179 / 882
混迷の遺跡編
episode176
しおりを挟む
いつもの不敵な表情のベルトルドの後ろから、今にも倒れてしまいそうな面々を見て、出迎えたラーシュ=オロフ長官は頭上にクエスチョンマークを点滅させた。
「お疲れ様です、閣下」
「うむ、出迎えご苦労、ラーシュ=オロフ長官」
アルイールの港には、第二正規部隊の軍人たちが、濃紺の列を作って到着を出迎えてくれていた。
ラーシュ=オロフ長官は、ベルトルドの腕の中でぐったり眠るキュッリッキに目を向け、表情を曇らせる。
「だいぶ、お加減が悪ようですね」
「怪我のせいで熱を出していてな。無理に連れ帰るからだが…、あともう少しの辛抱だ」
眠っているとはいえ、相当辛いに違いない。
ベルトルドはキュッリッキの額に口づけ、そして歩き出した。ラーシュ=オロフ長官も続く。
「アルイールの制圧は終わったな?」
「はい。ですが、王族と軍を逃しました。申し訳ございません」
「ほう、守るべき民を見捨てて、雲隠れしたのか。呆れた王と軍だな」
嘲笑うように「フンッ」と鼻を鳴らす。ラーシュ=オロフ長官は苦笑した。ベルトルドがこういう輩を毛嫌いしていることを、ラーシュ=オロフ長官はよく知っている。ダエヴァはベルトルドの私兵と揶揄されるほど、親密な関係にあるからだ。
数日前にアルカネットから洗礼を受けた首都アルイールは、都市機能が低下し、火事や爆発が起こって家屋が崩壊、被災地のような光景が至るところに散っていた。挙句ハワドウレ皇国の軍隊に蹂躙され、アルイールを捨てたソレルの軍は何処かへ消え去り、残された国民は不安に包まれていた。華麗な王宮も占拠されたが、王族はすでに逃亡した後らしい。
「残された一般人全てが無害とは言えないが、抵抗してくる者は留置所送り、無抵抗者には手出し無用だ。ただ、武装蜂起や暴動が起きないよう、注意するようにしろ」
「はっ」
「アルカネットのやつが派手にやらかしたようだから、追い打ちをかける必要はない。今はまだ、このままでいい」
「はい」
「さて、エグザイル・システムに着くまでに、やっておかなければならないことがある。アークラ大将と共に、後のことは任せる」
「承りました!」
ラーシュ=オロフ長官は立ち止まり、ベルトルドに敬礼をして踵を返した。
エグザイル・システムまでの道程には、びっしりと第二正規部隊がガードレールのように列を作っていた。
その真ん中をゆっくりと歩きながら、ベルトルドはキュッリッキをじっと見つめ意識を凝らす。
細い毛糸ほどの太さの光の線が、キュッリッキの身体を包み込み始める。繭を編むような感じで、慎重なスピードで編まれていった。
それは常人の目に見えるものではなかったが、サイ《超能力》を使うルーファスの目には、はっきりと映っていた。
(すげえ……あんな繊細な作業、オレには無理)
キュッリッキは固定され、繭に守られ外部からの如何なる力の影響も受けない。サイ《超能力》による力は、使用者の精神力の大きさに影響される。
キュッリッキを傷つけない、絶対に守り抜く。そう強い意志が光の繭に反映される。ベルトルドの強固な意志が、キュッリッキを守るのだ。
エグザイル・システムの建物に到着する頃には、防御の繭を張り終えていた。
「さすがですね、ベルトルド様」
ベルトルドの横に並びながら、ルーファスが賛辞を述べる。精度といい早さといい完璧な力の使い方だ。
ベルトルドはちらりとルーファスを見ると、フンッと鼻を鳴らした。
「お前にも出来るはずだ。真面目に修行でもしておけ」
「マジっすか…」
「お疲れ様です、閣下」
「うむ、出迎えご苦労、ラーシュ=オロフ長官」
アルイールの港には、第二正規部隊の軍人たちが、濃紺の列を作って到着を出迎えてくれていた。
ラーシュ=オロフ長官は、ベルトルドの腕の中でぐったり眠るキュッリッキに目を向け、表情を曇らせる。
「だいぶ、お加減が悪ようですね」
「怪我のせいで熱を出していてな。無理に連れ帰るからだが…、あともう少しの辛抱だ」
眠っているとはいえ、相当辛いに違いない。
ベルトルドはキュッリッキの額に口づけ、そして歩き出した。ラーシュ=オロフ長官も続く。
「アルイールの制圧は終わったな?」
「はい。ですが、王族と軍を逃しました。申し訳ございません」
「ほう、守るべき民を見捨てて、雲隠れしたのか。呆れた王と軍だな」
嘲笑うように「フンッ」と鼻を鳴らす。ラーシュ=オロフ長官は苦笑した。ベルトルドがこういう輩を毛嫌いしていることを、ラーシュ=オロフ長官はよく知っている。ダエヴァはベルトルドの私兵と揶揄されるほど、親密な関係にあるからだ。
数日前にアルカネットから洗礼を受けた首都アルイールは、都市機能が低下し、火事や爆発が起こって家屋が崩壊、被災地のような光景が至るところに散っていた。挙句ハワドウレ皇国の軍隊に蹂躙され、アルイールを捨てたソレルの軍は何処かへ消え去り、残された国民は不安に包まれていた。華麗な王宮も占拠されたが、王族はすでに逃亡した後らしい。
「残された一般人全てが無害とは言えないが、抵抗してくる者は留置所送り、無抵抗者には手出し無用だ。ただ、武装蜂起や暴動が起きないよう、注意するようにしろ」
「はっ」
「アルカネットのやつが派手にやらかしたようだから、追い打ちをかける必要はない。今はまだ、このままでいい」
「はい」
「さて、エグザイル・システムに着くまでに、やっておかなければならないことがある。アークラ大将と共に、後のことは任せる」
「承りました!」
ラーシュ=オロフ長官は立ち止まり、ベルトルドに敬礼をして踵を返した。
エグザイル・システムまでの道程には、びっしりと第二正規部隊がガードレールのように列を作っていた。
その真ん中をゆっくりと歩きながら、ベルトルドはキュッリッキをじっと見つめ意識を凝らす。
細い毛糸ほどの太さの光の線が、キュッリッキの身体を包み込み始める。繭を編むような感じで、慎重なスピードで編まれていった。
それは常人の目に見えるものではなかったが、サイ《超能力》を使うルーファスの目には、はっきりと映っていた。
(すげえ……あんな繊細な作業、オレには無理)
キュッリッキは固定され、繭に守られ外部からの如何なる力の影響も受けない。サイ《超能力》による力は、使用者の精神力の大きさに影響される。
キュッリッキを傷つけない、絶対に守り抜く。そう強い意志が光の繭に反映される。ベルトルドの強固な意志が、キュッリッキを守るのだ。
エグザイル・システムの建物に到着する頃には、防御の繭を張り終えていた。
「さすがですね、ベルトルド様」
ベルトルドの横に並びながら、ルーファスが賛辞を述べる。精度といい早さといい完璧な力の使い方だ。
ベルトルドはちらりとルーファスを見ると、フンッと鼻を鳴らした。
「お前にも出来るはずだ。真面目に修行でもしておけ」
「マジっすか…」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる