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混迷の遺跡編
episode182
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執事代理となったセヴェリに案内された部屋は、キュッリッキの部屋のすぐ隣の2部屋だった。
「お夕食の準備が整いましたら、お呼び致します。時間は19時くらいになります」
「うん、ありがとうセヴェリさん」
「ありがとうございます」
「それでは、ごゆっくり、おくつろぎくださいませ」
慇懃に挨拶して、セヴェリは戻っていった。
「メルヴィン、付き合わないか」
ルーファスは手振りで飲む仕草をする。
「是非」
メルヴィンは笑みを浮かべ、ルーファスの部屋に入った。
ハーメンリンナにある貴族や富豪たちの有する屋敷と大差なく、とにかくこの屋敷は無駄に広い。そして2人の部屋も無駄に広かった。
ベルトルドの好みだろうが、屋敷の調度品や色調は、青と白を中心にしたものが多い。下品になるほど派手ではなく、かといって質素になるほど簡素でもなく、ちょうどいい調和が取れている。
寒々しい印象を与える青色も、絶妙なバランスと濃淡で、柔らかく配色されているので、落ち着いた良い部屋になっていた。
ソファに向き合って座り、ルーファスはメルヴィンのグラスにワインを注いだ。
「貯蔵庫から拝借してきた」
「いつの間に…」
「ベルトルド様のように転移は無理だけど、サイ《超能力》でちょちょいとネ」
人懐っこい笑みを浮かべ、ルーファスはワイングラスを持ち上げ乾杯する。それを見やってメルヴィンは苦笑すると、乾杯した。
「お疲れ様です」
「お疲れ~。さっきカーティスに連絡とったら、あっちもみんなクタクタで、すぐ部屋にすっこんだそうだ」
「なんだかんだ、あちらでは雑魚寝状態でしたしね」
「だよネ。それに、じめじめ暑かったし。真夏じゃあるまいし、あの国は大変だなあ」
笑いながらグラスを傾ける。
「今回の仕事は、キューリちゃんの全面サポートがあって、随分手際よく進められて良かったのに、とんだことになっちゃったよねえ」
「そうですね。まさか遺跡にあんな怪物が出現するなんて、予想もできませんでしたよ」
「うんうん。元々詰めてた研究者たちでも見つけられてなかったし、襲われてなかったわけだしさ。一体どんな仕掛けだったのかなあ」
「ええ」
「娯楽小説だと、床の判りにくいスイッチを踏んじゃって、罠が発動した、なんてシーンがあるけど。そんなノリとはチガウっぽいけどね」
「ですね…」
「あんな大怪我させちゃって、オレたちがどうこうしたわけじゃないけど、なんかキューリちゃんに悪くってさ…」
「はい」
あれ以来何度も思い出す、キュッリッキの大怪我した姿。何とかして助けたいと思いながらも、助からない、もうだめだと思うほどの惨さだった。
この事件は、ライオン傭兵団皆の心に、深い後悔となってずっと残ることになる。
「それにしてもさ、キューリちゃんに好かれてるとは思ってなかったから、なんかこそばゆいな」
ルーファスは座り直して話題を変えた。
「女の子に好かれるのは、悪い気はしませんよ」
「まあね。とにかく美少女だからなあ、キューリちゃん。あれで胸がおっきかったら完璧だったんだけど」
「太りにくい体質だと言ってたことがあるので、あまり言うと可哀想ですよ」
「ははっ、それならしょうがないな」
「しかし、頼りにされてる以上、守ってあげないと」
「ベルトルド様からだろ。淫乱オヤジの毒牙から守るのは、一国の軍隊から守るより至難の業だよねえ」
どんよりと重たい空気を漂わせながら、2人は俯いた。
「これはもう、アルカネットさんに縋るしかっ」
「どっちもどっちな気がしますが」
「ベルトルド様は有言実行、アルカネットさんは無言実行、どっちもどっちか」
敵が強すぎて、お姫様を守るナイト役は難しすぎると、闘う前から諦めモードが漂う2人だった。
「お夕食の準備が整いましたら、お呼び致します。時間は19時くらいになります」
「うん、ありがとうセヴェリさん」
「ありがとうございます」
「それでは、ごゆっくり、おくつろぎくださいませ」
慇懃に挨拶して、セヴェリは戻っていった。
「メルヴィン、付き合わないか」
ルーファスは手振りで飲む仕草をする。
「是非」
メルヴィンは笑みを浮かべ、ルーファスの部屋に入った。
ハーメンリンナにある貴族や富豪たちの有する屋敷と大差なく、とにかくこの屋敷は無駄に広い。そして2人の部屋も無駄に広かった。
ベルトルドの好みだろうが、屋敷の調度品や色調は、青と白を中心にしたものが多い。下品になるほど派手ではなく、かといって質素になるほど簡素でもなく、ちょうどいい調和が取れている。
寒々しい印象を与える青色も、絶妙なバランスと濃淡で、柔らかく配色されているので、落ち着いた良い部屋になっていた。
ソファに向き合って座り、ルーファスはメルヴィンのグラスにワインを注いだ。
「貯蔵庫から拝借してきた」
「いつの間に…」
「ベルトルド様のように転移は無理だけど、サイ《超能力》でちょちょいとネ」
人懐っこい笑みを浮かべ、ルーファスはワイングラスを持ち上げ乾杯する。それを見やってメルヴィンは苦笑すると、乾杯した。
「お疲れ様です」
「お疲れ~。さっきカーティスに連絡とったら、あっちもみんなクタクタで、すぐ部屋にすっこんだそうだ」
「なんだかんだ、あちらでは雑魚寝状態でしたしね」
「だよネ。それに、じめじめ暑かったし。真夏じゃあるまいし、あの国は大変だなあ」
笑いながらグラスを傾ける。
「今回の仕事は、キューリちゃんの全面サポートがあって、随分手際よく進められて良かったのに、とんだことになっちゃったよねえ」
「そうですね。まさか遺跡にあんな怪物が出現するなんて、予想もできませんでしたよ」
「うんうん。元々詰めてた研究者たちでも見つけられてなかったし、襲われてなかったわけだしさ。一体どんな仕掛けだったのかなあ」
「ええ」
「娯楽小説だと、床の判りにくいスイッチを踏んじゃって、罠が発動した、なんてシーンがあるけど。そんなノリとはチガウっぽいけどね」
「ですね…」
「あんな大怪我させちゃって、オレたちがどうこうしたわけじゃないけど、なんかキューリちゃんに悪くってさ…」
「はい」
あれ以来何度も思い出す、キュッリッキの大怪我した姿。何とかして助けたいと思いながらも、助からない、もうだめだと思うほどの惨さだった。
この事件は、ライオン傭兵団皆の心に、深い後悔となってずっと残ることになる。
「それにしてもさ、キューリちゃんに好かれてるとは思ってなかったから、なんかこそばゆいな」
ルーファスは座り直して話題を変えた。
「女の子に好かれるのは、悪い気はしませんよ」
「まあね。とにかく美少女だからなあ、キューリちゃん。あれで胸がおっきかったら完璧だったんだけど」
「太りにくい体質だと言ってたことがあるので、あまり言うと可哀想ですよ」
「ははっ、それならしょうがないな」
「しかし、頼りにされてる以上、守ってあげないと」
「ベルトルド様からだろ。淫乱オヤジの毒牙から守るのは、一国の軍隊から守るより至難の業だよねえ」
どんよりと重たい空気を漂わせながら、2人は俯いた。
「これはもう、アルカネットさんに縋るしかっ」
「どっちもどっちな気がしますが」
「ベルトルド様は有言実行、アルカネットさんは無言実行、どっちもどっちか」
敵が強すぎて、お姫様を守るナイト役は難しすぎると、闘う前から諦めモードが漂う2人だった。
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