190 / 882
記憶の残滓編
episode187
しおりを挟む
3種族共に崇める神は2柱で、太陽の女神ソールと、月の男神マーニである。地域によっては性別が異なることもあるが、太陽と月を神格化して崇めることに変わりはない。
太陽の女神ソールを崇めるこの修道院では、朝食のあとに女神ソールへの祈りの時間がある。これには少女も強制的に参加させられる。そして次は、孤児たちの勉強の時間が昼まで行われていた。
しかし少女は、この勉強に加えてもらえない。覗くことすら禁止されていた。
孤児とはいえ、社会へ独り立ちできるように、最低限の読み書きや計算を教えてもらえる。13歳になれば働けるようになるので、孤児たちは13歳になるまでは修道院で育てられ、そして独立していく。
修道院でいじめられ、嫌われる少女の将来を、心配する者など誰もいない。
何故なら、少女は実の両親に捨てられ、そのことは惑星ペッコでも、有名な事件として知れ渡っているのである。
哀れみ、同情する者が1人も現れなかった。アイオン族の種族統一国家イルマタル帝国ですら、少女の引取りを拒否したのだ。
少女には、レア中のレアとされる召喚スキル〈才能〉がある。召喚スキル〈才能〉を持つ者は、家族ごと国に保護され、裕福な暮らしと安全を、生涯約束されるのだ。それは、3種族共通の取り決めとなっている。にもかかわらず、少女はどこにも引き取られなかった。
それは全て、少女が片翼の欠陥をもって生まれてきてしまったからである。
「アイオン族は完璧であらねばならない! 欠陥品はクズ同然であり、アイオン族を名乗るのもおこがましいのである。飛ばない鳥を鳥とは言わないであろう!! 予の治める国にそんな欠陥品はいらぬ、アイオン族の面汚しは即刻排除すべし!!」
皇帝アルファルドが敷いた悪習、40年以上も続いた悪法が撤廃された今も、惑星ペッコに暮らすアイオン族の心に深く根付いている。
召喚スキル〈才能〉を持って生まれてきた、貴重な存在であるはずなのにだ。
生まれたばかりの赤子を、死なせるのはさすがに寝覚めが悪かったのだろう。病院から無理矢理押し付けられ、修道院は不承不承引き取ったのだった。
少女が13歳になれば、堂々と追い出すことができる。
置いてもらえているだけありがたいと思え。食わせてやっているだけ感謝しろ。それが修道女たちの本音なのだ。
アイオン族は美醜をとにかく重んじる種族である。惑星ペッコ以外の惑星で暮らすアイオン族はそこまで酷くはないが、本星のアイオン族は貫いていた。
勉強の時間、少女は薄暗い自分の部屋にいた。そして、仔犬のフェンリルから、色々な言葉を教わっていた。
教科書も、ノートも、鉛筆も、黒板もない。それでも、少女は新しい言葉を教わると、それだけで楽しかった。
「あるけらに、いこう」
少女はそう言うと、目を前方に据える。黄緑色の瞳にまといついている虹色の光が、ジワジワと光を強めていった。そして、少女の右側の翼にも散りばめられている虹色の光彩が、同じように強く光った。
そして少女の意識は、ここではない、別の世界へと飛んでいた。
少女の意識は、その世界で同じように形となっていく。そして仔犬のフェンリルも、同じように形となって少女に付き従った。
「あそびにきたよー」
嬉しそうな少女の声に反応して、あちこちから光の玉が現れ、少女の周りを楽しそうに飛び交った。
柔らかな光と、モコモコとした白い雲が、どこまでも続いていく。
やがて、ゴツゴツとした岩山と、黒い大きな雲が広がる場所に出た。
「それー」
少女は目の前に現れた、黒いゴワゴワしたモップのようなものに飛びついた。
「なんじゃあ……いたずらっ子がきたかー」
黒いモップのようなものが揺れると、あたりに紫電の光が舞い踊る。稲妻だった。
「キャハハッ」
それを見て、少女は楽しそうに笑い声を上げた。
無垢な笑顔を浮かべ、明るい笑い声を発する少女は、しかし薄暗い部屋の中で、殺伐とした、乾いた表情を浮かべているだけだった。
太陽の女神ソールを崇めるこの修道院では、朝食のあとに女神ソールへの祈りの時間がある。これには少女も強制的に参加させられる。そして次は、孤児たちの勉強の時間が昼まで行われていた。
しかし少女は、この勉強に加えてもらえない。覗くことすら禁止されていた。
孤児とはいえ、社会へ独り立ちできるように、最低限の読み書きや計算を教えてもらえる。13歳になれば働けるようになるので、孤児たちは13歳になるまでは修道院で育てられ、そして独立していく。
修道院でいじめられ、嫌われる少女の将来を、心配する者など誰もいない。
何故なら、少女は実の両親に捨てられ、そのことは惑星ペッコでも、有名な事件として知れ渡っているのである。
哀れみ、同情する者が1人も現れなかった。アイオン族の種族統一国家イルマタル帝国ですら、少女の引取りを拒否したのだ。
少女には、レア中のレアとされる召喚スキル〈才能〉がある。召喚スキル〈才能〉を持つ者は、家族ごと国に保護され、裕福な暮らしと安全を、生涯約束されるのだ。それは、3種族共通の取り決めとなっている。にもかかわらず、少女はどこにも引き取られなかった。
それは全て、少女が片翼の欠陥をもって生まれてきてしまったからである。
「アイオン族は完璧であらねばならない! 欠陥品はクズ同然であり、アイオン族を名乗るのもおこがましいのである。飛ばない鳥を鳥とは言わないであろう!! 予の治める国にそんな欠陥品はいらぬ、アイオン族の面汚しは即刻排除すべし!!」
皇帝アルファルドが敷いた悪習、40年以上も続いた悪法が撤廃された今も、惑星ペッコに暮らすアイオン族の心に深く根付いている。
召喚スキル〈才能〉を持って生まれてきた、貴重な存在であるはずなのにだ。
生まれたばかりの赤子を、死なせるのはさすがに寝覚めが悪かったのだろう。病院から無理矢理押し付けられ、修道院は不承不承引き取ったのだった。
少女が13歳になれば、堂々と追い出すことができる。
置いてもらえているだけありがたいと思え。食わせてやっているだけ感謝しろ。それが修道女たちの本音なのだ。
アイオン族は美醜をとにかく重んじる種族である。惑星ペッコ以外の惑星で暮らすアイオン族はそこまで酷くはないが、本星のアイオン族は貫いていた。
勉強の時間、少女は薄暗い自分の部屋にいた。そして、仔犬のフェンリルから、色々な言葉を教わっていた。
教科書も、ノートも、鉛筆も、黒板もない。それでも、少女は新しい言葉を教わると、それだけで楽しかった。
「あるけらに、いこう」
少女はそう言うと、目を前方に据える。黄緑色の瞳にまといついている虹色の光が、ジワジワと光を強めていった。そして、少女の右側の翼にも散りばめられている虹色の光彩が、同じように強く光った。
そして少女の意識は、ここではない、別の世界へと飛んでいた。
少女の意識は、その世界で同じように形となっていく。そして仔犬のフェンリルも、同じように形となって少女に付き従った。
「あそびにきたよー」
嬉しそうな少女の声に反応して、あちこちから光の玉が現れ、少女の周りを楽しそうに飛び交った。
柔らかな光と、モコモコとした白い雲が、どこまでも続いていく。
やがて、ゴツゴツとした岩山と、黒い大きな雲が広がる場所に出た。
「それー」
少女は目の前に現れた、黒いゴワゴワしたモップのようなものに飛びついた。
「なんじゃあ……いたずらっ子がきたかー」
黒いモップのようなものが揺れると、あたりに紫電の光が舞い踊る。稲妻だった。
「キャハハッ」
それを見て、少女は楽しそうに笑い声を上げた。
無垢な笑顔を浮かべ、明るい笑い声を発する少女は、しかし薄暗い部屋の中で、殺伐とした、乾いた表情を浮かべているだけだった。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる