片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
203 / 882
記憶の残滓編

episode200

しおりを挟む
 そろそろ8時になろうかという頃、ノックがして、ゾロゾロと女性たちが入ってきた。

「お目覚めでございますか? おはようございます、お嬢様」

「おはようございます」

 初老に差し掛かった風貌の女性と、まだ20代くらいの女性たちが数名、キュッリッキに向かって朝の挨拶をした。

「お、おはよう…」

 きょとんっとした表情で、キュッリッキはぎこちなく挨拶を返す。

(お嬢様って……アタシのこと?)

「ご気分は如何でしょうか。どこか、お苦しいところなど、ございませんか?」

 慇懃に訊ねられて、キュッリッキは小さく首を振る。

「ドコも苦しくないよ」

「それは、ようございました」

 老婦人はニッコリと微笑んだ。

「わたくしは、この屋敷でハウスキーパーをつとめております、リトヴァと申します。今日からお嬢様の、お身の回りのお世話をさせていただきます」

 そういって、丁寧に頭を下げた。

「後ろにおりますメイドたちも、共にお世話をさせていただく者たちです。どうぞ、なんなりとお申し付けくださいね」

 メイドたちも、ひとり一人名乗りながら頭を下げた。

 しかしキュッリッキは、文字通り、ぽかーんと口を開けて固まってしまった。その表情を見て、リトヴァが首をかしげる。

「どうかなさいましたか? お嬢様」

「え…、えっと…」

 表情とは裏腹に、キュッリッキの頭の中は忙しく回転していた。

(やっぱりアタシがお嬢様って呼ばれてる、なんでだろう? ココってドコなのかな…。ベルトルドさん隣に寝てたから、もしかしてココって…)

「あ、あの」

「はい」

「あの、ココって、ベルトルドさん…ち?」

 おっかなびっくり問うと、リトヴァは明るく笑んだ。

「さようでございます」

 身体が元気であれば、飛び上がって驚くところだ。

 キュッリッキの驚いた様子に、リトヴァは小さく頷く。

「昨日、お屋敷にいらしたときから、お目覚めになっていなかったのですね。――ここはベルトルド様のお屋敷でございます。そして、このお部屋は、お嬢様のためにご用意されたものでございますよ。お気に召すと良いのですけれど」

「うん、とっても素敵なお部屋だね」

「旦那様もアルカネット様も、お喜びになりますわ。ここは、南棟の2階にあるお部屋でございます。お屋敷の中でも陽当りも風通しもいい、お身体を癒すには最高でございます。旦那様とアルカネット様が、慎重に検討なされてご用意しておりましたから」

 語尾がやや小さくなり、リトヴァと背後のメイドたちの表情が、何とも言えないモノになっていて、キュッリッキは首をかしげた。

 家具やベッドの配置、インテリアに至るまで、あの2人が喧しいほど注文をつけて、寸分の狂いもなく使用人たちにやらせたということは、キュッリッキは生涯知ることはない。

 ハァ、と小さくため息をつくと、リトヴァは「失礼いたします」と言って、キュッリッキの額に触れた。

「お熱の方もすっかり下がっているご様子、お医者様がお見えになる前に、お支度をしてしまいましょうね」

「支度?」

「はい。お身体を拭いて、お着替えを済ませてしまいましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...