180 / 882
混迷の遺跡編
episode177
しおりを挟む
エグザイル・システムの台座の前で、ベルトルドは後ろを振り向く。
「ルー、メルヴィン、俺と一緒に飛べ。リッキーと貴様らは、俺の屋敷で当分寝泊りだ」
「えっ」
ルーファスとメルヴィンは顔を見合わせる。
「詳しいことは屋敷に着いたら話す。他はイララクスに着いたら解散だ。それと、ハドリー、ファニー、アルカネットが迷惑をかけたようで、すまなかったな」
「い、いえ」
「あたしたちそんな、別に」
いきなり話しかけられて、2人はビックリする。アルカネットが、というのはザカリーを粛清しようとした、あのことだろう。
「ギルドに寄って行くといい」
「はい」
「判りました」
その時、キュッリッキが僅かに目を開けた。
「リッキー…」
ベルトルドがそっと声をかけると、キュッリッキはゆっくりと瞬いて、ベルトルドを見上げる。
「今からエグザイル・システムで飛ぶ。ほんの少し、我慢するんだぞ」
キュッリッキは小さく頷いて、そして再び目を閉じ意識をなくした。
ベルトルドはほんの一瞬、辛そうに表情を曇らせたが、踵を返して台座に乗る。その後ろ姿を見て、ハドリーはそっと呟く。
「あのひとに任せておけば、リッキーは大丈夫だろうな」
「うん、そうだね」
ハドリーの呟きを受けて、ファニーも同意する。端々に見える、キュッリッキへの優しさと慈しみ。あんな酷い怪我にも負けないくらい、元気にしてくれるだろう。それと同時に、自分たちとは違う遠いところへ行ってしまったような錯覚を覚え、2人は寂しげにキュッリッキを見つめた。
台座にルーファスとメルヴィンが乗ると、
「さあ、帰るぞ!」
そう言って、ベルトルドは皇都イララクスのスイッチを踏んだ。
ベルトルドら帰還御一行がイソラの町を出立すると、アルカネットとシ・アティウスはナルバ山を目指して出発した。
「空を飛ぶと早いですな」
アルカネットの飛行魔法で、2人は宙を飛んで移動していた。
「早めに終わらせて、私もイララクスに戻りたいのですよ」
「ベルトルド様に任せていると、何をされるか判りませんからね…あの召喚士の少女」
「今すぐ飛んで帰りたいです!!」
アルカネットはグッと脇で拳を握った。
2人はベルトルドの命を受けて、ナルバ山の遺跡調査に向かっている。あの遺跡が何なのか、ある程度の見当がついているとシ・アティウスが言ったからだ。
調査だけならシ・アティウスだけで充分だが、ソレル王国兵が舞い戻っている可能性がある。アルカネットはそのための護衛だ。そして案の定ナルバ山にはソレル王国兵の1個小隊が派遣されていたが、これはアルカネットの容赦ない攻撃魔法で一蹴された。
「容赦ないですな」
「手加減する必要もないような雑魚ですしね」
空洞も遺跡の中も真っ暗で、篝にあった燃料は全て燃え尽きており、アルカネットの魔法で作った灯りが柔らかく照らす。
「我々が調査に入った時も、救出され再度訪れた時も、神殿に変化はなかった。しかし突然地震が起こり、神殿の中は変わっていた」
淡々としたシ・アティウスの声が、靴音と共に神殿の中に陰々と響いていた。
「私は実際には見なかったが、醜悪で大きい怪物が現れたらしい。神殿内の構造も作り変わっていたそうだ。それも一瞬にして」
できれば見ておきたかった、とシ・アティウスは付け加えた。それにはアルカネットが厳しい視線を向ける。
シ・アティウスはまるで動じたふうもなかったが、軽く頭を下げた。
数日前の惨劇が嘘のように、神殿の中は縦に長い通路があるのみの、暗い空間に戻っている。
黙々と歩き進み、再奥にあるエグザイル・システムのようなものと称された台座の前に着く。シ・アティウスは台座の表面に手をあて、すっと台座を見上げた。
「間違いないでしょう。これが」
「レディトゥス・システム」
言葉をついで言うと、アルカネットは顎をひいて台座を睨むようにして見上げた。
「ルー、メルヴィン、俺と一緒に飛べ。リッキーと貴様らは、俺の屋敷で当分寝泊りだ」
「えっ」
ルーファスとメルヴィンは顔を見合わせる。
「詳しいことは屋敷に着いたら話す。他はイララクスに着いたら解散だ。それと、ハドリー、ファニー、アルカネットが迷惑をかけたようで、すまなかったな」
「い、いえ」
「あたしたちそんな、別に」
いきなり話しかけられて、2人はビックリする。アルカネットが、というのはザカリーを粛清しようとした、あのことだろう。
「ギルドに寄って行くといい」
「はい」
「判りました」
その時、キュッリッキが僅かに目を開けた。
「リッキー…」
ベルトルドがそっと声をかけると、キュッリッキはゆっくりと瞬いて、ベルトルドを見上げる。
「今からエグザイル・システムで飛ぶ。ほんの少し、我慢するんだぞ」
キュッリッキは小さく頷いて、そして再び目を閉じ意識をなくした。
ベルトルドはほんの一瞬、辛そうに表情を曇らせたが、踵を返して台座に乗る。その後ろ姿を見て、ハドリーはそっと呟く。
「あのひとに任せておけば、リッキーは大丈夫だろうな」
「うん、そうだね」
ハドリーの呟きを受けて、ファニーも同意する。端々に見える、キュッリッキへの優しさと慈しみ。あんな酷い怪我にも負けないくらい、元気にしてくれるだろう。それと同時に、自分たちとは違う遠いところへ行ってしまったような錯覚を覚え、2人は寂しげにキュッリッキを見つめた。
台座にルーファスとメルヴィンが乗ると、
「さあ、帰るぞ!」
そう言って、ベルトルドは皇都イララクスのスイッチを踏んだ。
ベルトルドら帰還御一行がイソラの町を出立すると、アルカネットとシ・アティウスはナルバ山を目指して出発した。
「空を飛ぶと早いですな」
アルカネットの飛行魔法で、2人は宙を飛んで移動していた。
「早めに終わらせて、私もイララクスに戻りたいのですよ」
「ベルトルド様に任せていると、何をされるか判りませんからね…あの召喚士の少女」
「今すぐ飛んで帰りたいです!!」
アルカネットはグッと脇で拳を握った。
2人はベルトルドの命を受けて、ナルバ山の遺跡調査に向かっている。あの遺跡が何なのか、ある程度の見当がついているとシ・アティウスが言ったからだ。
調査だけならシ・アティウスだけで充分だが、ソレル王国兵が舞い戻っている可能性がある。アルカネットはそのための護衛だ。そして案の定ナルバ山にはソレル王国兵の1個小隊が派遣されていたが、これはアルカネットの容赦ない攻撃魔法で一蹴された。
「容赦ないですな」
「手加減する必要もないような雑魚ですしね」
空洞も遺跡の中も真っ暗で、篝にあった燃料は全て燃え尽きており、アルカネットの魔法で作った灯りが柔らかく照らす。
「我々が調査に入った時も、救出され再度訪れた時も、神殿に変化はなかった。しかし突然地震が起こり、神殿の中は変わっていた」
淡々としたシ・アティウスの声が、靴音と共に神殿の中に陰々と響いていた。
「私は実際には見なかったが、醜悪で大きい怪物が現れたらしい。神殿内の構造も作り変わっていたそうだ。それも一瞬にして」
できれば見ておきたかった、とシ・アティウスは付け加えた。それにはアルカネットが厳しい視線を向ける。
シ・アティウスはまるで動じたふうもなかったが、軽く頭を下げた。
数日前の惨劇が嘘のように、神殿の中は縦に長い通路があるのみの、暗い空間に戻っている。
黙々と歩き進み、再奥にあるエグザイル・システムのようなものと称された台座の前に着く。シ・アティウスは台座の表面に手をあて、すっと台座を見上げた。
「間違いないでしょう。これが」
「レディトゥス・システム」
言葉をついで言うと、アルカネットは顎をひいて台座を睨むようにして見上げた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる