197 / 882
記憶の残滓編
episode194
しおりを挟む
「今から行けば、半分くらいは片付きそうです。問答している時間が無駄です。あなたの部屋に行きますよ」
「宰相府の仕事はリュリュに頼んである。別に、普通に出仕すればいいだろう? 俺もまだ寝足りない」
「寝込みを襲おうとしているから寝不足になるのです」
「そうじゃなくってだな…」
「あなた、最近お仕事が増えたことを自覚していないのですか? 宰相府はリュリュに任せておけても、総帥本部でのお仕事は誰が決済するんです」
「あ…」
そういえば、と口パクで言って、呆れているアルカネットの顔を見上げた。
「正規部隊をソレル王国に派兵した、その件でも仕事が溜まっているはずです。今から行けば、半分くらいは片付くでしょう。問答している時間が無駄です」
反論を許さない態度でまくし立てられ、ベルトルドは渋々起き上がる。
「あ、行ってきますのキスを…」
「しなくてよろしい」
ベルトルドはまた耳を掴まれ、グイグイと引きずられながら、キュッリッキの部屋を後にした。
キュッリッキは記憶と言う名の夢の中で、再び過去と向き合っていた。
(こんなの……もう、思い出したくないのに…)
忘れ去ってしまいたい自分の過去。悲しくて、苦しい思い出しかないのに。
どんなに拒絶しようとしても、思い出は容赦なくキュッリッキを襲う。そして再び、辛い思い出がゆっくりと浮き上がっていった。
アイオン族の子供にとって、7歳という歳は特別だ。
7歳になるまでは、背に生えた翼が育ちきれていないため、自ら羽ばたいて飛ぶことが出来ない。その為翼は出しっぱなしになり、翼を構成する骨や膜などが、その間にある程度育つ。そして7歳になると自力で地面すれすれを飛べるようになり、訓練を重ねて自由に飛べるようになる。出し入れも7歳になると自在に可能になった。
7月7日はキュッリッキの誕生日だ。生まれて7年たった今、ようやく翼をしまうことができる。この日をどれほど待ち望んだことだろう。
鏡の前で翼が溶けるように消えていく様を、まじまじと見つめる。
背に生える翼に「消えろ」と念じただけで消えていく。そして「生えろ」と念じると、再び翼は背に生えた。
普通に育っている右の翼と、生まれつき育たない無様な左の翼。どちらも同じように。
「どうせ飛べないんだから、ずっとしまっとこう」
いっそ、なくなっちゃえばいいのに、と思う。
この左の翼が原因で、キュッリッキは両親に捨てられたのだ。そのことは、修道院の子供たちも修道女たちも口にしている。
片翼で親にまで見捨てられた惨めな子、だと。そしていじめられる。
でも、今日から翼のことを気にせずいられる。出していなければいいんだ。見えなくすれば、いつか誰も気にしなくなる。
そう考えると気持ちが少しラクになり、キュッリッキは天気のいい外へ駆け出した。
「宰相府の仕事はリュリュに頼んである。別に、普通に出仕すればいいだろう? 俺もまだ寝足りない」
「寝込みを襲おうとしているから寝不足になるのです」
「そうじゃなくってだな…」
「あなた、最近お仕事が増えたことを自覚していないのですか? 宰相府はリュリュに任せておけても、総帥本部でのお仕事は誰が決済するんです」
「あ…」
そういえば、と口パクで言って、呆れているアルカネットの顔を見上げた。
「正規部隊をソレル王国に派兵した、その件でも仕事が溜まっているはずです。今から行けば、半分くらいは片付くでしょう。問答している時間が無駄です」
反論を許さない態度でまくし立てられ、ベルトルドは渋々起き上がる。
「あ、行ってきますのキスを…」
「しなくてよろしい」
ベルトルドはまた耳を掴まれ、グイグイと引きずられながら、キュッリッキの部屋を後にした。
キュッリッキは記憶と言う名の夢の中で、再び過去と向き合っていた。
(こんなの……もう、思い出したくないのに…)
忘れ去ってしまいたい自分の過去。悲しくて、苦しい思い出しかないのに。
どんなに拒絶しようとしても、思い出は容赦なくキュッリッキを襲う。そして再び、辛い思い出がゆっくりと浮き上がっていった。
アイオン族の子供にとって、7歳という歳は特別だ。
7歳になるまでは、背に生えた翼が育ちきれていないため、自ら羽ばたいて飛ぶことが出来ない。その為翼は出しっぱなしになり、翼を構成する骨や膜などが、その間にある程度育つ。そして7歳になると自力で地面すれすれを飛べるようになり、訓練を重ねて自由に飛べるようになる。出し入れも7歳になると自在に可能になった。
7月7日はキュッリッキの誕生日だ。生まれて7年たった今、ようやく翼をしまうことができる。この日をどれほど待ち望んだことだろう。
鏡の前で翼が溶けるように消えていく様を、まじまじと見つめる。
背に生える翼に「消えろ」と念じただけで消えていく。そして「生えろ」と念じると、再び翼は背に生えた。
普通に育っている右の翼と、生まれつき育たない無様な左の翼。どちらも同じように。
「どうせ飛べないんだから、ずっとしまっとこう」
いっそ、なくなっちゃえばいいのに、と思う。
この左の翼が原因で、キュッリッキは両親に捨てられたのだ。そのことは、修道院の子供たちも修道女たちも口にしている。
片翼で親にまで見捨てられた惨めな子、だと。そしていじめられる。
でも、今日から翼のことを気にせずいられる。出していなければいいんだ。見えなくすれば、いつか誰も気にしなくなる。
そう考えると気持ちが少しラクになり、キュッリッキは天気のいい外へ駆け出した。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる