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記憶の残滓編
episode190
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「リッキー、リッキー」
「は…っ」
荒い息を吐き出して、キュッリッキは我に返った。過去の思い出に浸りすぎて、夢現の境が判らないくらい入り込んでいた。
顔を横に向けると、ベルトルドが心配そうにじっと見つめている。
「怖い夢でもみたのか? 泣いているではないか」
ベルトルドは上半身を起こすと、涙を拭おうと手を伸ばす。しかしキュッリッキは「いやっ」と言って顔を背けた。
「リッキー?」
キュッリッキは怯えた獣のような目を、キッとベルトルドに向けた。
全てを拒絶する気迫が小さな身体から滲み出し、ベルトルドは息を飲んだ。こんな目をするのかと。
やがてキュッリッキは逃げようとして、身体を起こそうと動き出した。もとから力が入らない右上半身は、包帯できつく固定され自由にならない。左半身でなんとか起き上がろうとしたが、うまくいかず、それはすぐにベルトルドに押さえ付けられてしまった。
「離せっ!」
「落ち着け、動いたらダメだ」
困惑するベルトルドに、キュッリッキは更に噛み付くような勢いで叫ぶ。
「お前たち大人なんか大っ嫌いだ! 触るな!」
「リッキー!」
「気安く呼ぶな! アタシは独りでも平気なんだ、離してよっ」
キュッリッキはとにかくもがいた。ベルトルドが身体に触れていること自体、吐き気と怖気がしていたからだ。
この男はあの大人たちのように、自分のことを鞭で打ったり、酷い言葉を投げつけてくるに違いない。優しいフリをしているだけなのだ。騙されてなるものかと思った。
今のキュッリッキは、過去の辛い思い出に心を支配されていて、ベルトルドのことが判らなくなっていた。そして怪我をしている事も忘れている。
(このままでは傷口が開いてしまう…)
キュッリッキは信じられないほどの力で抵抗してきた。一体どこにこんな力があるんだと、ベルトルドは驚きながらキュッリッキを押さえつけていたが、少しもおとなしくならない様子に小さく舌打ちすると、サイ《超能力》を使ってキュッリッキの気を失わせた。
ぐったりと静かになった身体をそっと寝かせ直し、ベルトルドはいたたまれない表情で、キュッリッキに頬擦りした。
「なんて幼い頃を生きてきたんだ…この子は…」
ベルトルドの使えるサイ《超能力》は能力全般で、相手の記憶や考えを〈視る〉力もある。時に強すぎるその力は無意識に働くことがあり、近くにいる者の思考や記憶が勝手に流れ込んでくることもあった。
キュッリッキが思い起こしていた過去の記憶が、ベルトルドに流れ込んできたのだ。
あまりにも強すぎるとそれに同調しそうになる。引きずられそうになり、ベルトルドは慌てて遮断したほどだ。
キュッリッキの辛い過去の一端を視て、苦いものが胸中にこみ上げてきて、かきむしりたいほど圧迫した。切ないほど苦しく、どうしていいか判らず、叫びたい衝動にかられる。
「俺が、浅はかだったな…」
考えていた以上に、キュッリッキの心の傷は深い。そのことを、ベルトルドはあらためて痛感した。
「は…っ」
荒い息を吐き出して、キュッリッキは我に返った。過去の思い出に浸りすぎて、夢現の境が判らないくらい入り込んでいた。
顔を横に向けると、ベルトルドが心配そうにじっと見つめている。
「怖い夢でもみたのか? 泣いているではないか」
ベルトルドは上半身を起こすと、涙を拭おうと手を伸ばす。しかしキュッリッキは「いやっ」と言って顔を背けた。
「リッキー?」
キュッリッキは怯えた獣のような目を、キッとベルトルドに向けた。
全てを拒絶する気迫が小さな身体から滲み出し、ベルトルドは息を飲んだ。こんな目をするのかと。
やがてキュッリッキは逃げようとして、身体を起こそうと動き出した。もとから力が入らない右上半身は、包帯できつく固定され自由にならない。左半身でなんとか起き上がろうとしたが、うまくいかず、それはすぐにベルトルドに押さえ付けられてしまった。
「離せっ!」
「落ち着け、動いたらダメだ」
困惑するベルトルドに、キュッリッキは更に噛み付くような勢いで叫ぶ。
「お前たち大人なんか大っ嫌いだ! 触るな!」
「リッキー!」
「気安く呼ぶな! アタシは独りでも平気なんだ、離してよっ」
キュッリッキはとにかくもがいた。ベルトルドが身体に触れていること自体、吐き気と怖気がしていたからだ。
この男はあの大人たちのように、自分のことを鞭で打ったり、酷い言葉を投げつけてくるに違いない。優しいフリをしているだけなのだ。騙されてなるものかと思った。
今のキュッリッキは、過去の辛い思い出に心を支配されていて、ベルトルドのことが判らなくなっていた。そして怪我をしている事も忘れている。
(このままでは傷口が開いてしまう…)
キュッリッキは信じられないほどの力で抵抗してきた。一体どこにこんな力があるんだと、ベルトルドは驚きながらキュッリッキを押さえつけていたが、少しもおとなしくならない様子に小さく舌打ちすると、サイ《超能力》を使ってキュッリッキの気を失わせた。
ぐったりと静かになった身体をそっと寝かせ直し、ベルトルドはいたたまれない表情で、キュッリッキに頬擦りした。
「なんて幼い頃を生きてきたんだ…この子は…」
ベルトルドの使えるサイ《超能力》は能力全般で、相手の記憶や考えを〈視る〉力もある。時に強すぎるその力は無意識に働くことがあり、近くにいる者の思考や記憶が勝手に流れ込んでくることもあった。
キュッリッキが思い起こしていた過去の記憶が、ベルトルドに流れ込んできたのだ。
あまりにも強すぎるとそれに同調しそうになる。引きずられそうになり、ベルトルドは慌てて遮断したほどだ。
キュッリッキの辛い過去の一端を視て、苦いものが胸中にこみ上げてきて、かきむしりたいほど圧迫した。切ないほど苦しく、どうしていいか判らず、叫びたい衝動にかられる。
「俺が、浅はかだったな…」
考えていた以上に、キュッリッキの心の傷は深い。そのことを、ベルトルドはあらためて痛感した。
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