。
「はい、存じ上げております」
「じゃあ、終わったら片しといてね」
「承りました」
「とにかく熱が下がって良かった。もうこれからは治るダケだから、安心してイイヨ」
キュッリッキの頭を優しくポンッと叩いて、ヴィヒトリは立ち上がった。
「また明日ね、キュッリッキちゃん」
「ありがと、先生」
手を振ってヴィヒトリはドアへと向かう。
「失礼致します」
キュッリッキに頭を下げて、リトヴァはヴィヒトリに続いて部屋を出ていった。
急に部屋が静まり返り、キュッリッキは時計に目を向ける。
もう10時になろうとしていた。
キュッリッキは再びしょんぼりすると、表情を一気に曇らせた。
せっかくよくしてもらったのに、明日にはここを追い出されるのだ。ああしてリトヴァやメイドたちが世話を焼いてくれたが、それはきっと、ベルトルドが言い忘れただけなのだろう。
動かない身体は、アルケラの子たちに助けてもらえばハーツイーズに帰れる。ハドリーやおばちゃんたちは驚くだろうが、怒らせてしまったのだからしょうがない。もしかしたら今夜にでも追い出されるかも。
そう思うと更にガッカリして、ベルトルドに謝る機会はあるのか不安になった。
シーツに顔の半分を埋めてぼんやりと落ち込んでいると、ノックがして、メルヴィンとルーファスが顔を出した。
「おはよう、キューリちゃん」
「おはようございます、リッキーさん」
「ルーさん、メルヴィン」
胸元くらいまである金の髪は、キュッリッキの金髪よりやや濃い色をしている。青い瞳を埋め込んだ切れ長の目、そこに少し太めの黒縁のメガネをかけていた。
感じのいい笑顔を貼り付けているので、親しみやすい印象があった。
ただ、キュッリッキは人見知り体質である。相手が医者だろうと使用人だろうと、初めて言葉をかわすときには、どうしても距離をあけてしまう癖がある。わざとそうしているんじゃなく、自然とそうなった。
さきほどリトヴァやメイドたちは、いきなりのことだったし、身体も綺麗にしてもらえて心が緩んでいた。それに同性同士なのもあって、男よりはまだ話はしやすい。
ヴィヒトリはキュッリッキの様子を見て、
「キュッリッキちゃんは、人見知りする子なんだね」
そう言って、意地悪っぽく笑った。
「う…」
図星だから否定しようがない。離れたところで様子を見ていたリトヴァは、思わず吹き出してしまっていた。
「まあ、これから毎日顔を合わせることになるから、人見知りしてるヒマなんてないヨ。だから安心するんだ。さ、診察、診察」
ヴィヒトリはサクッと断言して、カバンからカルテを出してペンをとった。
診察と手当が終わると、ヴィヒトリは点滴の用意をして、キュッリッキの細っそりした腕に針を刺した。
「痛くないかな?」
「うん、平気」
「ちょっとばかし、軽い脱水症状になってるから、点滴している。――終わったら、針の抜きかた判ります?」
ヴィヒトリは後ろに控えるリトヴァを見る。
「はい、存じ上げております」
「じゃあ、終わったら片しといてね」
「承りました」
「とにかく熱が下がって良かった。もうこれからは治るダケだから、安心してイイヨ」
キュッリッキの頭を優しくポンッと叩いて、ヴィヒトリは立ち上がった。
「また明日ね、キュッリッキちゃん」
「ありがと、先生」
手を振ってヴィヒトリはドアへと向かう。
「失礼致します」
キュッリッキに頭を下げて、リトヴァはヴィヒトリに続いて部屋を出ていった。
急に部屋が静まり返り、キュッリッキは時計に目を向ける。
もう10時になろうとしていた。
キュッリッキは再びしょんぼりすると、表情を一気に曇らせた。
せっかくよくしてもらったのに、明日にはここを追い出されるのだ。ああしてリトヴァやメイドたちが世話を焼いてくれたが、それはきっと、ベルトルドが言い忘れただけなのだろう。
動かない身体は、アルケラの子たちに助けてもらえばハーツイーズに帰れる。ハドリーやおばちゃんたちは驚くだろうが、怒らせてしまったのだからしょうがない。もしかしたら今夜にでも追い出されるかも。
そう思うと更にガッカリして、ベルトルドに謝る機会はあるのか不安になった。
シーツに顔の半分を埋めてぼんやりと落ち込んでいると、ノックがして、メルヴィンとルーファスが顔を出した。
「おはよう、キューリちゃん」
「おはようございます、リッキーさん」
「ルーさん、メルヴィン」
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