片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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記憶の残滓編

episode195

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「飛べない病気がきたー」

 庭に駆け出してきたキュッリッキを、一人の子供が指をさして罵った。それに気づいた他の子供たちも、一緒になって罵り始める。

 ズキッとした痛みが胸に広がり、キュッリッキは足を止めると俯いた。

 20人ほどの子供たちが、何も言えずに下を向いたままのキュッリッキを取り囲んで、罵り嘲笑った。

 何もない修道院では退屈だ。子供たちは退屈を紛らわす”遊び”の一つとして、キュッリッキを虐めている。

 大人である修道女たちまで、露骨にキュッリッキを虐める。それを見ている子供たちには遠慮がなかった。何故なら、虐めていることを咎めたり怒ったりする大人が、ここにはいないからだ。

 遠慮の欠片もないあまりの暴言にいたたまれなくなり、突如キュッリッキはその場を駆け出した。前方に塞がっていた一人の男の子が、体当りされて後ろに倒れ込んだ。

「なにすんだ病気バカ!」

 仲間に助け起こされながら、倒された男の子、アルッティが叫んだ。

「アイツ生意気だ! 追いかけろ!」

 おもしろがった他の子供たちは、その声に弾かれるようにキュッリッキを追いかけ始めた。

 それほど広くもない庭を駆けていけば、目の前はすぐに崖だった。

 キュッリッキは慌てて立ち止まり、後ろを振り返る。子供たちはすぐに追いついた。

 文字通り崖っぷちに立たされ、キュッリッキは怯えて震えだした。ここから落ちれば間違いなく死ぬ。翼は片方しかない、飛べないのだ。

 怯えているキュッリッキの様子を、子供たちは面白そうに見ていた。やがてアルッティが追いついてきて、威嚇するように一歩前に出た。

「おまえ、こっから飛び降りて、飛べるところを見せろよ!」

「えっ」

 アルッティはビシッと崖の外を指差す。

「片方だけは翼あるんだろ。だったら飛べることをショウメイしてみせろよ」

「そーだそーだ、やってみろー」

 子供たちは面白がってはやし立てる。

「無理だもん!」

 キュッリッキは怯えながらも必死に大声で叫んだ。言われた通りやれば、死ぬだけだと判っている。

 その態度が癇に触ったのか、アルッティがイラッとしたように口の端を歪めた。

「ぼくたちはアイオン族なんだぞ! おまえもそーなら、やってみろっていってるんだ!」

 首を振って否を唱えるキュッリッキを、子供たちは範囲を狭めて詰め寄った。

 やがて、苛立ったアルッティが手を伸ばし、キュッリッキの胸を突いた。

 アルッティは、軽く押したつもりだった。

「!?」

 キュッリッキの身体が後ろによろめき、踵が崖を踏み外して、小さな身体が宙に浮いた。その突然の光景に、はやし立て続けていた子供たちの声が止む。

 突き飛ばしたアルッティが大きく目を見張る中、キュッリッキは崖から真っ逆さまに落ちていった。
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