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記憶の残滓編
episode198
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「あんなに優しくしてくれたベルトルドさんでも、きっと、怒っちゃったよね」
誰でもあんな言葉を叩きつけられ、態度をとられれば、怒って当然。自分だって怒る。
「ハーツイーズのおばちゃんたち以外で、アタシに優しくしてくれた大人だったのに…。アタシってばホント、我慢強さや協調性がナイよね」
フェンリルに向かって呟くと、フェンリルは小さく首をかしげるだけだった。
「辛い過去を持ってるのは、アタシだけじゃない。誰だって何かを抱えて耐えているのに。――判ってるのに、上手に自分を抑えられない。つい、自分だけが特別みたいに思っちゃうんだ。だから暴発しちゃうのねきっと…」
世の中には、親から愛情を注がれない不幸な子供がいっぱいいる。捨てられた子供だって、赤ちゃんだっているのだ。だから、自分だけが辛いと思ってはいけないと、幼い頃から言い聞かせている。自分自身に。
あの修道院にいた孤児たちも、背景はどうあれ親がいないし、親の愛情に恵まれていない。自分だけじゃないのだ。
そう思っていても、親のことに触れられたり、過去を思い出してしまうと、感情のコントロールが効かなくなる。
「追い出される前に、もう一度ベルトルドさんに会えるかなあ…。会ったら、ごめんなさいって謝るの」
強さを増していく朝日とは反対に、キュッリッキの心をどんよりとした重いものが覆っていった。
キュッリッキが夜中のことで後悔に頭をぐるぐるさせている3時間ほど前、アルカネットにしょっ引かれたベルトルドは、総帥本部の執務室の中にいた。
ベルトルドは猛烈に不機嫌を表情に貼り付けたまま、デスクの前でふんぞり返る。
「確かに俺は仕事をサボった。たった、1日だけ、サボった」
否1日半か、と訂正しながら腕を組み、仁王立ちして目の前のデスクの上を見下ろす。
「だからといって、この書類の量はなんだ? たった1日半だけしかサボってないぞ!? 俺は勤勉家なんだ。毎日真面目に働いて働いて働いているのに、たった1日半サボっただけで、これはないだろう?」
これ、と白い手袋に包まれた指で、デスクの上を全て覆い尽くすほどの書類の山を差した。必要以上に”たった”を強調する。
「アナタ気づいてないでしょうが、毎日さばいている仕事が、この量なんです」
真横に立ち、アルカネットがしれっと答える。
「これは全部、軍関係ですね。国政関連は宰相府でしょうか」
「……そっちはリューに押し付けてある」
「アナタのハンコを、リュリュが押してるのですか……」
「ウン。俺でなければ無理な決済だけは保留させてある」
「それでこの国が成り立っているのかと、不思議でなりませんね」
「今回だけだ、今回だけ。それに、お前はあまり知らないだろうが、リューは俺より政務に向いてるぞ。俺の秘書官なんてやってるが、大臣でもやらせたほうが、よほどこの国のためになるくらいにな」
「ふむ。まあ、リュリュはターヴェッティで3位卒業でしたしね」
「俺が首席、お前が次席、リューが3位、上位を3人でとってやったもんな」
ふふんっとベルトルドが得意そうに笑むと、アルカネットは肩をすくめた。
誰でもあんな言葉を叩きつけられ、態度をとられれば、怒って当然。自分だって怒る。
「ハーツイーズのおばちゃんたち以外で、アタシに優しくしてくれた大人だったのに…。アタシってばホント、我慢強さや協調性がナイよね」
フェンリルに向かって呟くと、フェンリルは小さく首をかしげるだけだった。
「辛い過去を持ってるのは、アタシだけじゃない。誰だって何かを抱えて耐えているのに。――判ってるのに、上手に自分を抑えられない。つい、自分だけが特別みたいに思っちゃうんだ。だから暴発しちゃうのねきっと…」
世の中には、親から愛情を注がれない不幸な子供がいっぱいいる。捨てられた子供だって、赤ちゃんだっているのだ。だから、自分だけが辛いと思ってはいけないと、幼い頃から言い聞かせている。自分自身に。
あの修道院にいた孤児たちも、背景はどうあれ親がいないし、親の愛情に恵まれていない。自分だけじゃないのだ。
そう思っていても、親のことに触れられたり、過去を思い出してしまうと、感情のコントロールが効かなくなる。
「追い出される前に、もう一度ベルトルドさんに会えるかなあ…。会ったら、ごめんなさいって謝るの」
強さを増していく朝日とは反対に、キュッリッキの心をどんよりとした重いものが覆っていった。
キュッリッキが夜中のことで後悔に頭をぐるぐるさせている3時間ほど前、アルカネットにしょっ引かれたベルトルドは、総帥本部の執務室の中にいた。
ベルトルドは猛烈に不機嫌を表情に貼り付けたまま、デスクの前でふんぞり返る。
「確かに俺は仕事をサボった。たった、1日だけ、サボった」
否1日半か、と訂正しながら腕を組み、仁王立ちして目の前のデスクの上を見下ろす。
「だからといって、この書類の量はなんだ? たった1日半だけしかサボってないぞ!? 俺は勤勉家なんだ。毎日真面目に働いて働いて働いているのに、たった1日半サボっただけで、これはないだろう?」
これ、と白い手袋に包まれた指で、デスクの上を全て覆い尽くすほどの書類の山を差した。必要以上に”たった”を強調する。
「アナタ気づいてないでしょうが、毎日さばいている仕事が、この量なんです」
真横に立ち、アルカネットがしれっと答える。
「これは全部、軍関係ですね。国政関連は宰相府でしょうか」
「……そっちはリューに押し付けてある」
「アナタのハンコを、リュリュが押してるのですか……」
「ウン。俺でなければ無理な決済だけは保留させてある」
「それでこの国が成り立っているのかと、不思議でなりませんね」
「今回だけだ、今回だけ。それに、お前はあまり知らないだろうが、リューは俺より政務に向いてるぞ。俺の秘書官なんてやってるが、大臣でもやらせたほうが、よほどこの国のためになるくらいにな」
「ふむ。まあ、リュリュはターヴェッティで3位卒業でしたしね」
「俺が首席、お前が次席、リューが3位、上位を3人でとってやったもんな」
ふふんっとベルトルドが得意そうに笑むと、アルカネットは肩をすくめた。
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