片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode199

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「昔話よりも、早く取り掛かりなさい。現実を受け止め今すぐ始めないと、同じ量の書類があと3時間後には、ここに運ばれてきますよ?」

「ンぐ……」

 眉がヒクヒクと引きつって、ベルトルドは駄々っ子のように口をへの字に曲げた。

「今日だけは手伝って差し上げますから、さっさとお座りなさいな」

 アルカネットは書類を手に取ると、テキパキと選別し始めた。

 ベルトルドは不承不承椅子に座ると、拗ねた視線をアルカネットに向ける。

「いい歳したオッサンが気色悪い。はい、すぐに目を通してハンコ押しなさい」

「……おう」

 書類のひとまとめを目の前に置かれ、引き出しからハンコを取り出すと、黙々と押す作業に取り掛かった。



 書類の山が3分の2ほど片付いた頃、アルカネットが紅茶を淹れてきて、デスクに置いた。白磁のティーカップから、温かな湯気と上品な香りがたちのぼる。

 ベルトルドはティーカップを手に取ると、爽やかな匂いを楽しみ、一気に飲み干した。

 アルカネットは決済された書類を、リュリュが使っているデスクに置く。

「なんとか間に合いそうですね」

「うむ。さすが俺」

「さすが私のアシスト、ですよ。ところで、今日はどこかに時間を作ってもらえますか? シ・アティウスと私から、例の報告をします」

「ああ」

 すっかり忘れてた、とベルトルドは顎をさすった。

「俺もお前にちょっと相談があるんだ。――今日は御前会議が昼食後にあるんだったな…。そのあとも軍のほうで会議か」

 壁にかけられた時計を睨みつけ、首をかしげる。

「そうだなあ……夜まで空きそうもないが、帰る前でもいいか?」

「判りました。シ・アティウスにもそう伝えておきます」

「うん」

 カラになったティーカップを手に取ると、プラプラと揺らしておかわりを催促する。

「はいはい」

 アルカネットはティーカップを受け取り、執務室に設えてある給湯スペースに向かう。

 紅茶を淹れるアルカネットの後ろ姿を見つめながら、

「今夜は、リッキー口きいてくれるかな…」

 小さくぽつりと、不安そうに呟いた。

 荒れたままの状態で意識を失わせてから、まだ話をしていない。

 目を覚まして、自己嫌悪に陥ってはいないだろうか。そのことを考えると、心配でため息しか出てこなかった。
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