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混迷の遺跡編
episode169
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朝だから熱が下がっているんだろうとドグラスは言ったが、動かすなら今のうちしかない。そうヴィヒトリが判断し、帰還することに決定した。
ライオン傭兵団、ハドリーとファニー、ケレヴィルの研究者たちは、慌ただしく病院前に集まった。
「突然押しかけた上、何日も大勢で泊まり込むことになり、申し訳ありませんでした」
カーティスはウリヤス、マルヤーナ夫妻に深々と頭を下げた。
瀕死の怪我人を連れて真夜中に押しかけ、後からどんどん人を増やし、夫妻だけじゃなくご町内にも迷惑をかけまくりだった。
「困ったときはお互い様です。お嬢さんの怪我、早く治るといいですね」
「はい」
「また遊びに来てちょうだいね。ヴァルトちゃんもお元気で」
「ありがとうおばちゃん! ドーナツいっぱいサンキュ!」
最後の最後までヴァルトはマルヤーナに懐いて甘え、お土産に大量のドーナツを作ってもらってご満悦になっていた。夫妻には子供がいないらしく、ちょっと大きすぎるが、ヴァルトを子供のように思って、マルヤーナは甘えに応えた。
「そのドーナツわけろ」
「ボクも食べたい」
「ヤダかんな!」
美味しそうな匂いを紙袋から漂わせ、ヴァルトは仲間たちの手を払い除けまくっていた。
「明日までに精算させていただきます。本当にありがとうございました」
アルカネットは請求書を作ってもらい受け取ると、折り目正しく頭を下げた。
「アルカネットさん、代金は私の方で」
「いえ、今回はこちらでお支払いするのでいいですよ」
「はあ…」
借りを作りたくないカーティスは、自分の方で支払いをしたかったが、アルカネットは譲るつもりはないようだ。
「リッキーの大恩人だ。倍以上支払ってやれ」
キュッリッキを抱きながら、ベルトルドが病院の中から出てきた。
「もちろん、そのつもりですよ」
「ああ、どうせならキャラウェイの退職金を、全額こちらにお渡ししてもいいくらいだな。どうせアイツは受け取ることもできないし、うん、そうしようか」
意地の悪い笑みを浮かべてベルトルドが言い放つと、
「それは名案ですねえ」
とアルカネットは真顔で頷く。本当にやりかねない2人の表情に、
(哀れな…)
ギャリーはそう思いながらも、実現すればおもしろすぎると真面目に思った。ギャリーも、そして元軍人だったメンバーも、キャラウェイは大嫌いな存在だった。
ベルトルドの腕の中でぐったり眠るキュッリッキに、ウリヤスとマルヤーナは不安そうな顔を向けた。先程まで意識はあったが、再び眠りについている。体力がだいぶ落ちているのだろう、表情が辛そうだ。とても動かせる状態ではないが、それでもキュッリッキは辛くても帰ることを望んでいる。
「元気になってね」
意識のないキュッリッキに、マルヤーナは心からそう願い、囁いた。
ライオン傭兵団、ハドリーとファニー、ケレヴィルの研究者たちは、慌ただしく病院前に集まった。
「突然押しかけた上、何日も大勢で泊まり込むことになり、申し訳ありませんでした」
カーティスはウリヤス、マルヤーナ夫妻に深々と頭を下げた。
瀕死の怪我人を連れて真夜中に押しかけ、後からどんどん人を増やし、夫妻だけじゃなくご町内にも迷惑をかけまくりだった。
「困ったときはお互い様です。お嬢さんの怪我、早く治るといいですね」
「はい」
「また遊びに来てちょうだいね。ヴァルトちゃんもお元気で」
「ありがとうおばちゃん! ドーナツいっぱいサンキュ!」
最後の最後までヴァルトはマルヤーナに懐いて甘え、お土産に大量のドーナツを作ってもらってご満悦になっていた。夫妻には子供がいないらしく、ちょっと大きすぎるが、ヴァルトを子供のように思って、マルヤーナは甘えに応えた。
「そのドーナツわけろ」
「ボクも食べたい」
「ヤダかんな!」
美味しそうな匂いを紙袋から漂わせ、ヴァルトは仲間たちの手を払い除けまくっていた。
「明日までに精算させていただきます。本当にありがとうございました」
アルカネットは請求書を作ってもらい受け取ると、折り目正しく頭を下げた。
「アルカネットさん、代金は私の方で」
「いえ、今回はこちらでお支払いするのでいいですよ」
「はあ…」
借りを作りたくないカーティスは、自分の方で支払いをしたかったが、アルカネットは譲るつもりはないようだ。
「リッキーの大恩人だ。倍以上支払ってやれ」
キュッリッキを抱きながら、ベルトルドが病院の中から出てきた。
「もちろん、そのつもりですよ」
「ああ、どうせならキャラウェイの退職金を、全額こちらにお渡ししてもいいくらいだな。どうせアイツは受け取ることもできないし、うん、そうしようか」
意地の悪い笑みを浮かべてベルトルドが言い放つと、
「それは名案ですねえ」
とアルカネットは真顔で頷く。本当にやりかねない2人の表情に、
(哀れな…)
ギャリーはそう思いながらも、実現すればおもしろすぎると真面目に思った。ギャリーも、そして元軍人だったメンバーも、キャラウェイは大嫌いな存在だった。
ベルトルドの腕の中でぐったり眠るキュッリッキに、ウリヤスとマルヤーナは不安そうな顔を向けた。先程まで意識はあったが、再び眠りについている。体力がだいぶ落ちているのだろう、表情が辛そうだ。とても動かせる状態ではないが、それでもキュッリッキは辛くても帰ることを望んでいる。
「元気になってね」
意識のないキュッリッキに、マルヤーナは心からそう願い、囁いた。
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