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混迷の遺跡編
episode174
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ゆるやかな潮風にマントをなびかせ、腕にはキュッリッキを抱いたまま、ベルトルドは船首に立って海を眺めていた。
「青く綺麗な海だぞ、リッキー。このあたりはタハティ海域と言って、星屑を散りばめたようにキラキラとしているんだ。今度、ゆっくり見に来ような…」
腕の中のキュッリッキは、ぐったりとして目を閉じている。白い頬には僅かに赤みがさしていて、再び熱が出てきているようだった。
「怖かっただろうに。本当に、生きていてくれて良かった」
ベルトルドはキュッリッキの額に、愛おしさを込めて何度もキスをした。
キュッリッキの僅かな記憶から読み取れた、醜悪で恐ろしい姿の怪物。何故あんなものが突如現れ、キュッリッキを襲ったのか見当がつかない。
漁港への移動中に、ケレヴィルの研究者たちから色々と報告を受けたが、怪物など一度も出ず、遺跡にも変化はなかったというではないか。
神殿に飛び込んだキュッリッキが、たまたま仕掛けを発動させてしまったのではと、研究者たちも頭を抱えていた。しかし、その仕掛けすら見つけ出していなかったのだ。ただ、シ・アティウスが何かしらの見当をつけたようだったので、戻ってきたら早速報告させようと考えている。
「俺の最愛のリッキーに、こんな真似をしてくれたのだからな。絶対に、許さんぞ」
カーティスからキュッリッキが負傷した連絡を受けたとき、ベルトルドは肝が冷えて言葉を失うくらい動揺した。目の前が一瞬真っ白になるくらいに。
あんなに愛くるしい笑顔を浮かべた、輝くような美しい少女が、見るに堪えないほどの惨い姿に成り果てて苦しんでいた。
幸い命を取り留め、今こうして腕に抱いている。
手術は成功したものの、まだ予断を許さない状態にあるのは確かだ。一刻も早く、屋敷に連れ帰り、傷ついたこの身体をゆっくりと休ませたい。病院などではなく、己の屋敷で。
「なのに、だっ!」
ベルトルドはキッと顔を上げ、水平線を睨みつける。
「遅い!!!」
吠えるように突如声を張り上げた。
警護のために、少し離れた後方に待機していた5人の軍人たちは、ビクッと身体を震わせた。
「まどろっこしい、ああ、まどろっこしいわ!」
ベルトルドは船首の上に僅かに浮き上がると、顎を引いて眉を寄せた。
すると、艦が激しく振動しだし、ほんの少し船尾が沈んで、船首が僅かに浮き上がる。
その様子を艦橋で見ていたアークラ大将は、汗ばみ苦笑を浮かべると、シートに深く座り直した。
「みんな、しっかり何かに捕まっておけよ。くるぞ」
アークラ大将が周囲に注意を促した途端、巨大な艦が有り得ないスピードで加速し始めた。思わず後ろの背もたれに、身体が押し付けられる。
加速の影響で胸にのしかかる圧迫感に、アークラ大将は心の中で部下たちに詫びる。
(先にこのことを説明するのを忘れていたな…すまん)
艦内の食堂で冷たい飲み物を振舞われていたライオン傭兵団は、突然艦が振動し、傾いたことで悪い予感を覚えた。
「やっべーなコレ」
「こんなことできるの、ベルトルド様しか…」
みんなテーブルにしがみつき、このあとに来ることを予測して身体を伏せた。
「おい、ルーはどうした?」
「ナンパしにいってますよ」
「んじゃほっとけばいいか。おい、ねーちゃんと髭のにーちゃん」
慌てているファニーとハドリーに、ギャリーが身振りで声をかける。
「さっきみたいに、いきなり加速し出すから、テーブルにしっかり掴まっとけよ」
「ええっ!?」
「マジすか…」
そう言った途端に、グンッと身体が揺れ、前方から圧迫感が迫ってきた。
「あわわわわっ」
ハドリーは慌てて、しっかりテーブルにしがみついた。
「青く綺麗な海だぞ、リッキー。このあたりはタハティ海域と言って、星屑を散りばめたようにキラキラとしているんだ。今度、ゆっくり見に来ような…」
腕の中のキュッリッキは、ぐったりとして目を閉じている。白い頬には僅かに赤みがさしていて、再び熱が出てきているようだった。
「怖かっただろうに。本当に、生きていてくれて良かった」
ベルトルドはキュッリッキの額に、愛おしさを込めて何度もキスをした。
キュッリッキの僅かな記憶から読み取れた、醜悪で恐ろしい姿の怪物。何故あんなものが突如現れ、キュッリッキを襲ったのか見当がつかない。
漁港への移動中に、ケレヴィルの研究者たちから色々と報告を受けたが、怪物など一度も出ず、遺跡にも変化はなかったというではないか。
神殿に飛び込んだキュッリッキが、たまたま仕掛けを発動させてしまったのではと、研究者たちも頭を抱えていた。しかし、その仕掛けすら見つけ出していなかったのだ。ただ、シ・アティウスが何かしらの見当をつけたようだったので、戻ってきたら早速報告させようと考えている。
「俺の最愛のリッキーに、こんな真似をしてくれたのだからな。絶対に、許さんぞ」
カーティスからキュッリッキが負傷した連絡を受けたとき、ベルトルドは肝が冷えて言葉を失うくらい動揺した。目の前が一瞬真っ白になるくらいに。
あんなに愛くるしい笑顔を浮かべた、輝くような美しい少女が、見るに堪えないほどの惨い姿に成り果てて苦しんでいた。
幸い命を取り留め、今こうして腕に抱いている。
手術は成功したものの、まだ予断を許さない状態にあるのは確かだ。一刻も早く、屋敷に連れ帰り、傷ついたこの身体をゆっくりと休ませたい。病院などではなく、己の屋敷で。
「なのに、だっ!」
ベルトルドはキッと顔を上げ、水平線を睨みつける。
「遅い!!!」
吠えるように突如声を張り上げた。
警護のために、少し離れた後方に待機していた5人の軍人たちは、ビクッと身体を震わせた。
「まどろっこしい、ああ、まどろっこしいわ!」
ベルトルドは船首の上に僅かに浮き上がると、顎を引いて眉を寄せた。
すると、艦が激しく振動しだし、ほんの少し船尾が沈んで、船首が僅かに浮き上がる。
その様子を艦橋で見ていたアークラ大将は、汗ばみ苦笑を浮かべると、シートに深く座り直した。
「みんな、しっかり何かに捕まっておけよ。くるぞ」
アークラ大将が周囲に注意を促した途端、巨大な艦が有り得ないスピードで加速し始めた。思わず後ろの背もたれに、身体が押し付けられる。
加速の影響で胸にのしかかる圧迫感に、アークラ大将は心の中で部下たちに詫びる。
(先にこのことを説明するのを忘れていたな…すまん)
艦内の食堂で冷たい飲み物を振舞われていたライオン傭兵団は、突然艦が振動し、傾いたことで悪い予感を覚えた。
「やっべーなコレ」
「こんなことできるの、ベルトルド様しか…」
みんなテーブルにしがみつき、このあとに来ることを予測して身体を伏せた。
「おい、ルーはどうした?」
「ナンパしにいってますよ」
「んじゃほっとけばいいか。おい、ねーちゃんと髭のにーちゃん」
慌てているファニーとハドリーに、ギャリーが身振りで声をかける。
「さっきみたいに、いきなり加速し出すから、テーブルにしっかり掴まっとけよ」
「ええっ!?」
「マジすか…」
そう言った途端に、グンッと身体が揺れ、前方から圧迫感が迫ってきた。
「あわわわわっ」
ハドリーは慌てて、しっかりテーブルにしがみついた。
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