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混迷の遺跡編
episode179
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ベルトルドの姿が見えると、部屋の前で待機していた使用人たちが、恭しくドアを開いた。
キュッリッキを抱きかかえたベルトルドを先頭に、ルーファスとメルヴィン、ヴィヒトリとドグラスが後ろに続く。そして、あらかじめ部屋で待機していた別の医師が椅子から立ち上がり、ベルトルドに深く一礼した。
キングサイズよりも更に大きいベッドにそっとキュッリッキを寝かせると、ベルトルドは両掌をパンッと合わせ叩いた。
皆ちらりとベルトルドに視線を向けるが、とくに変化はなかった。しかしルーファスだけが、その行動の意味を視ていた。
キュッリッキに張り巡らせていた、サイ《超能力》で作った防御の繭が解けたのだ。
強固に編まれていた光の糸がパラパラと解け、空間に溶けるように消えていく。ベルトルドがずっと抱いたままの姿勢でも、キュッリッキが必要以上に苦しんでいなかったのは、防御の効力がずっと働いていたからだった。
小さく安堵の息をついて、ベルトルドは初老の女性を見る。
「あとは任せるぞ、リトヴァ」
ベッドの傍に控えていたリトヴァが、腰を落として一礼した。
「お任せ下さいませ」
「ルーとメルヴィンは、俺の部屋にこい」
ベルトルドは意識のないキュッリッキの両頬にキスをすると、名残惜しそうな視線を残し、部屋を出て行った。
南にある棟から、東の棟に移動しながら、一緒についてきた初老の男に、脱いだマントを投げ渡しながら指示を飛ばす。
「こいつらも暫く滞在する。部屋をリッキーの近くに用意しておけ。それから今日はもう一切の仕事も用事もデートも受けん。全部遮断しろ、さすがに疲れた」
「承りました」
「アルカネットはたぶん明日には戻ってくるだろうが、アイツも今や長官だからな、お前が執事を代行しろセヴェリ」
「はっ」
「ブランデーを持ってきてくれ」
セヴェリは恭しく礼をして、酒を用意しに別の方へ向かっていった。
自室の前に到着すると、ベルトルドはサイ《超能力》ではなく、手でドアを重そうに押し開く。
「適当なところに座っておけ」
2人にそう言って、ベルトルドは両腕を広げベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「大丈夫ですか?」
メルヴィンが心配そうに気遣うが、ベルトルドは手をひらひら振って「問題ない」と疲れた声を出した。あんなに疲れたベルトルドを見るのは、2人とも初めてだった。
やがてドアがノックされ、セヴェリがブランデー入りの瓶とグラスを、トレイに載せてテーブルに運んできた。
カットガラスの酒杯(グラス)に琥珀色の液体を注ぎ、ベッドのそばのサイドテーブルに、そしてテーブル前に座っている2人にそれぞれ手渡し、セヴェリは部屋を辞した。
3人はなんとなく黙り込み、ベルトルドはのろのろと身体を起こして、サイドテーブルの上のグラスを手に取る。そして気だるげな動作でグラスを口に運んだ。メルヴィンとルーファスもそれにならう。
室内はほんのりと薄暗さを増し、すでに夕刻に近づいていた。
キュッリッキを抱きかかえたベルトルドを先頭に、ルーファスとメルヴィン、ヴィヒトリとドグラスが後ろに続く。そして、あらかじめ部屋で待機していた別の医師が椅子から立ち上がり、ベルトルドに深く一礼した。
キングサイズよりも更に大きいベッドにそっとキュッリッキを寝かせると、ベルトルドは両掌をパンッと合わせ叩いた。
皆ちらりとベルトルドに視線を向けるが、とくに変化はなかった。しかしルーファスだけが、その行動の意味を視ていた。
キュッリッキに張り巡らせていた、サイ《超能力》で作った防御の繭が解けたのだ。
強固に編まれていた光の糸がパラパラと解け、空間に溶けるように消えていく。ベルトルドがずっと抱いたままの姿勢でも、キュッリッキが必要以上に苦しんでいなかったのは、防御の効力がずっと働いていたからだった。
小さく安堵の息をついて、ベルトルドは初老の女性を見る。
「あとは任せるぞ、リトヴァ」
ベッドの傍に控えていたリトヴァが、腰を落として一礼した。
「お任せ下さいませ」
「ルーとメルヴィンは、俺の部屋にこい」
ベルトルドは意識のないキュッリッキの両頬にキスをすると、名残惜しそうな視線を残し、部屋を出て行った。
南にある棟から、東の棟に移動しながら、一緒についてきた初老の男に、脱いだマントを投げ渡しながら指示を飛ばす。
「こいつらも暫く滞在する。部屋をリッキーの近くに用意しておけ。それから今日はもう一切の仕事も用事もデートも受けん。全部遮断しろ、さすがに疲れた」
「承りました」
「アルカネットはたぶん明日には戻ってくるだろうが、アイツも今や長官だからな、お前が執事を代行しろセヴェリ」
「はっ」
「ブランデーを持ってきてくれ」
セヴェリは恭しく礼をして、酒を用意しに別の方へ向かっていった。
自室の前に到着すると、ベルトルドはサイ《超能力》ではなく、手でドアを重そうに押し開く。
「適当なところに座っておけ」
2人にそう言って、ベルトルドは両腕を広げベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「大丈夫ですか?」
メルヴィンが心配そうに気遣うが、ベルトルドは手をひらひら振って「問題ない」と疲れた声を出した。あんなに疲れたベルトルドを見るのは、2人とも初めてだった。
やがてドアがノックされ、セヴェリがブランデー入りの瓶とグラスを、トレイに載せてテーブルに運んできた。
カットガラスの酒杯(グラス)に琥珀色の液体を注ぎ、ベッドのそばのサイドテーブルに、そしてテーブル前に座っている2人にそれぞれ手渡し、セヴェリは部屋を辞した。
3人はなんとなく黙り込み、ベルトルドはのろのろと身体を起こして、サイドテーブルの上のグラスを手に取る。そして気だるげな動作でグラスを口に運んだ。メルヴィンとルーファスもそれにならう。
室内はほんのりと薄暗さを増し、すでに夕刻に近づいていた。
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