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混迷の遺跡編
episode170
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各々夫妻への挨拶が済むと、最後にヴィヒトリが病院から出てきた。包帯でぐるぐる巻かれて、動けないザカリーの診察をしてきたようだった。
頑丈な板が用意されそこに布団がのべられると、ベルトルドはその上にそっとキュッリッキを寝かせた。即席の担架だ。
そのまま抱いていってもよかったが、抱き上げられる姿勢は、キュッリッキの身体に余計な負担を強いるため、ベルトルドの指示で担架が用意された。
「東にある漁港に艦を待機させてある。それでアルイールまで出て、エグザイル・システムで飛ぶぞ」
「判りました、んですが…」
「なんだ?」
「アルイールの警戒態勢は大丈夫でしょうか? アルカネットさんが到着した際、ソレル王国兵が、エグザイル・システムの周囲を固めていたとか」
不安そうにカーティスが首をかしげる。
「ふん、それは問題ない。昨日の時点で正規部隊でアルイールは抑えてある」
「え、まさか、皇王様が動いたんですか??」
カーティスは驚いて息を呑む。いつの間にそんな事態になっているのだろうか。
「ん? 言ってなかったか? 俺が全軍総帥の権限を与えられているから、俺の指示だ。あんな昼行灯の能無しボケジジイは関係ナイ」
たっぷりと間があいたあと。
「ナンデスッテーーー!!?」と、その場に複数名の絶叫が轟いた。
深々とベルトルドがため息を吐き出す。
「キャラウェイの禿頭ダルマが逮捕されて、逮捕に貢献したご褒美と称して総帥の地位まで押し付けられた。あの能無しボケジジイ、どんだけ俺の仕事を増やす気でいるんだ全く忌々しい!」
どのみち副宰相の肩書きに毛が生えただけだと、ベルトルドはめんどくさそうに鼻を鳴らした。
ハワドウレ皇国では、軍部の長になる総帥の地位は皇王が兼任している。その下に直接正規軍全体を統括・指揮するために将軍があり、正規軍(正規部隊)には兵士から士官までの階級が存在し、各特殊部隊や組織には長官を置いていた。実際には将軍が動かすが、何かを始める時にはその許可を得るために、総帥である皇王のサインが必要になる。
過去皇王から下々に権限が委ねられることはあったので、けして稀なケースではなかったが、副宰相に委ねられるのは初めてのことらしい。
「副宰相は宰相より忙しいっていうのに、全くあのジジイども…」
国政の長である宰相は高齢で、宰相という地位に座っているだけ。実務自体は副宰相のベルトルドがおこなっていた。
「国政と軍の両方の権限を握ったのかよ」
「鬼に金属バット以上だな…」
「どえらいひとがボスになってるよねえ~アタシたちぃ」
「護衛もなしにこんな辺境まで、よくもまあ堂々と」
ライオン傭兵団の面々はヒソヒソと囁きあった。
「そういうわけだ。いくぞ!」
ベルトルドが担架に手をかざすと、担架はゆっくりと浮き上がった。
見送る側になったマリオンに、ギャリーは手を振る。
「ザカリーのこと頼んだぜ」
「あいよ~!」
アルカネットやマリオンたちに見送られ、一行は出立した。
頑丈な板が用意されそこに布団がのべられると、ベルトルドはその上にそっとキュッリッキを寝かせた。即席の担架だ。
そのまま抱いていってもよかったが、抱き上げられる姿勢は、キュッリッキの身体に余計な負担を強いるため、ベルトルドの指示で担架が用意された。
「東にある漁港に艦を待機させてある。それでアルイールまで出て、エグザイル・システムで飛ぶぞ」
「判りました、んですが…」
「なんだ?」
「アルイールの警戒態勢は大丈夫でしょうか? アルカネットさんが到着した際、ソレル王国兵が、エグザイル・システムの周囲を固めていたとか」
不安そうにカーティスが首をかしげる。
「ふん、それは問題ない。昨日の時点で正規部隊でアルイールは抑えてある」
「え、まさか、皇王様が動いたんですか??」
カーティスは驚いて息を呑む。いつの間にそんな事態になっているのだろうか。
「ん? 言ってなかったか? 俺が全軍総帥の権限を与えられているから、俺の指示だ。あんな昼行灯の能無しボケジジイは関係ナイ」
たっぷりと間があいたあと。
「ナンデスッテーーー!!?」と、その場に複数名の絶叫が轟いた。
深々とベルトルドがため息を吐き出す。
「キャラウェイの禿頭ダルマが逮捕されて、逮捕に貢献したご褒美と称して総帥の地位まで押し付けられた。あの能無しボケジジイ、どんだけ俺の仕事を増やす気でいるんだ全く忌々しい!」
どのみち副宰相の肩書きに毛が生えただけだと、ベルトルドはめんどくさそうに鼻を鳴らした。
ハワドウレ皇国では、軍部の長になる総帥の地位は皇王が兼任している。その下に直接正規軍全体を統括・指揮するために将軍があり、正規軍(正規部隊)には兵士から士官までの階級が存在し、各特殊部隊や組織には長官を置いていた。実際には将軍が動かすが、何かを始める時にはその許可を得るために、総帥である皇王のサインが必要になる。
過去皇王から下々に権限が委ねられることはあったので、けして稀なケースではなかったが、副宰相に委ねられるのは初めてのことらしい。
「副宰相は宰相より忙しいっていうのに、全くあのジジイども…」
国政の長である宰相は高齢で、宰相という地位に座っているだけ。実務自体は副宰相のベルトルドがおこなっていた。
「国政と軍の両方の権限を握ったのかよ」
「鬼に金属バット以上だな…」
「どえらいひとがボスになってるよねえ~アタシたちぃ」
「護衛もなしにこんな辺境まで、よくもまあ堂々と」
ライオン傭兵団の面々はヒソヒソと囁きあった。
「そういうわけだ。いくぞ!」
ベルトルドが担架に手をかざすと、担架はゆっくりと浮き上がった。
見送る側になったマリオンに、ギャリーは手を振る。
「ザカリーのこと頼んだぜ」
「あいよ~!」
アルカネットやマリオンたちに見送られ、一行は出立した。
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