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混迷の遺跡編
episode175
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艦内はもう、大騒ぎである。
あらゆる事態に備えて訓練されている軍人とはいえ、これはマニュアルに載っていない突然の事態だった。サイ《超能力》使いによる仕業というのは、誰もが想像がついた。しかし、どんなにランクの高いサイ《超能力》使いでも、こんな芸当が出来る者など限られている。軍人たちの脳裏に浮かんだのは、自国の副宰相のドヤ顔だった。
ある者はひっくり返り、ある者は書類を撒き散らし、ある者は鍋の中身をぶちまけた。突然の加速に激しい嘔吐感を覚え、口を押さえる者、たまらずその場に吐き出す者、吐瀉物をひっかぶる者など、小さなハプニングが艦内を襲う。
前日、ベルトルドの空間転移によって、一瞬で惑星の反対側にあるソレル王国の海域に到着した第二正規部隊の海兵たちは、それだけでも驚きまくっていたのに、今度はこれである。
――自国(ウチ)の副宰相とんでもねえええええっ!!
皆、ベルトルドの尊大(いだい)さを痛感したのであった。
本来2時間かかる航程が、僅か30分でアルイールの港に到着してしまった。
当然有り得ないスピードなので、艦内の乗員たちは殆どの者が酷い船酔いに目を回し、起き上がることさえ出来ずにいた。
ベルトルドは静かに船首に降り立つと、後ろを振り返り目を丸くした。警護兵たちが皆、ひっくり返っていたからだ。
「ふむ、鍛え方が足らんな、この青二才ども」
忌々しそうにベルトルドは鼻を鳴らす。そして腕の中のキュッリッキに、優しく微笑んだ。
「さあ、イララクスに帰ろうな」
ベルトルドはひっくり返っている警護兵たちを容赦なく踏みつけ、艦内へと入っていく。そして食堂へと向かった。
「正規部隊の連中は、もっとキツイ訓練を課さないと、無駄飯喰らいの給料泥棒のままだな。俺が超絶スペシャルメニューを考えてやろう。ウン、総帥になったしな、そのくらいの世話は焼いてやらねば」
この独り言を聞いたら、誰もが血反吐を撒き散らして止めてくれるように頼むだろう。そのくらい想像の付きそうな、イヤな思考回路だった。
「アルイールに着いたぞ、貴様ら」
食堂に入り、皆に向けて元気いっぱいに声をかけると、ベルトルドは不思議そうに首をかしげた。
「何をしてる?」
テーブルにしがみついて突っ伏しているライオン傭兵団は、顔だけをベルトルドへ向ける。
「は…、早いっすね……」
ギャリーは鼻水をすすりながら、疲れたように笑った。
「30分で着いたからな。感動の涙を垂れ流して、心の底から大感謝するがいい!」
誰も感謝しそうもない雰囲気を気にもせず、ベルトルドはドヤ顔だった。
「あれー、ベルトルド様、元気っすね~」
露骨に船酔いしてますと表情に書き込んだルーファスが、食堂によろよろ姿を現した。
「馬鹿者、ナンパして回ってたのか」
「いやあ…、ナンパどころじゃなかったっすケドネ…うっぷ…」
口を押さえ、ルーファスは顔を青ざめさせた。
「鍛え方が足りないぞ貴様らは。ったく、そら、とっとと帰るぞ」
ベルトルドは顎をしゃくり、食堂を出て行く。
「我々も……行きますか…」
真っ青な顔でカーティスが立ち上がると、皆立ち上がってフラフラと食堂を出る。
「ハドリー……あたしたちって、凄い人と一緒にいるのね…」
ファニーは青ざめた顔で、げっそりとこぼした。
「一生に一度しか体験できねーだろうな、こんなの」
軽く息を吐いて、ハドリーは立ち上がった。
あらゆる事態に備えて訓練されている軍人とはいえ、これはマニュアルに載っていない突然の事態だった。サイ《超能力》使いによる仕業というのは、誰もが想像がついた。しかし、どんなにランクの高いサイ《超能力》使いでも、こんな芸当が出来る者など限られている。軍人たちの脳裏に浮かんだのは、自国の副宰相のドヤ顔だった。
ある者はひっくり返り、ある者は書類を撒き散らし、ある者は鍋の中身をぶちまけた。突然の加速に激しい嘔吐感を覚え、口を押さえる者、たまらずその場に吐き出す者、吐瀉物をひっかぶる者など、小さなハプニングが艦内を襲う。
前日、ベルトルドの空間転移によって、一瞬で惑星の反対側にあるソレル王国の海域に到着した第二正規部隊の海兵たちは、それだけでも驚きまくっていたのに、今度はこれである。
――自国(ウチ)の副宰相とんでもねえええええっ!!
皆、ベルトルドの尊大(いだい)さを痛感したのであった。
本来2時間かかる航程が、僅か30分でアルイールの港に到着してしまった。
当然有り得ないスピードなので、艦内の乗員たちは殆どの者が酷い船酔いに目を回し、起き上がることさえ出来ずにいた。
ベルトルドは静かに船首に降り立つと、後ろを振り返り目を丸くした。警護兵たちが皆、ひっくり返っていたからだ。
「ふむ、鍛え方が足らんな、この青二才ども」
忌々しそうにベルトルドは鼻を鳴らす。そして腕の中のキュッリッキに、優しく微笑んだ。
「さあ、イララクスに帰ろうな」
ベルトルドはひっくり返っている警護兵たちを容赦なく踏みつけ、艦内へと入っていく。そして食堂へと向かった。
「正規部隊の連中は、もっとキツイ訓練を課さないと、無駄飯喰らいの給料泥棒のままだな。俺が超絶スペシャルメニューを考えてやろう。ウン、総帥になったしな、そのくらいの世話は焼いてやらねば」
この独り言を聞いたら、誰もが血反吐を撒き散らして止めてくれるように頼むだろう。そのくらい想像の付きそうな、イヤな思考回路だった。
「アルイールに着いたぞ、貴様ら」
食堂に入り、皆に向けて元気いっぱいに声をかけると、ベルトルドは不思議そうに首をかしげた。
「何をしてる?」
テーブルにしがみついて突っ伏しているライオン傭兵団は、顔だけをベルトルドへ向ける。
「は…、早いっすね……」
ギャリーは鼻水をすすりながら、疲れたように笑った。
「30分で着いたからな。感動の涙を垂れ流して、心の底から大感謝するがいい!」
誰も感謝しそうもない雰囲気を気にもせず、ベルトルドはドヤ顔だった。
「あれー、ベルトルド様、元気っすね~」
露骨に船酔いしてますと表情に書き込んだルーファスが、食堂によろよろ姿を現した。
「馬鹿者、ナンパして回ってたのか」
「いやあ…、ナンパどころじゃなかったっすケドネ…うっぷ…」
口を押さえ、ルーファスは顔を青ざめさせた。
「鍛え方が足りないぞ貴様らは。ったく、そら、とっとと帰るぞ」
ベルトルドは顎をしゃくり、食堂を出て行く。
「我々も……行きますか…」
真っ青な顔でカーティスが立ち上がると、皆立ち上がってフラフラと食堂を出る。
「ハドリー……あたしたちって、凄い人と一緒にいるのね…」
ファニーは青ざめた顔で、げっそりとこぼした。
「一生に一度しか体験できねーだろうな、こんなの」
軽く息を吐いて、ハドリーは立ち上がった。
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