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混迷の遺跡編
episode168
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すっかり静まり返った真夜中、キュッリッキはフッと目が覚めた。薬と睡眠の効果で、今は少し気分が落ち着いている。苦しくなかった。
月明かりだけの薄暗い部屋で目だけを動かすと、左右にアルカネットとベルトルドを見つけた。
2人共腕を組んだまま、俯いてよく眠っている。
ベルトルドの寝顔を見つめ、少し話がしたいな、と思った。特に何か話したいことがあるわけじゃないが、なんとなく、そんな風に思っただけだ。
顔を仰向けに戻すと、薄暗い天井を見つめる。
1年前に風邪をこじらせて熱を出し、ハーツイーズのアパートで寝込んだことがあった。その時もこうして、ハドリーが夜通し付き添ってくれたことがある。
あの時も夜中に目が覚めると、椅子にもたれかかってハドリーは眠っていた。仕事明けで疲れていたのに、必死に看病してくれた。朝まで起きてるからと言い張っていたのに、結局寝てしまっていたが、そばに誰かいることが、病気の時にはなんと心強いのかとしみじみ噛み締めた。
その時のことを思い出し、ベルトルドと話がしたいと思ったのは、今、ほんの少し心細い気がしているからだと気づく。
キュッリッキは自分から素直に甘えることができない。
ハーツイーズのアパートにいた頃は、ハドリーや”おばちゃんズ”が、向こうから甘えさせてくれた。甘えたいな、という雰囲気を漂わせていると、察してくれたのだ。
そこを巣立った今、甘えたければ自分から相手に訴えるしかない。
ベルトルドもアルカネットも、甘えさせてくれそうな雰囲気を悶々と漂わせてくるが、まだ知り合って間もないし、とくにベルトルドは副宰相という偉い人だ。それにライオン傭兵団の後ろ盾でもある。
そんな人に、心細いから、起きて少し話をしてほしい、などとは言えない。
ただでさえ忙しい中駆けつけてくれて、とても疲れているだろうに、ベッドに横にならず、そばに付き添ってくれているのだ。それだけでも感謝しなくてはいけない。
(アタシが勝手に怪我しただけなのに…)
警戒していたはずの神殿に飛び込んだ結果、大怪我をしたのは自ら招いたことだから。大迷惑をみんなにかけて、それなのに、色々よくしてくれている。
じゅうぶん甘えさせてくれているのだ。
もう一度2人を交互に見る。
自分よりもずっとずっと大人の2人に、しっかりと守られている。それを実感しながら、キュッリッキはそっと微笑むと、眠気に誘われるまま目を閉じた。
「熱は……、37度ちょっとか。下がってますね」
ヴィヒトリは体温計を見て、キュッリッキの額に掌をあてた。
「この俺がそばにいて看病していたおかげだな」
「何もせず寝ていたでしょう。私の看病の賜物です」
「2人とも朝までぐっすりでしたよ…」
ヴィヒトリのサラッとしたツッコミに、ベルトルドとアルカネットの顔が、ギクリと歪む。
「そばにいてくれて、ありがとう、ベルトルドさん、アルカネットさん」
やや苦笑気味に言いながら、キュッリッキが嬉しそうな目を2人に向けた。
「リッキーさんっ!」
「なんて良い子だリッキー!!」
ガバッと飛びつきそうな2人を、ヴィヒトリが慌てて止める。
「落ち着いてくださいよっ! 怪我人なんですから」
ムスッと口を尖らせる中年2人に、ヴィヒトリは内心特大の溜め息をついていた。
「一刻も早く、リッキーを抱きしめられるように治療しろ。金ならいくらでも出してやる」
「善処します…」
今度は口で、大きく溜め息をついた。
月明かりだけの薄暗い部屋で目だけを動かすと、左右にアルカネットとベルトルドを見つけた。
2人共腕を組んだまま、俯いてよく眠っている。
ベルトルドの寝顔を見つめ、少し話がしたいな、と思った。特に何か話したいことがあるわけじゃないが、なんとなく、そんな風に思っただけだ。
顔を仰向けに戻すと、薄暗い天井を見つめる。
1年前に風邪をこじらせて熱を出し、ハーツイーズのアパートで寝込んだことがあった。その時もこうして、ハドリーが夜通し付き添ってくれたことがある。
あの時も夜中に目が覚めると、椅子にもたれかかってハドリーは眠っていた。仕事明けで疲れていたのに、必死に看病してくれた。朝まで起きてるからと言い張っていたのに、結局寝てしまっていたが、そばに誰かいることが、病気の時にはなんと心強いのかとしみじみ噛み締めた。
その時のことを思い出し、ベルトルドと話がしたいと思ったのは、今、ほんの少し心細い気がしているからだと気づく。
キュッリッキは自分から素直に甘えることができない。
ハーツイーズのアパートにいた頃は、ハドリーや”おばちゃんズ”が、向こうから甘えさせてくれた。甘えたいな、という雰囲気を漂わせていると、察してくれたのだ。
そこを巣立った今、甘えたければ自分から相手に訴えるしかない。
ベルトルドもアルカネットも、甘えさせてくれそうな雰囲気を悶々と漂わせてくるが、まだ知り合って間もないし、とくにベルトルドは副宰相という偉い人だ。それにライオン傭兵団の後ろ盾でもある。
そんな人に、心細いから、起きて少し話をしてほしい、などとは言えない。
ただでさえ忙しい中駆けつけてくれて、とても疲れているだろうに、ベッドに横にならず、そばに付き添ってくれているのだ。それだけでも感謝しなくてはいけない。
(アタシが勝手に怪我しただけなのに…)
警戒していたはずの神殿に飛び込んだ結果、大怪我をしたのは自ら招いたことだから。大迷惑をみんなにかけて、それなのに、色々よくしてくれている。
じゅうぶん甘えさせてくれているのだ。
もう一度2人を交互に見る。
自分よりもずっとずっと大人の2人に、しっかりと守られている。それを実感しながら、キュッリッキはそっと微笑むと、眠気に誘われるまま目を閉じた。
「熱は……、37度ちょっとか。下がってますね」
ヴィヒトリは体温計を見て、キュッリッキの額に掌をあてた。
「この俺がそばにいて看病していたおかげだな」
「何もせず寝ていたでしょう。私の看病の賜物です」
「2人とも朝までぐっすりでしたよ…」
ヴィヒトリのサラッとしたツッコミに、ベルトルドとアルカネットの顔が、ギクリと歪む。
「そばにいてくれて、ありがとう、ベルトルドさん、アルカネットさん」
やや苦笑気味に言いながら、キュッリッキが嬉しそうな目を2人に向けた。
「リッキーさんっ!」
「なんて良い子だリッキー!!」
ガバッと飛びつきそうな2人を、ヴィヒトリが慌てて止める。
「落ち着いてくださいよっ! 怪我人なんですから」
ムスッと口を尖らせる中年2人に、ヴィヒトリは内心特大の溜め息をついていた。
「一刻も早く、リッキーを抱きしめられるように治療しろ。金ならいくらでも出してやる」
「善処します…」
今度は口で、大きく溜め息をついた。
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